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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
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07話 情報通は好かれない

 一時期村を離れたものの、盗賊を排除し終えたのであればまた村は再利用される。彼らも火を放って使い物にならなくしたり、そこに住み着き住人の代わりになることが目的ではなくほとんどの場合は女や物資の確保の方が主目的だろう。なので住民が逃げ、盗賊たちも物資の確保くらいしかできない村にそこまでこだわることもなく、なんとか逃げおおせた……のは一時的で、盗賊に関する動きがかなり手早かったからか、盗賊への対処が的確だったからか、あるいは盗賊が村から得ることのできたものがそれほどではなかったからか、理由は定かではない者の盗賊たちは退治された。

 村人たちが戻ったのち、村は普通に村としての生活が再開される。もっとも、村人も全員が逃げおおせたというわけではないし、村の中にある物資も幾らか失われ、場所によっては壊されたりもしている。そういった損失に対し補填されるようなことはない。まあ、ある程度は考慮されるかもしれないがそもそも盗賊をどうにかするということ自体が村人に対しての対応なのだから損失の補填まで気にするのも違うのかもしれない。もしくはそもそも村人が盗賊に対応するべきだと考えているからか。村人で対処できないから頼みに来るわけであるが、村のことは村で、街のことは街で、という考え方などがあるなら盗賊退治のための戦力の派遣は余計な労力である。そこでさらに補填まで求められるのはおかしいだろう。まあ、そうならば、ということになる。そのあたりどういう考えなのかは……その近辺の情勢によるのかもしれない。


 と、まあ、村は村で色々とあるのだが、問題そのものは解決して順当に生活は元に戻っている。とはいえ、変わったところは大きく変わっている。

 アーシュの生活も、結構大きく変わった。これに関しては街で色々とおこなっていたアーシュの能力がある程度知られてしまったというのが大きい。アーシュはいろいろと声に関することや音に関することができるわけであるが、その耳の能力も高い。遠くの音を聞けるし、些細な音も拾えるし、壁越しでもある程度の音を収集できる。つまり狭い村で話されていること、行っている行動など、それらの情報がアーシュに対しては筒抜けなのである。つまり秘密にしたいことでもアーシュは音を通してそのほとんどすべてを知っている。その事実を知っているとアーシュの扱いは実に難しくなる。

 すべてを知られる、ということは悪だくみのことも知られるし、隠しごとも知られるし、不穏な問題も知るということ。それをアーシュが知っているからとアーシュをどうにかしようとしてもそれすらアーシュは知り得る。もちろん村から離れた場所でアーシュが聞こえないように話すという手もあるだろうが、やはり村における行動に関して知られるとなると厄介な点は多い。そもそもアーシュを襲おうとしてもその前にアーシュの方が逃げる能力としては高い。アーシュはその行動能力が極めて高く、身体能力……特に持久力が極めて高い。運動能力も決して低いわけではなく、またその音を聞く、音を発する能力性からそれを利用した活動もできる。つまりアーシュ自身が誰かに知らせようと思えばできる、村全体に自分を襲う存在について知らせることができるということだ。

 そのほか、アーシュはいろいろと特殊な能力を持つ。まあ、そのすべてが知られているわけであないが、街の中でやっていたような情報収集能力がある時点で色々な意味でアーシュは取り扱いが難しいのである。


 そういうこともあって、アーシュがある程度成長した時点で一つの提案が親からされる。







「なあ、アーシュ」

「……なに?」

「村の外に出てみるつもりはないか?」

「えっと……どういうこと?」

「いや、アーシュはかなり凄い能力を持つだろう? こんな小さな村で一生過ごすよりも、冒険者にでもなったほうが大成するかと思ってな」


 と、言う内容でのアーシュの村の外への追い出しである。アーシュの能力について知ってしまうとどうしても狭いコミュニティ、そこに住む全員が知り合いという環境ではどうしてもその取り扱いが難しいことになっている。しかしそれは狭いコミュニティだから、全員が知り合いだから問題なわけであり、そしてアーシュのことをよく知っている人間ばかりだから問題になるということである。ならば単純な話、アーシュのことを知らない人間がいるところに行けばいい。

 これに関して言えば、アーシュと村人の追いかけっこ……という名の排除になる前にアーシュを外に出すことで村に平穏を、という意図がある。このままアーシュが何もかもを知ったまま育つのを、様々な秘密を持つ、誰にも秘密を教えたくない多くの村人が放置するかと言えば正直言って怪しいだろう。ゆえに今の内に外に出て安全を、という意図がある。まあ、実際のところは追い出したい気持ちの方が強い。しかしアーシュに対して恩がないというわけでもないし、そもそもいろいろな意味でアーシュが悪いわけでもない。またその能力自体は有用性はいろいろな意味で高いだろう。


 そういうことでアーシュは村の外に出ること、外に出て冒険者の活動をすることを両親と話し合う。両親としてもアーシュの扱いに関して、村の中で過ごすのはこれ以上は厳しい、アーシュに対する攻撃が発生するようになるのではと思っている状態でのその話である。しかし、両親としても息子を村の外に、村から追いやるということには複雑な心境を持つ。

 とはいえ、狭い村社会、全員が知り合いで身内のような場所ではそういった提案を蹴ること自体排斥されるような危険がある。そしてアーシュ自身自分のやりたいこととして提案するのであれば、それを否定するのも違う。アーシュ自身どちらかというと積極的に言いだしたのだから、それはアーシュがしっかりとやりたい事なのだろう。そう思いアーシュの両親はそれを認めた。


 まあ、アーシュがそれを理解していないはずがない。アーシュはすべてを聞き、理解し受け入れたうえで、村の外に出ることを選んだ。両親にも迷惑をかけたくないし、村にいて面倒になるのも嫌だ。そしてアーシュ自身、やりたいことがあった。音楽関係のこと、そちらの方面。元々の目的とは違うが、せっかくこちらに来るときにもらった能力があるのだから、それを最大限活用できるようにしたい。ゆえにアーシュはいろいろな事情も含めたうえで外に出ることを選んだのである。

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