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フェリシア達、およびその従者の住む家は他の家よりも大きい。まあ、そもそも従者がいるのであるから当然である。そもそも貴族の家という者は基本的にその権威を象徴する者であり、また外部からの客を迎えるための場所でもある。そして貴族の持つお金を消費する意味合いでも使われる。お金を貯めると言うのは決して悪いことではないが、富を流動させることもまた必要だ。とはいえ、あくまでそれは金銭としてであり、貴族は元々持っていた金銭に相当する財貨を獲得するわけである。宝石とか、高価な壺とかそういう物を。
とはいえ、この開拓領地においては建物を建てる事自体大変で、富の流動なども行われない。そもそもからして必要ないわけであるのだが。現状の開拓領地においてはそもそもお金なんて得る機会もなく、使う機会もなく、物々交換の段階ともいえるくらいの状況下である。それなのに大きな家を建てて、と思う所でもあるが、これに関しては賢哉が魔法で短い時間で建てたもの、大きいと言ってもあくまでフェリシア含む従者をまとめて入れる場所、単純に言って仮住まいの住居である。
開拓領地はいまだ狭く、もっと大きく、もっと広く、領地そのものを広げ建物を建てるべきだ。中心地にするべきか、それとも一番奥にするべきか、そのあたりは迷う所であるだろう。まあ、それ以前に広げていく方が重要である。そのために賢哉は活動しているわけなのだから。と、そんな彼の活動であるが、レッセルとも話した通りフェリシアのこの領地の展望、どういう方面で発展させるのか、それに関してのものが必要になるのである。賢哉が徒に領地を広げる、大きくするだけの開拓を行っても構わない所であるが、切った木の利用、どの方向に領地を広げるのか、領地の形、範囲、いろいろとフェリシア側にも意見があるだろう。まあ、そもそもからしてフェリシアは今のところ領地をうまくまとめると言う段階にすら到達していないのでどうしようもない面もある。
とはいえ、レッセルとの話もあり、今回賢哉がフェリシアと話し合いをし決めることで、いくらか発展と開発の方向性が決まれば一応レッセルたちとの協力関係も築けるかもしれない。それに、彼らと協力しあうことになり、上手く領地を育てて良ければ彼らも自分からフェリシアの統治に入ってくれるかもしれない。と、まあそういう状況が今のところの彼女たちの現状であるということになる。
「領地の開発の方針、ですか」
「そうだ。今のところとりあえず大きくする形で領地を広げてるが、単に大きくするだけでいいのかって話になる。ま、小さいよりはいいかもしれないが……あまり無駄に大きくしすぎても管理できないだろう? 今のところフェリシアには従者しかいない。仕事を頼める部下もいないし、税を納めてくれるような民もいない。この家で家の中の仕事しかできない従者たちだけだ。その状態でやってけるのか?」
「それは……」
「厳しいですね。お嬢様だけでできることには限度があります。そもそもお嬢様がやるにしても、初めての事柄も多い……この開拓領地自体いままで誰もまとめてきていない。現状を把握し、それをまとめるだけでも大変な作業でしょう」
「ま、確かに。そもそも流入の管理とかできてるのか?」
「できていません。見張りもおらず、畑を作って辛うじて生き延びている……というのが現状の様ですし。誰がどこに住んで、いつ入ってきていついなくなったのか、全くと言っていいほど把握できていない。逆に言えば、現在の状態さえまとめられればそれを最初の記録にできると言うことでもありますが……」
「彼らに話をしたのですが、あまりいい解答を得られていないのです……」
現状フェリシアがこの開拓領地にいても、特にこれと言って恩恵が得られない。だから今のところ彼らも特に積極的に協力しようと言う気にはならない。賢哉がいくらか開拓しているのは止めないが、それだって彼らに被害が出てくるようならば賢哉およびフェリシアの方に文句を言いに行ったことだろう。
「そこなんだが、実はここのまとめ役らしい男に会ってな」
「……レッセルさんですか?」
「ああ」
「彼には私達の方からも話を幾らかしたのですが、いい返事は頂けていません。ケンヤ様の方に話を?」
「直接開拓に参加しているのは俺なわけだからな。別にフェリシア達が参加しないのが悪いってわけじゃないが、行動が見えないから何をやっているかわからないってのもあるかもな。俺の場合目に見えて開拓をやって領地を広げているのが分かるわけで」
「……ケンヤ様は凄いですね。私にはケンヤ様の様にはできません」
フェリシアが羨望の眼差しで賢哉を見る。彼女にとっては特に何も仕事ができていない状態、貴族として役に立てない立っていないという状態である。しかし賢哉は自分の力でしっかりと仕事ができている。フェリシア達との調整はまったくと言って行われていないが、そもそも現状彼女らに何もできない状態である。そういう意味では賢哉は何をやってもいいと言うわけでもある。まあ、今はその方針自体を聞いているわけであるが。
「フェリシアにはフェリシアのやるべきことがあるだろ。ここは領地でフェリシアは貴族だ。まあ今はこんな状態でまともに運営もできないが、いるのといないのでは大きく違う。貴族という権威そのものがある種必要になることだってある。俺も、フェリシアに使えている状態でなければそこまで無理なことはしないしな。それで、方針なんだが……」
「えっと……アミル?」
「今のところ、領地は広げていくのがよろしいでしょう。ですが、先ほど言った通りあまり大きくしすぎても管理ができません。そもそも人がいないのですから大きくしたところで土地が余ることになる。その土地が放置されるようでは広げた意味がありませんからね」
「耕せる土地がある、というのは一種の売り文句にはなるかもしれないな。だけど荒れ地だけ増えた所で意味はない。まあ、それはいいが。ってことは、あまり大きくしない方面にした方がいいか」
「はい。いくらか領地の形……とはいっても、あまり大きくしないのであればそこまで気にする必要もありませんか? どうでしょうか」
「ど、どうでしょう……あまり領地の形というものを意識したこともないですから」
「まあ、その辺りはいいだろう。ある程度広げてから建物を作るなりしながら整えても構わないだろうし。大きさ……開拓に関してはどこまで?」
「今の所はそこまで気にしなくてもいいと思いますが……そうですね、こちらとしても一度確認したほうがいいかもしれません。開拓の状況や周辺の状況を。ここで書類を見ていてもわからないこともありますし」
「視察ですね……そういうのは初めてですので上手くできるかわかりませんが」
一度開拓の状況をフェリシアとアミルで見に行く、そういう方面の話になる。まあ、実際にフェリシア達が見てみないと判断はしづらいだろう。
「……あ、そうです」
「どうしました?」
「ケンヤ様」
「はいはい」
「この地において、私は領主としての立場があります。ですが、いざという時に私の代わりに慣れる人が必要だと思います」
「まあ……そうだろうな」
「なので、ケンヤ様を副領主に任命します」
「はい?」
「え?」
「いざという時、私の意見無しでも判断できる方が、ケンヤ様としては動きやすいでしょう? この地の民とは、ケンヤ様の方が私よりも話しやすく、仲が良いようですし、その方が都合がいいかと」
「いやいやいや!?」
「ちょっと待ってくださいお嬢さま?!」
突然のフェリシアの賢哉を副領主にする発現に戸惑い、流石に止める二人。この後、色々と言葉を尽くしてみたが、フェリシアが賢哉を副領主にすることは止められないようで、彼女の意思はとても固く無理やり賢哉の副領主就任が決まってしまう。なお、そのことに関して困っているのは本人である。




