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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
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00-2話 『異世界』転生をしてしまった

「とりあえず、転生する際に願いを……欲しい特殊能力などを聞くことになっているのですが! 何が欲しいですか! そういう願いがあるからこそ、ここにこうしてあなたが来ているわけですし!」

「ええっと……」


 世界の理、神様がこの場所に魂を誘引する過程において、基本的なルールが存在する。例えば転生をする場合、それを願っている、願望として存在する者、またはこの世界ではかなわない願いを有している者でなければいけないと言うルールが存在する。これは神の勝手な行いで人を殺し他の世界に送り出す、転生させるなどをさせないようにさせるためだ。本人の願望をきっかけにしなければルール違反として大きな罰則を与える。そうでなければ神の行いを易々と止めることはできない。一応他の神のいる世界に送る場合、その管理を行っている神に連絡するのも必要だったりするのでそこまで極端なことにはならないのだが。


「じゃあ、えっと……確かにないわけはないけど」

「言ってください。よほどの無茶でなければ大体は叶えますので」

「それじゃあ……えっと、あらゆる声を出せるように」

「ふむふむ……声ですか?」

「声です。女性の声色、男性の声色、この世界に存在するたくさんの人々、あらゆる人々の声を。あ、その誰かをイメージするだけでぴったりの声を出せるように」

「はあ……声ですか」


 その内容に女神である彼女は戸惑った様子である。通常こういう要求をしてくる例は少ない。


「そうですね、声ですね。まあそれ自体はいいですが……それだけですか?」

「えっと、じゃあ、耳も。音の聞き取り、絶対音感みたいな感じで」

「ふむふむ。声と耳……音関係ですね」


 音に関する能力。これは悪くないだろう。ひそひそ声を聞き取れたり、壁の向こうで話している内容を聞き取れたり、暗殺者の動きや息遣い、完全に近い程音を殺した足音すらも聞き取れる。それはかなりの能力だ。そう言ったことを考えれば音に関する能力も、破砕振動音波……であっているかわからないが、そんな感じの音を出せるというのも有能な力となり得る。例えば超音波を使うこともできるだろう。耳と併用すれば人間ソナーにもなれそうだ。


「ふむふむ、悪くないですが……ちょっと寂しいですね」

「えっと、なら体力を。あ、肺活量も。ずっと動いていても疲れず、そんな中でもずっと声を出していたり息切れしないように」

「体力に、肺活量。音を扱うなら確かにそういうものも……ふむふむ、了解です……」


 意外とその選択は悪くないと彼女は思っていた。行動する上で体力があると言うのは悪いものではない。ずっと動き続けられる、それこそ一日中動き続けられればかなりいい。肺活量に関しても息切れを落とさないのであればかなり有能だろう。特に彼の他の能力は音に関するものであればなおさら。その気になればその莫大な肺活量を用いての大声を用いた音波兵器化だってできるかもしれない。


「あ、それとできれば女性の性別で」

「……まあ、それはいいですが」


 その内容に少々疑問を覚えるも、彼女はそれを受け入れる。


「では確認を。耳と声、音に関わるあらゆる才質と技術と能力、そしてずっと行動できるだけの体力とその間維持できる肺活量。そして次の性別は女性。イカでよろしいですね」

「はい」


 そういう形で決定する。


「では、次の人生を楽しんでください!」


 そう言って女性は足元に転生先に送り出す魔法陣を展開する。これで『異世界』転生が確定した。


「いやー、やってみたかった声優とかそういうのができるかと思うと……ちょっと楽しみです」

「…………声優?」

「ええ」

「え、ちょっと、待って、ください? 転生……『異世界』転生ですよ?」

「……? 転生ですよね。輪廻転生」

「はい。ただ、転生は転生でも、この世界ではなく『異世界』への転生です」

「えっ」

「えっ」


 初めから、微妙に両者は噛み合っていなかった。欲しい能力に関して聞いた時にも微妙にお互い噛み合っていなかったのは、認識の差異ゆえに。


「ちょっ、ちょっ、ちょっ! ちょっと待ってください!? ええっと、誘引式……ああっ! 確かに『異世界』転生ではなく単なる転生になってます! せかっくようやく頼んで手に入れた異世界転生の権利なのにっ!? いえ、まあ、いつかまた機会があるのでそれはいいですがっ!」

「え、ちょ、どういことです!?」

「ああ、もう、間に合うわけがない! 今から聞きなおすのも全部手直しするのも無理っ!」


 本来彼女の求める者は異世界転生を望む魂である。しかし、今回引っかかったのは転生を求める魂。似ているようで微妙に違う。何故ならこの世界と異世界ではその世界様式が異なるからだ。異世界は基本的にファンタジーな要素の強い世界。この世界に転生する場合に欲しがるような能力は異世界では得ても仕方がない者もある。例を挙げれば科学技術、電子系統の能力など。彼の求めた能力も異世界においてはあまり有用性の高くない能力と言える。もちろん全く使い道がないわけではないが、この世界での転生と比べると格段に有効度合いが下がる。

 それもこれも彼女が『異世界』という条件を入れ忘れたことと、会話の途中で『異世界』という言葉を使っていないのが最大の要因だ。


「もう、折角みんなやっているらしい異世界転生ってことでちょっと楽しみだったのに! ああ、でも、重要なのはそこではなくて! ケア、ケアです! 異世界に送る対象の条件保護は最大限に! 今回望んでいるけど望まぬ異世界送り、転生を含むから半分は問題なしでも異世界を望まぬため半分はアウト! そっちの問題があるのでこちらも全力でケアをしないと!!!!」

「え!? ちょ、光が……」

「異世界転生を止めることは間に合いません! すでに発動したものを止められない! ですが、せめて女性化の排除と、その能力の最大効力化を!!」


 最後、彼が異世界転生する直前に。彼女は彼の転生条件、与えられる力と転生する場合の条項に手を加える。向こうの世界は男尊女卑の傾向……というよりは男性の社会的立場が強い、荒事が珍しくない世界。もちろん女性も決して弱いわけではないが、社会観的に男性の方が立場が強い。そんな中に送るのだから女性であるより男性で送り出した方がいい。そして新たな能力を付与する余裕はない。それゆえにメモリを最大にする、つまりは能力の強さを最大値にする、そんな手を加えた。その程度しか、今の状態ではできなかった。


「っ!!」


 そうして彼は望まぬ異世界転生を行うこととなったのである。残念ながらそちらの世界において声優という職業はないだろう。ましてや彼としてはちょっと興味のあったアイドル業なども当然ない。実に残念な話である。

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