00-1話 『異世界』転生をする
「……あれ? ここは……?」
大体大学生くらいと思えるくらいの男性が目を覚ます。彼が目を覚ました場所はとても奇妙な場所だった。
白い空間。何もない、光もない、空気もない、足場もない空間。光がないのであれば白くすらないのかもしれないが、そこは白いと思えるような空間である。目に見える物はない。そもそも自分自身息をしているとも感じられない。とても奇妙で不思議な空間。
「っと……あれ? 地面がないのに立てる……っていうかなんだここ? あれ? 寝てたっけ? 夢? 明晰夢?」
「夢じゃありません!」
「わっ!?」
唐突に大声が間近に聞こえ、男性は驚く。さらに言えば、彼が目を覚ました時に見えた何もない光景、そんな場所であると言うのに唐突に背後にその大声を上げた人物が現れたと言うのも驚きだろう。
「…………あ」
男性はその大声の元となった人物を視界に入れる。それは途轍もない美人であった。髪や目の色、身長から体型、その顔立ちすらもよくわからない。まるで逆行化何かのようにその人物には影が差し、曖昧でよくわからない。しかし、なぜか彼にはその人物が"美人である"という事実だけはわかった。それこそ彼がそう感じたゆえに己の行動が大きく阻害されてしまうほどに。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいね」
「…………あっ」
唐突にふっと、感覚が元に戻る。先ほど感じた現れた人物に対する感想は何処へやら。性別も見た目もあらゆるすべてが分からなかったが、今はそれがわかるようになっていた。美人は確かに美人である。だが先ほど感じた衝撃ほどではなかった。身長は彼より少し下、長い銀色の髪という現実にはあり得ない髪の色をして、瞳は碧眼。体つきはスレンダーと称するほうがいいくらい、年齢的には十代後半と言った感じに見える。
まあ、そういった事実はあまり重要ではない。
彼女という存在が現実的でないのもこの場所の状況からすればあり得なくもない。そもそもからして場所も状況も何もかもが分からないのである。
「ふう……これでもう問題ありませんよね」
「え、あ、はい…………ところであなたは?」
「はい。神様です!」
「…………」
その言葉はどう考えればいいだろう。はっきり言って胡散臭い。胡散臭く聞こえる。しかし、この現実的ではない状況下から考えればありえないともいえないだろう。確かに彼女は神様なのかもしれない。それならば先ほど彼が感じた神を自称する女性に対し感じたことも理解できる。そしてそれが唐突に元に戻ったのも。それが神としての役割、権能、力によるものであればそう感じることもあるのだろう、と。
「はあ、神様ですか。それでここは? いったいどこなんですか?」
「一応信じてくれるのはありがたいです。ここは私のいる、世界を管理する空間……とでもいうのでしょうか? あなたがいた世界を見下ろし管理し統括できる、紙の居住空間です」
「…………はあ。それで、なんで俺はここに?」
「ええっと…………最期の記憶はありますか?」
「最後の……?」
先ほどもそうだったが、ここに来る前のことは彼はあまりうまく思い出せない。しかし、よく考え思い出してみることにした。
「っ」
そうして思い出した。自分が事故で死んだこと。別に彼が運転している車ではなく、あくまでバスに乗っていた状況でだ。まあ細かい死因や原因に関して言及する必要はないだろう。そもそもそれは死んだ彼自身で理解できるものではない。あくまで事故が起き自分が死んだ、彼にわかるのはそれくらいだ。
その事故そのものは彼にとっては……重要ではあるが、今必要な思考ではない。重要なのはなぜ今彼がここにいるかであり、今後自分がどうなるかだろう。
「思い出しましたね?」
「はい……えっと、俺は死んでいるんですよね?」
「ええ」
「それじゃあ何でおれはここに? 死後の世界とか……?」
「あなたは魂だけ、という点では確かに間違いではありませんが……これに関しては私の方から要件があるから、なんです」
「要件……」
神がわざわざ魂を呼び寄せるほどの要件。そのことに彼はどうにも不安を覚える。無理難題、少なくとも面倒ごとであることは間違いないだろう。それに彼が選ばれた……その場合それは彼にとって、彼でなければ対応できないもの事か? それともたまたま彼が選ばれたのか? 果たしてどれほどの問題事なのだろうか。そういうことに思考が及ぶ。
「ああ、心配しないでください。別にあなたに大変なことを強要しようとは思っていません。そもそもそんな事例がそうそう起きるわけもありませんし、この私の管理している世界は……あなたの住む世界、つまりはわりと人間でどうにでもなることしか存在しない世界です。まあ、たまに世界が滅びそうになるとかそうい自体はなくもないですけど」
「あるの!?」
「大半は人間のせいですよ? 核とか、核とか、核とか」
核ミサイルかどうかはともかく、基本的には人間同士の争いが原因での世界崩壊だ。宇宙は崩壊しないが人間という観測対象の住む星、地球が崩壊するような事態になれば彼女にとってはまた世界の再構築が必要になる。既に何度か行っている。人間社会は神にも理解できない事態になることが珍しくもない。だからこそ観測のし甲斐があるし、興味を持って関わるのも楽しく面白い物であるようなのだが。
そんな話はともかく、ここに呼び込まれた魂である彼がそういった大それた事態の解決に赴く必要性はない。今回彼が呼ばれたのはそういう目的のものではないからだ。
「とりあえず、あなたにそういった事件解決のために動いてほしいとかそういう理由で個々に呼んだわけではありません」
「はあ……じゃあ、なんで?」
「それはですね……」
女性は言葉を切り、声を溜める。こほん、と小さく呟き、その言葉を彼に対して告げる。
「あなたにはこれから転生をしてもらいたいと思います!」
「……転生?」
「そうです! 転生です! 魂の生まれ変わり、さらに言えば最近お約束な転生に際して才能や力を与えると言う……俗にいう転生物の主人公のような、神の恩恵を与えた上で転生してもらいます!」
「……はあ」
「……反応が薄いですね。知識はあるはずですけど」
「まあ、一応」
理解はできる。知識もある。ただ、現実感がない。まあいきなりそのようなことを言われたら、場所や相手が異常であることを認識していたとしてもその内容をそのまま心に受け入れるのは難しい。とりあえず、少しの間心の整理、落ち着ける時間が必要なようだ。




