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オーガは何度か痛烈な攻撃をその身に受ける。防御を崩されようとも、よほどやばい部分に対しての攻撃は何とか回避し防ぐのだが、それでも大きなダメージを受けることには間違いない。
「ガアアアアッ!!」
「くっ、やっぱりこっちを殺す気がないっぽいな!」
「だが受けるときついことには間違いない。なんだかんだでオーガはオーガだ」
オーガの方には冒険者たちを殺すつもりで全力で命を奪うような攻撃はしてこない。しかし、事故で死にかねない攻撃はしている。まあ、そこは冒険者側の能力に対して信頼しているところもあるのだろう。実際今までオーガとまともに戦えているうえに、攻撃に対し受けたとしても致命傷を避けるどころかほとんど痛打となるようなダメージを受けていない。
「まあ、だからこそどうにかするべきなんです。今は安全かもしれませんが……」
「さっきのようなこともあり得る。人との戦い以外でも危険になることはあるからな」
先ほどの亜竜とオーガの戦い。仮にあれがもうちょっと大規模なものになるだけでも被害は甚大なものとなるだろう。現状でも森の中とはいえかなりの被害が出ている。仮にあの場に人間がいれば巻き込まれ死者が確実に出たことだろう。それと同じことが他で起きないとも限らない。人間と争うことはなくともオーガがその力をいくらか振るうだけで結構いろいろと被害が出る可能性がある。
それゆえに、オーガを倒すのを優先する。その力が危険であり、人間たちにオーガを制御する能力が低く、またそもそも会話もできない。そんな相手を大人しく残しておくわけにはいかないだろう。危険は危険にならないうちに排除する、それがいいはずだ。
「ッ!?」
「なんだっ!?」
「っ……どこだ?」
「今の音は…………」
そんな戦いをしている一体と三人、全員が突然森の中に響いた爆音に驚く。あまりにも唐突でいったい何事か、と思ったところだろう。何やらオーガは少々慌てているというか、音の原因に予想が断っているような困惑の仕方をしているが。
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「おおっと!? なんだこいつ!? 攻撃がちょっと強くなったぞ!」
「……だが、こちらを倒すというよりは」
「逃げるつもりかもしれません! 押さえてください!」
「おうっ!」
オーガは攻撃の仕方を少し変えた。攻撃事態は少し積極的になっているが、先ほどと同じで殺すつもりはないのには変わらない。だが、単に攻撃するといっても吹き飛ばす、押し飛ばすみたいな攻撃手段をとっている。冒険者たちと戦うのではなく、一時的に己から離してこの場から離脱するのが目的である……つまりはオーガは逃げるつもりであると冒険者たちは考えている様子だ。実際には逃げるつもり……ではあるが、冒険者たちからの逃亡が第一の目的ではない。オーガは先ほどの音から焦っている、つまりは先ほどの音に関して何か思う所があるからこその行動と言うわけだ。先ほどの焦り用からも音の原因に関してもしかしたら……と思っているからこその行動である。
「ガアアアアアッ!!」
「はあっ!」
「ふんっ!」
「魔法行きます!」
戦法を変えたところで、冒険者たちの様子は変わりない。オーガは強いが対応できないわけではない。戦法を変えたところでそれほど問題にはならない。徐々にオーガは傷ついていき、倒れることになる。
「グウウッ……!」
オーガも最後まで抵抗する意思を見せる。殺すつもりはない。自分が死んででも、冒険者たちを殺すつもりはない……彼に人間を殺す勇気がない。事故で死んだなら仕方ないとは思うのだが、それでも本当に殺してしまえば、自分自身でダメになってしまうとオーガが思っているゆえに。
「なんかなあ……これ、このままやっていいのか?」
「………………それが俺たちの仕事だ」
そうして、オーガに止めを刺そうとして………………その三人の前と、オーガの前に一人の少女が現れた。その少女は冒険者の前に、オーガを守るかのように立ちふさがっていた。
少女はオーガに入り口をふさがれた洞窟内部でオーガが戻ってくるのを待っている。オーガと知り合ってから、そのオーガとの生活を少女はそれなりに楽しく過ごしていた。生活の困難さはあるものの、もともと彼女はあまりいい環境で生活していたなかったこともあり、多少の過酷さでは音を上げない。そして、今回の待ちも今まで通りだと思っていた。
今までも彼女はオーガにおいてかれ待たされていたことはあった。その意味は分からなくもない。彼女がオーガと行動すると危険だとオーガは判断したからだというのはわかる。彼女自身魔法を使えるといっても、危険なことが危険なことには変わりがない。魔法程度でどうにかできることばかりではないのだから。
しかし、今回は何故かその戻ってくるまでの時間が長い……それくらいに大変なことが起きているのかもしれないが、それでも長い。
「…………どうしたのかな? 大丈夫かな?」
少女は思う。オーガは大丈夫だろうか、と。
「………………っ」
少女が時折感じる振動、音、それらの中に魔法の気配を感じた。先ほどまでも音や振動はいくらかあった。オーガが暴れることで起きるその振動は何かと戦ってできるものであるのがわかっている。それは一度ある程度収まったのに、また再開していた。その中に魔法の気配を感じている。振動や音の伝わり方から、恐らくは先ほどとは違う何かと戦っているのではないか。それがなんとなくわかる。
「…………どうしよう」
少女はどう行動したらいいのか。少し考え、少女はあっさりと答えに行きつく。
「………………助けなきゃ!」
オーガを殺させるわけにはいかない。家族のような相手、自分と一緒にいる相手、大事な存在である相手なのだから。それを何かに殺させるわけにはいかない。自分が言ってオーガを守らなければいけない。そう思った。
入口は塞がれているとはいっても、別に特に破壊することができないわけではない。少女の魔法は前はあまり使えなかったが、今では慣れて結構な威力で扱うことができる。
「えいっ!」
いつも扱う火の魔法、それを威力を高めて入口を塞ぐ木を吹き飛ばす。下手をすれば自分も被害にあう危険もあるが、今回は特にそんなふうにはならなかった。
「どこだろう? でも、行かなきゃ!」
先ほど感じた魔法の気配。オーガがいるとすればそちらの方向ではないか、そう思いそちらに向かっていく少女。そしてその先にはボロボロになったオーガとオーガの前に立つ冒険者が三人。
「っ!!」
そうして少女はオーガの前に出て、冒険者たちに立ちふさがる。自分が大事に思っているオーガを守るために。




