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「おい!」


 オーガが亜竜を倒した。そんな状況にようやく姿を見せた冒険者の男。それに伴い二人の冒険者の男性も姿を見せる。オーガはその声を聴き、ついそちらの方へと振り向く。


「亜竜を倒したんだろ! じゃあ俺と戦いやがれっ!」

「ガアア…………」


 オーガはどうにも困った様子を見せている。実際オーガは困っている。オーガは別に冒険者戦いたいわけではない。亜竜はこの森に侵入されると少女と森を歩くのにも困難であるし、放置するといろいろと危険がありそうだから倒す、また冒険者たちが戦い、かなり大変そうだったから手伝ったというのもある。しかし、だからといって冒険者と戦うつもりは全くない。いきなり戦えと言われても困るだろう……まあ、そもそも彼らの言葉はオーガは理解していない。なんとなく雰囲気とその冒険者のしている行動からの推測である。


「…………襲ってくる様子はありませんね」

「みたいだな。戦って疲れているからか?」

「そうかもしれませんが……それでも襲ってくるのが普通のオーガです」

「ふむ……やはりそれなりに頭がいいのか」

「そんなこと言ってる場合か! さっさとこいつをぶっ倒すぞ! 前倒せなかったんだから今度こそ思いっきりやってやらあ!」

「あっ!」


 オーガに向け、いきなり切りかかる冒険者の男。オーガはそれに驚き、その腕を盾にしてその攻撃を防ぐ。亜竜の攻撃でも傷をつけることしかできないオーガの体は冒険者であっても同じくらいのダメージにしかならない。


「ちっ! やっぱり中々硬いな!」

「勝手なことしないで下さい! 戦うにもタイミングと言うものが……」

「今更だ! 魔法を頼む!」

「あっ! もう! わかりましたよっ!」


 もう一人の男性も冒険者と同じように戦闘に参加する。流石にそこまでされると何もしないというわけにもいかず、残った魔法使いの冒険者も魔法で戦闘に参加するようになった。


「ッ!」


 オーガは一瞬逃げようとしたが、何か考えて踏みとどまった。オーガはここから逃げることのできないある事情を持っている。一度逃げて戻ってくる、というのも一つの手段として考えられるものの、放置するわけにはいかないものが存在する。ゆえに冒険者相手に戦うしかなくなってしまう。もっとも、戦いを放棄して逃げるのは不可能ではない状況ではあるが。


「ガアアアッ!!」

「とおっ! 当たらねえよっ!」


 オーガの攻撃は冒険者を弾くような感じに行われている。直接叩き潰したり、襲ってくるといった感じではなく、どちらかというと防御が主体であまり攻撃する意思はない。それでも攻撃は攻撃であるが、その攻撃に敵意と言うものが足りていないのを冒険者の男は感じている。それがどうにも彼にとってはやりづらい様子である。


「くそ、なんだこれ……!」


 魔物であるのだから戦うのにふさわしい相手、思いっきり戦いたい、戦闘を楽しみたい、強い相手とやりあいたい、そんな思いがあるのだが、これではどうにも不完全燃焼である。まだ亜竜と戦っていた時のほうがおもしろいだろう。オーガは確かに亜竜を倒せるほど強いが、その強さが冒険者たちを相手にするときは発揮されていない。それは本来では都合がいいことなのかもしれないが、彼らにとってはどうにも困惑することだ。とはいえ、それを感じているのは彼らのうちの一人。ほか二人はむしろ死ぬ可能性が減る、怪我をする可能性が減ると実にありがたい話であると感じている。


「魔法行きますよ!」


 その言葉を合図に二人が魔法使いの冒険者の射線から外れ、オーガに向けて魔法が飛んでいく。特にオーガに対して魔法が有効であるというわけではない……が、単純な物理攻撃よりは多くの場合有効だとなることが多いためオーガを相手にする場合魔法が推奨される。もちろんそれ以上に罠にはめ、相手の動きを封じるのが一番なのであるが、それができない場合は魔法を優先的に扱うことが重要となる。まあ、魔法を受けてもなかなかに相手のオーガが強い場合、攻撃を防がれることも多い。

 また、魔法以外では毒などを扱うことである程度動きを鈍らせることができる。よほど強い即死毒であれば、それなりに有効だともなり得るが、それくらいの毒を日常的に持ち歩くことはなく、対オーガ相手に使うにしても下手をすれば自分たちにも影響が出るのであまり積極的には使えない。

 そういうことなので、基本的には魔法でダメージを与えることが多い。もちろんあるていど強力な戦闘能力を持てば物理攻撃でダメージを与えることも不可能ではないのだが……それほどまでに強い冒険者は双もいない。


「……あまり聞いていませんね」

「だが、俺の攻撃よりは有効だ!」

「はっ! 俺が戦ってる方がまだいいんじゃねえか!? 行くぜっ!」

「……まったく!」


 この中で魔法使いの魔法が一撃のダメージとしては一番大きいが、最も積極的に攻撃をしかけている冒険者の男のほうがそうダメージ量は大きい。決定的な一撃にはならないものの、何度も攻撃をしているため傷をつけられる数が多い。とはいえ、オーガも防御はしっかりとしているため、どうにも重要なダメージは与えられていないわけであるが。


「やりづらいぜ! まったく! 無抵抗に近い相手をいたぶるのは趣味じゃねえっての!」

「それでも相手はオーガだ! ここで倒しておかないといつどこで犠牲者が出るかわからん!」

「………………」


 冒険者の男性はオーガによる被害の話を全く聞いていない。すくなくとも、何かオーガに襲われたという話がないのは事実である。それに関して少々疑問が浮かんでいる。オーガが相手を完全に殲滅した結果情報が出ない、と言う可能性もあるがそれでも全くと言っていいほどないのである。ただ、亜竜と戦った時のようにオーガなりに苛烈な所はあるのも事実……それを人間に向けないのは疑問であるのもまた事実であるが、しかしそれゆえにオーガはやはり危険だとも考えられる。そんなことをするオーガが普通のオーガと同じオーガであるはずがないのだから。ゆえに、彼らはオーガを倒すのを必要とする。その危険性をこの場で終わらせるために。


「防御は俺が崩す! 二人はその瞬間を狙え!」

「おう!」

「わかりました!」


 攻撃タイミングを相手の防御を何とかして崩したタイミングに、そう一人の冒険者の男性がいい、他の二人がうなずく。形勢としてはオーガの方が若干不利。まあ、オーガは彼らに対して苛烈な攻撃をしないがゆえの戦闘形勢であるが。



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