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「お、おい! オーガが……! どうする!?」

「落ち着いてください! 一度退きます!」

「逃げるのかよっ!?」


 三人はオーガが突然現れたことでかなり困惑した様子である。冒険者のうちの一人がどうするかの方針を訊ね、それに対して一度この場から退くことを提案した。それに対して文句を言う男。まあ、どうするかではなく、どう対応すればいいのかを聞きたいわけであって彼としては逃げたいというわけではない。しかし、それは別に逃亡するという意味合いではない。


「ガアアアアアアアアアッ!!」

「グオオオオオオオオオッ!!」

「あの二体が戦っているところに突っ込むのは得策ではありません! 今は一度後ろに下がっているべきです!」

「そうだ! 下手に手を出して二体と戦うことになったら流石に勝ち目がないぞ!」

「ぐ、ぐぬうううううう!!」


 とても苦々しい表情で唸る男の冒険者。まあ、彼にとっては逃げるということ自体が許容できない事柄だろう。しかし、言われた通り下手に手を出して二体と同時に戦う羽目になると勝ち目がないというのも事実。亜竜相手に苦戦しながらもなんとか勝ちは拾えるかもしれない、というくらいの戦況なのだからそこにオーガが加わればまず勝ち目がないのは当然のこと。ゆえに退くしかないのも事実である。


「ほら、行きますよ!」

「くそっ!」


 そうして一度オーガと亜竜の近くから離れ、二体からは死角になるような見えにくい位置に三人は避難する。この場から完全に逃げるのではなく、二体の戦いに巻き込まれない、見つかって敵対的な行動をとられない、気を引かないような比較的安全な場所に逃げ込んだ。


「……あれ? 逃げるんじゃねえのか?」

「退くとは言いましたけど、この場から逃げるとは一言も言ってませんよ?」

「どういうことだよ?」


 一人だけ状況が理解できない冒険者の男。もう一人の男性の冒険者は言葉の意味を正しく理解しているらしい。


「あの二体の戦いに巻き込まれないようにするのが最優先だからな。だからと言って倒さないわけにもいかないし」

「正直言ってどちらとも正面切って戦うのは流石に無理ですからね。あの二体が戦ってくれたのははっきり言って幸運でしょう。お互いが戦って怪我、体力を消費し弱体化してくれるのであればこちらとしても都合がいい」

「…………なんだよそれ。なんかそういうのやだな」

「嫌と言われても……漁夫の利ですよ。普通冒険者は無駄な戦いは避けるべきですし、そもそもオーガとかは普段罠を使い戦うのが普通です。亜竜もまともに戦うよりはいろいろと先に手を打った方がいいものですし……やはり冒険者と言えども、実力だけではなく頭を使って戦うのも一つの戦い方でしょう」

「そういうもんかね。俺にはわからん」

「だからこちらがそういうことを考えているわけなんですが……」


 冒険者の男性はそう、納得が言ってなさそうな男に対して言う。冒険者と言っても色々な種類がある。頭を使う賢しい冒険者、自分の実力のみを信ずる脳筋冒険者、人の力をまとめ集団戦が優秀な冒険者、いろいろである。このパーティーは各自でそれぞれ分かれているような感じで直接戦闘が得意、魔法を含めた知能戦が得意、バランス型でまとめ役の三人である。

 まあ、一人が脳筋タイプなのでどうにも狡い手を打つのが納得いかない様子であるが、頭のいいタイプの冒険者の言う通り、現状を利用する方がいいのは確かである。それを脳筋であろうとも理解はしているため、文句はあるが不満を言うだけにとどめているのだが。


「とりあえず、どちらかが倒れるまでここで待っていましょう」

「…………言っとくが、終わったら本気でやりあうからな。流石に今度は文句ないだろ?」

「ええ。消耗した相手であれば、知能の高いオーガでも、元々強い亜竜でもなんとかなるでしょう」


 希望的観測であるが、そう思うことにした男性。実際そこまで都合よくいくかは不明だが、ダメならダメで本当に最後には逃げるというのも一つの手段として考えている。






「ガアアアアアアアアアッ!!」

「グオオオオオオオオオッ!!」


 オーガと亜竜が戦っている。基本的にどちらも素手、その肉体での戦いが基本だ。亜竜は爪、鱗、牙、さらには尻尾と様々な優秀な攻撃手段を兼ね備えている攻防能力が高い魔物で、かなり強い。一方オーガは本当にその肉体一辺倒。しかし、オーガの強みはその身体能力。あまりにも強力な力である。下手な亜竜の攻撃では……傷つかないとは言わないものの、その肉体の筋肉、防御能力で多くは防げるだろう。皮を切り裂き肉を傷つけることはできても、なかなか深手にはならない。それでも痛みはあるし、あまりに傷が増えれば厳しい状況になるのも事実である。ゆえにそうなるまえに、オーガは亜竜を叩き潰すつもりで殴りまくる。


(硬いだろうし、あまり痛打にはならないかもしれないが……なめんな!)


 がんがんと鱗に守られている強固な防御能力を持つ亜竜を殴る。確かにただ殴るだけでは鱗を破壊しその内の肉にダメージを与えにくいかもしれない。しかし、衝撃はどうだろう。鱗に守られているからと言って衝撃まで完全に遮断できるわけではない。鱗を通し、そのうちに叩き潰す力がかけられる。それだけでなかなかの痛打だ。それに、ただ殴るだけではなく……例えば持ち上げて地面にたたきつける、ぶんぶん振り回すとかするとどうだろう。目を回すし、地面は衝撃を幾らか和らげるかもしれないが、ただ殴るだけよりも衝撃が大きい場合もある。大地はなかなかに強力な武器なのである。


「ウオオオオオオオオッ!!」

「ギャウオオオオオッ!!」


 亜竜の攻撃はオーガに傷をつけることはできるがその程度で痛打にはならず、オーガの攻撃は亜竜に傷をつけられないかもしれないがその重みが防御を抜けていき、亜竜に大きなダメージになる。そういう状況であるため、戦いはオーガのほうが優勢となっている。


「ガアアアアアアアアッ!!」


 ずがんずがんと、周囲のことを気にせず亜竜を振り回し、木々に、地面にたたきつける。尻尾をつかんだ状態で振り回せば相手もオーガに対して攻撃できない。強力な筋肉を持ち、とんでもない力を持つオーガだからこそできる無茶な無理やりの技、それにより亜竜はダメージを蓄積していき…………困憊した様子で倒れる。


「グルアアアア……」


 そして、倒れた亜竜の目に、オーガはその指を突き入れる。


「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 残酷かもしれないが、亜竜でも目の防御能力は低く、そこは弱点だ。そこであれば他の部分よりも容易にダメージを通すことができる。そして、その部分から体の内側へとその手を、指を伸ばし、ぐちゃぐちゃに破壊する。


「グゲ…………」


 完全に地に倒れこんだ亜竜。戦いはオーガの勝利で終わったのである。


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