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(森が騒がしいな……)
いつも通りの森、その森を少女とともに歩いていたが、妙に森が騒がしいことに気づくオーガ。森が騒がしいというのは基本的に魔物や獣が入り込み争いを起こしていたり、人間が侵入していてそれと獣が戦っていたり。基本的にオーガがいろいろな魔物や獣を倒したり追い払ったりしているせいで脅威になる存在が少なく、そのせいもあってこの周囲の安全性が高い。実のところその影響でオーガが食べるための食事になる獣がそれなりに減っているのだが、それに関してはいずれ少しこの場所から外れた場所に行くか、または遠くに獲物を探しに行くくらいでそこまで気にしていない。その場合の問題は少女の扱いだが、なんとかなるだろうとそれなりに楽観的に考えていたりする。
そんな話はともかく、森が騒がしいということは何らかの危険、問題が森にあるということ。そんな状態で少女と一緒に呑気に森の中を歩くというのは難しい。
「ガウオー(ちょっと)」
「―――――?」
「ガウガオー(もどるよ)」
「…………」
突然進む方向を変えたオーガに対し特に文句を言うでもなく少女はついていく。そうして彼らがいつも過ごしている場所に戻り、オーガは少女を置いて入口を塞ぐ。こうすることで少女の安全を保つため……オーガ自身に何かあった場合、少女は置いていかれることになる。しかし、少女は魔法が使えるため、それを使い塞いだ入り口を突破することも実はできるのでそこまで問題はない。それをわかっているからこそ、侵入防止のために塞ぐのである。
「ガーガ、ガウアーオ(ちょっと行ってくるよ)」
「――――」
少女はオーガを見送る。そうしてオーガは森に起きている何らかの問題を調べに向かった。
森。今では獣や魔物が少なくなっているため危険の少ないはずの森だ。しかし、つい先日、特殊な獅子の魔物が入り込んでいたりと、魔物や獣が少なくなることにより縄張りとしている存在がいなくなり、そのせいで余所から縄張り争いを面倒に思う魔物や獣、またはそういったことに負けた魔物や獣が逃げてくる。まあ、それでも近場にいる者くらいしか寄ってこないが、時には異様に強い存在が自分の縄張りを広げる目的で侵入してくることもある。
「おらあっ! ったくよお! なんでこんな魔物がこんなところに居やがるんだ!」
「やはり魔物や獣が減ったのが原因でしょう!」
「グルアアアアアアアアアアアッ!!」
亜竜種……まあ、どちらかというと蜥蜴に近い種、もっと厳密に言えば竜に近い蜥蜴と言ったところだろう。蜥蜴であっても亜竜認定される程度には強い存在だ。基本的にはかなり強い縄張り意識を持つ種で、そのせいで他の存在が縄張りに入ることを嫌う。今回その亜竜種がこちらに侵入し、縄張りと認定したこともあり、そこに侵入してきた人間に対して敵対的な行動をしているわけである。
「なかなか厄介だな……!」
「おう! だが、戦いがいのあるやつだぜ!」
「面倒なんてないほうがいいんですけどね……」
仮にも亜竜。亜でも竜は竜、蜥蜴の方が主で竜に近い蜥蜴であるとしても、竜であることには変わりない。まあ、竜は竜でも比較的弱いりゅうであるためそれなりに強い冒険者たちであれば勝てる。今この場にいる彼ら三人でも、まだ勝てるくらいの強さだ。ただ今後のことを考えたりするとあまりこの竜あいてに本気で戦いを仕掛けるつもりにはなれないといったところであるのだが。
「ですが、調査するのにこれがいると邪魔になります……倒しますよ!」
「おう!」
「行くぞ!」
ジリッ、ジリッと徐々に亜竜に傷をつけ、体力を削り、その防御能力を奪っていく。亜竜は自分の体力が、防御力が削られ疲弊していくのがわかる。しかし、亜竜はそれ以上に縄張りに侵入されることを嫌い、そちらの方に意識が向く。自分の生死よりも、勝敗よりも、何よりも縄張りに侵入した相手を追い払うことが優先されるのだ。それゆえに傷つきながら、いずれ力尽きるかもしれないながら、侵入者を撃滅すべく動く。
根本的な体力、生命力と言う点において、魔物と人間では魔物のほうが強い。つまりこのまま戦い続ければ確かに亜竜を倒すことができるだろう。しかし、その前に彼らのうちの誰かは倒れる危険があるし、そうでなくとも大きな消耗を迫られることになる。
「くっ……このままだと面倒なことになるな」
「どうします? 一度退きますか?」
「それもいいと思うんだが……」
「へっ! この戦いを終わらせてたまるかよっ!」
冒険者のうちの一人が戦いに楽しみを覚えているせいで退くことができない。困ったものである。
「無理やり連れていきます?」
「あれ相手にしている状態でそれができるといいな」
「……無理ですよね、はあ」
ため息をつきながら亜竜の相手をする冒険者。いくら困ったちゃんとはいえ、仲間を見捨てていくわけにもいかない。そうして戦いを続けていると、亜竜がなにやら特殊な動きを見せる。いつぞやの獅子のように。
「なんだ?」
ざざっ、と草木を擦る音、なにやら飛来する音が、して、竜に襲い掛かった。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
「グオオオオオオオオオッ!!」
「っ!!」
オーガ。彼らがこの場所に来た目的である存在が現れたのである。




