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村に等しい開拓領地、その周りは森である。開拓領地自体は人が住める程度、本当にそれくらいの大きさで作られている。最初にそれなりに人がいた頃はそれくらいに村を大きくすることができた。しかし、開拓中に人が襲われ、傷つき、失われて生き、そのうえ盗賊まで道中に住み着いた結果人があまり来なくなり、元々そこまで人が来ないということもあり、これ以上の開拓、領地を広げる行動ができないでいた。もちろん開拓領地である自分たちの住む場所が狭いとなると彼らも困るのだが、人がどんどん減っていくと言うこともあってそれ自体が都合が悪い事態にはならなかった。
しかし、今回人が増えた。別にそれ自体が不都合があるわけではないが、人がいると言うことは開拓をすることができると言うことである。もちろん彼らの自由意志の問題もあるため単純にはいかない話であるが、少なくともこの開拓領地でまともに過ごすつもりがあるのならば開拓する必要性がある。そして、賢哉の指揮、指示の下領地の開拓が行われた。
この地にフェリシア達が来て最初の開拓であり、とても久しぶりの開拓である。その成否は今のところどうともいえないが、犠牲者無し、被害なしで問題なくすんだ。それはかなり大きな成果と言えるだろう。この開拓領地では開拓をする時点で被害が免れないのだから。そしてそれは賢哉の成果であるが、賢哉はフェリシアの部下という扱いなのでフェリシアの成果という扱いにもなる。開拓領地に来たばかりのフェリシアの評価が上がるのは好ましいことであるだろう。まあ、多少評価が上がったところでこの開拓領地がフェリシアの下纏まるには、フェリシア達の成果が全くと言っていい程足りていない。貴族であれば問答無用で従うような人員はここにはいない。そんな人員であればこんな場所に来たりしないだろう。
数日、そんな感じで森の開拓を行う。現状ではまだあくまで開拓領地の大きさを広げるくらい、つまりは開拓領地をどう広げるかの方針を決定しないうえでの開拓行為である。本来ならば開拓するうえでも、開拓領地をどうしたいのか、どういう開拓を行うのか、そういう方針があるべきだが、フェリシア達は現状把握で忙しいことだろう。それゆえに大雑把な形での開拓行為となっているわけである。とはいえ、それは大きなことだ。住む範囲が広がる、作ることのできる畑の範囲が広がる、建てることのできる建物の数が増える、土地が増える、そして何よりも、周りにある森の木々を切ることで木材を確保できる。今まで建物を建てることをしてこなかったのは木材が得られなかったのが理由である。木材が得られる以上今人が住んでいるボロボロの状態の家を新しくする、個人個人の家を広くする、部屋を増やす、そう言ったことだってできるわけである。
また、そもそもこの開拓領地はどのくらい範囲まで領地であるか、明確に領地の境がはっきりとしていなかった。それを木材を用いて、塀や壁、せめて柵みたいな感じに設置し、領地という区分を明確化することも必要だ。また柵は鳴子を付ければ何かが来た時にわかるし、それ自体がある程度森から領地に来る獣を防ぐ盾になる。ある程度木々を切り、領地を広げた賢哉は今度はそのような形で領地を明確な形として言った。
「おおー。とんでもねえな、あんた」
「えっと……第一村人」
「誰だよそれ。いや、そういえばあんたらには名乗ってなかったか。俺はレッセル。一応これでもここのまとめ役みたいなもんだ」
「へえ。リーダー……村長か何かか?」
「近いっちゃ近いな」
「俺は賢哉だ。ここに来た貴族のお嬢様、フェリシアを上司にしている魔法使いだ」
「おう。よろしくなケンヤ」
魔法使いという言葉に動じないレッセル。まあ、ここにいる彼にとっては魔法使いだろうとなんだろうと変わらないのだろう。敵かどうか、味方かどうか、役に立つかどうか、どんな利益があるかどうか。重要なのは脅威であるかどうかであり、またその相手が自分たちにどういう意味があるかどうか。そう言う意味では賢哉達はその存在自体は害ではないし、今は無理やり自分たちを力で抑えるようなことはせず、また領地を広げ柵を作り安全な形を広げている。それならば仲良くするほうが付き合いとしてはいいはずである。
「それで、どうしたんだ?」
「いや……お前さんたち、森の木を切っただろう? 木材な、俺たちも欲しいんだ。だが、俺たちだと安全や人数の関係で森に木を切りに行けない。だから村で畑を作るのがせいぜいだ。まあ、それもちょっと前までは何度も森の獣に荒らされたりしていたんだがな……」
彼らも開拓を行いたくないと言うわけではない。最後に行きついた場所だが、せめて少しは生活を良くしたい、まともに暮らしたいと言う欲求はある。だが、問題となるのがこの場所である。開拓領地は未知の領域、暗黒領域とも呼ばれる未開拓地域に隣接している。その未開拓の領域を開拓するのが開拓領地の役割であり、そしてその地に踏み込むことはその危険がとても大きいことである。だからそれは今まで行われなかった。
しかし、それを賢哉達が行っている。その恩恵を素直に受けたいところであるが……しかし、彼らは手助けしたわけでもなく、一方的にその恩恵を受けるわけにもいかないだろう。だから困っている。理由はあるが、かといってその理由だって彼らの都合である。
「……木材を貰って使いたいが、しかし一方的に貰うのは困る、都合が悪いってことか」
「ああ。最初に会った時冷たくしたのもある。一応ここにいる人間はこの開拓領地の人間だが、あのお姫様に従うわけじゃねえ。だからこそ、その部下であるらしいあんたから物を貰うってわけにゃあいかないわけでな……」
「そこは普通に従うことにしたらいいんじゃないか?」
「それは考えには上がるんだが……今はまだ、駄目だ」
「そうか」
別にフェリシアの傘下に入ることが問題であると言うわけではない。領地という建前、書類の都合上で言えばここにいる人間は全員フェリシアの治める開拓領地の民という扱いであるので問題にはならないだろう。問題は彼らの心構えだ。主として本当にフェリシアはふさわしい相手なのか。少なくとも現状賢哉が成した成果以上のものは成していない。まあ、賢哉が部下であるので賢哉の成果はフェリシアの成果なのだが。ただ、やはりフェリシアを主として仰ぐにはまだ足りていないと言うのが現状であるだろう。その証明、彼女が正当に領地を治めるにふさわしい存在であるのか、それが重要である。
「んー。そうだな……一度フェリシアと話し合ってみよう。今後のことを決めるにしても、今すぐすべてを決める必要はないが大まかな方針がいる。それを聞いて、あとはあんた達と共同で開拓に関して何かをすることも提案しよう。実際にこちらがこの領地を発展させ、より良い生活をできるように開発するところを見せないと従ってくれそうにはないだろうからな」
「そうだな。まあ、そうしてくれや。何か話があるなら、俺はあそこの家にいる」
「ああ。そうだ、木材に関してだが、当面切った木は……あそこにおいておくことにする。全てをどう扱うか、って言うのはまだ決まらないが、あそこにおいてある木材に関しては自由に取り扱っていいようにしておく。それをあんたたちが好きにしても構わないからな」
「……おう、すまねえな」
ひとまず彼等との交流、繋がりに関しては一旦保留し、フェリシアと話し合いし今後のこの開拓領地の開発と発展について決める中どうするかの決定を行うことに賢哉は決めた。