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「――!」
森の中、炎が立ち上る。その炎の発生源は森の獣である。その炎が発生するのを、少女が見届けていた……というよりは、少女の叫びに呼応しその炎が発生したわけであるのだが。少女は当然オーガと共同生活を送ることになった少女だ。その少女は魔法の才を持ち、肉を食べるときに生肉ではつらいと考えた結果、その肉を燃やした。それをきっかけに魔法をある程度自由に扱えるようになったのである。それは今この時も活用され、森の獣に対する攻撃手段として用いられている。少女の魔法の才はかなり高く、相当な威力の攻撃となっている。一撃で多くの森の獣は倒せる。
「……! ――、――――」
「グオーア(よくやった)」
どうだ、という感じにオーガにドヤ顔する少女。オーガはそんな少女に優しく声をかける。まあ、オーガなので優しくと言ってもそれなりに声は大きめなのだが。少女もオーガと過ごすようになり、何度もオーガの声を聴いている。そのため、今更オーガの声くらいでは驚くこともない。オーガは基本的に少女に対し優しく対応してくれており、少女はそれを理解している。もちろん本能的な部分での異種族に対する恐怖であったり、オーガの想いも寄らぬ行動、少女に向けての者ではないが森の獣や魔物などの中に時折いる強い存在とタタアク時に見せる敵意や戦意などは少女も恐ろしく感じたり、ビックリしたりする。
ちなみに、オーガと少女は会話ができない。意思疎通はいくらか頑張ってできるものの、明確な会話、というものはできないでいる。言葉に関してはなかなか難しいものがあるようだ。まあ、たとえ言葉が通じずとも、動作や表情、それに対する声に込められた感情などで幾らかの意味は把握できるだろう。
「……? ………………、…………――……」
「ガウガー(だめだ)」
「…………」
しゅーん、と少女は落ち込む。少女はオーガと違い視線が低く、いろいろと森の中で様々な物を発見する。花、野草、茸、果実、落ちている様々な物に関しても。また、生物も幾らか発見する。それらに関して少女はいろいろとオーガに訊ねる。食べていいものか、毒はないか、おいしいか。もちろんオーガがわかるわけではない。見つけた時点ではだめだが、それがどういうものかをオーガ自身が食べたりして判断したり、生物を捕まえて来て無理やり食べさせたり臭いをかがせたりして安全を判断している。まあ、たまに少女が食べて吐いたり倒れたりすることもある。よく毒を食べて耐性をつけるというが、今の所少女にそれらしいものはない。まあ毒を食べればそれに対する耐性がつくなど簡単にあれば苦労はしないだろう。
そんな感じに少女は少女らしく、森の中で色々とやっている。彼女の場合そもそも住んでいた状況や生活の問題もあって、森の中の様々な物が新鮮に感じるのだろう。オーガはそんなことは知ったところではないのだが。
「ガガウガウガー(そろそろいくぞ)」
「………………」
少女はオーガの後ろをついていく。オーガが少女を運んでもいいが、いざという時オーガが戦えるほうが安全だし、下手にオーガが少女を運ぶ方が危険は多い。オーガは繊細な行動には向かず、また森の中木々の間を抜けるのにも手間がかかる。少女がその際にぶつかる危険もあるため、基本的に少女が自分で移動する方が危険が少ないわけである。
そうしてオーガと少女は自分たちの住んでいる場所に移動した。森の中であるため、なかなかにそういった拠点の確保は難しい。特に食料はともかく、水分の確保もできる拠点は中々存在しない。以前オーガが住んでいた場所では湖があったためそこまで面倒でもなかったのだが、ここにはそういう場所はない。いや、一応川は発見できている。しかしそれだけではどうにも行かない。ないなら作ればいいのだが、そう簡単でもないだろう。オーガの力であればある程度簡単な物は作れるが、それくらいだ。少女の力があってもあまりいいものはできない。まあ、少女は魔法があるのだが、その精度や想像性はあまりよくないだろう。
「ガガウガガー(まってろよ)」
「――、―――――」
寂しそうな表情を少女はする。しかし、安全のためにその場所で大人しく待つ。オーガがいろいろとやっているのは少女も知っている。何をやっているかは具体的には知らないが、森の中であれこれとやっている。その行動に少女がいると少女が邪魔になるので置いていく、というのは少女もわかっている。いつも通り、オーガがどこからか追ってきた木の幹を壁にし、少女は洞窟に隠れ潜む。
(さて……森の見回り見回り、と。この付近の危険そうなのはいくらか狩ったが……まあ、どこからか来るみたいだしな)
森の中を進むうえで、少女の安全を確保するのは必須。そういうことでオーガは少女が休んでいる間に森の中を回り危険そうな獣や魔物の類を狩っている。場合によってはどこかにおいやることもある。別に無理に倒す必然性はないので。
(あと、どこかいい拠点にできそうな場所もな……とはいっても、森の中に建物は建てられないだろうし……そもそもそういうものを作るための道具もないしな。もうちょっとオーガが融通きけばいいんだが……)
あと、少女が過ごせるような、安全な場所を作れるところも探している。いつまでも洞窟のような場所で暮らすのは少女の精神的にあまりよくない。もっといい場所がないか、と思い、またないなら作れないか、と思いいろいろと候補を探してるがうまくいかない。そもそも森の中でそんな場所を探すこと自体ナンセンスなのだが、オーガにとってはどうしようもないことなのでしかたがない。一応少女の魔法の力を借りれば作れない、とは言えないのかもしれないが。
(はあ……ん? あっちでなにかやってるな。もしかして人間が来てるのか? 嫌だなあ……まあ、危険そうになってるなら助けるけどさ……)
オーガの身体能力は高い。少女を伴いながら森を歩き、今も森の中を捜索探索している中、さらに遠くの音も聞いている。それだけ肉体に関しては強い生物なので当然だが。そんな人間が戦っているような音を、彼は拾った。そのため、彼はそれがどういう状況で何が起きているのか、確認に行く。状況を確認し、自分にとっても安全かどうかの確認を行うため、また彼自身人間をむざむざ殺させるのはあまり好きではないため、危険そうなら守るため。それが自分にとって危険なことにつながる可能性が高いということを分かっていても。




