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「…………? ――!?」

(あ……起きたか。と言っても、どうしたもんかなあ)


 オーガである彼は当然ながら巨体、恐ろしい見た目であり、彼が拾った少女にとっては恐怖の対象である。




 森の中、少女に出会ったオーガ。少女はその存在に恐怖し、意識を飛ばして気絶したわけだが、そのまま捨て置くわけにもいかないだろう。オーガの彼は知る由もないが、少女は捨てられた存在であるため変える場所がないのだが、彼としては少女がどこか自分の住むべき場所に戻るか、または誰かが回収しに来るのではと思うところである。しかし、森の中気絶したまま放置すれば身の危険から逃げることすらできなくなる。ゆえに彼が見守っているしかない。まあ、そもそもその見守っている存在のほうがよほどの危機な気もするが、それは置いておこう。

 起きた少女はオーガから逃げようとする……が、オーガと少女は基本的にほとんど移動していない。拾った、という言い方がよくないわけだが少女の気絶した場所からほとんど移動していないわけである。少女は両親に捨てられたのが実態であるが、待っていろと言われた。その場所から離れるわけにもいかない。ではどうするか……オーガから逃げることができず、少女はそこに残ってしまうことを選んだのである。


「………………」

(……逃げない? なんで?)


 そのままオーガと少女は何をするでもなくそこで過ごしたのである。当然、そんなことをしていると時間がたつ。夕方になり、夜になる。森の中では月明かりもほとんどなく、暗くなるわけである。オーガである彼は夜でもそれなりに見えるが、少女は見えない。それ以前に食事の問題もある。空腹を訴える大きな音がお腹から響いたのである。


「――」


 困ったような、そして泣きそうな表情に少女がなる。家族が戻ってこない、両親が戻ってこない。お腹もすいたし、帰る道も分からない。少女は森の中に入ってきたが、両親に連れられてであり森の地理に詳しくなく、またそもそも外にろくに出たことがない。帰ることもできず、食事をすることもできず、途方に暮れるばかりだ。


(…………どうしよう。本当にマジで困るんだけど……)


 そんな少女の傍らにいるオーガ。別に彼が困るということはないはずだが、とんでもなく困っている状態である。少女が帰ることをせず、森の中で途方に暮れたたずむばかり。お腹もすかせて困っている。彼がそんなことを気にする必然性はないはずだが、彼も元人間として困っている人間がいると気にかかるわけである。特にそれが幼い少女であるならば余計に。

 しかし、彼としてもできることはそう多くないだろう。彼はオーガであり、料理を作ることもできないし、少女と会話をして雰囲気を和ませることもできない。では何ができるか。とりあえず、少女のお腹を満たすことくらいである。だが、料理ができるわけでもない。彼ができることは食べられるものを何とかとってくること。森の獣、森の果実、それくらいだ。茸や野草を取ってくるのは正直難しい。オーガではだいじょうぶにしても、少女が食べると毒になる危険性があるのだから。

 そういうことで彼は森へ獣を狩りに行った。少女の元を離れるオーガの姿を彼女は見ていたわけであるが、しかしそれを気に掛けることはしなかった。そもそも何を気にするのか、という話になるだろう。少女は動くことはなかった。その場でにとどまり、何をするでもなく良心を待っていた。







「…………? ――――!? ……!!」


 少女は少々意識がふわふわと、朦朧としていた。そんな中、どさっという思い物が落ちる音を聞く。そちらを見ると、そこには獣の死体が。それを見て少女は驚き悲鳴を上げる。まあ、少女は元々村でそういった物をみるでもなく、あまりいい感じではない食事をして過ごしていた。そういうこともあってまともな食事、その元である生物の姿もあまり見ていない。そもそも生物の死を間近に感じたこともないだろう。血、肉、死体、それを見て少女は初めての恐怖を感じた。まあ、少女としては死体よりもオーガのほうが怖かったはずだが。

 オーガはそんな少女を気にするでもなく、死体の肉を引き裂いていく。それを見て少女はまた恐怖に慄く。自分も個の死体と同じ目にあわされるのではないかと。早く、早く両親が来て助けてほしい、そう思うばかりだ。まあ少女のそれは半ば現実逃避であるのだが。少女は両親が戻ってこないだろう、と考えている。いや、考えているというよりは心の中でそう思う部分があるというか。流石に現状に思う所があるわけである。そもそも、少女の今までの扱いを考えると、両親に連れられていきなり森の中というのも変な話なのだから。

 まあ、それでも家族を信じたいと思うのが少女の気持ちである。結局、それはできなかったわけであるが。


「………………」

(食えるかどうかわからないが、まあ、食べられるサイズにして置いておこう」

「……!? ―――、――――」


 いきなり肉をよこされた少女。それをどうすればいいのか、わからないわけでもないが、少女は肉を生で食べたことがない。そもそも、肉を生で食べるのもオーガでない少女には危険があるのではないか。渡されたところでどうすればいいのかと途方に暮れている。


「………………………!?」

(なにっ!?)


 少女が肉に触れていると、いきなりその肉が燃え上がる。そして、黒く焼けた肉、焦げてまともに食べれない表面に、ある程度焼けた内側……そして、ちゃんと焼けているかどうかわからないさらに内。少々不安である。まあ、焼けた肉はまだ少女でも、少し安心して食べることができる。ただし黒いところは不味いというか、食べられないと本能的にわかっているのか食べずにかさかさと剥がし落として食べたが。それを、オーガはうらやましそうに見ていた。彼は肉を焼くことができない。生肉じゃなくて焼けた肉を食べたいところである。







 と、そんなことをきっかけに。オーガは少女を育成し始めた。飼う、というわけではなく育成である。まあ、オーガとしては少女に対し養育的な目線で見ているし、逆にオーガも肉を焼いてもらったりしているため一方的な世話をしているという状況でもない。ともかく、そんな感じで一緒に過ごすこととなった。少女とオーガは会話ができない。少女はオーガの言葉を離せないし、オーガは少女の言葉を離せない。両者とも意思のある存在であり、意図を伝えることができないわけではない。しかし、やはり話ができないというのは中々に大変である。

 オーガはジェスチャー、または絵などに形を書いて伝える努力をし、少女はオーガの言葉を覚えようとする。そうして一番意図を伝えるうえで楽な形になったのが地面に描く文字である。もちろん、オーガの伝えたい意志をそのまま伝えられるわけではない。お互い自分の言いたいことを伝えるのに四苦八苦している。しかし、まあ、彼らの中は悪くはない。比較的良好だ。ただ、オーガと人間、種族が違う。それは決していい未来を想像できるものではないだろう。



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