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 オーガとなった彼の森での生活も恙なく続き、おおよそ一か月。簡素ながら自分の住居も森の中に作り、時々獣やゴブリンに荒らされつつも徐々に改良して住みよくし、時に森での食料確保を近場でやりすぎてとれる獲物がなく遠出することもあり、水場のほうに魚や何か生物がいないか簡単な釣り具でも作り全く連れず失敗したり、湖に存在する怪物の脅威におびえつつ湖に少し潜ってみたりとしつつ、そして森の探索と簡単なおおよその内情を把握してみたりと、彼なりに異世界生活を満喫していた。

 だが、忘れてはいけないことを彼は忘れている。この世界において彼はたしかに強力であるが、最強無敵の存在ではないということを。異世界ということでファンタジーに近しいこの世界に存在する人間、その脅威に関してを。


(……あれは)


 森を歩いていると遠めに歩く人影が彼には見えた。オーガの視力はそれなりにいいくらいであり、圧倒的に視力がいいわけではない。だが、その体格もあって遠くの物は見えやすい方だ。それゆえに基本的に遠くにある者の発見は割とやりやすいほうである。だがしかし、オーガという種族は結構な大きさの肉体を持つ存在である。森の中とはいえ、その大きな肉体で立っていればかなり見つかりやすく、遠めでも分かりやすい。彼がその遠くに見える彼らを発見できるということは詰まり、その彼らからもオーガである彼を発見できるということになるのである。

 オーガ。それは人間にとっては結構な脅威である。オーガの頭脳は基本的にはよくない。それゆえに戦いにおいては罠や遠距離からの一方的な攻撃などで倒す場合が多い相手である。というのも、オーガである彼が行った戦闘でわかるのだが、オーガとはとても力が強く耐久力のある種族。単純なパワーにおいて人間が集団戦でオーガに挑もうとしても多くの場合蹴散らされてしまう。そのうえオーガは頭がよくなく、それゆえに猪突猛進で殺戮の限りを尽くす。破壊と暴虐を体現したかのような性質を持つ魔物でかなり危険な存在だ。罠や技術だけではどうしようもない相手であることが多い。

 特にここ、森においては罠を仕掛けるのが難しく、また特殊な攻撃……いわゆる魔法や魔術の類も扱いにくい。遠距離攻撃もしづらく、どうにも面倒な場所だ。開けた場所のほうがオーガとは戦いやすい。ここ森には障害物が多いのだ。しかし、開けた場所は逆にオーガの身体能力を十全に発揮できるということもあり、自分たちが戦いやすいが相手も戦いやすいという状況になるのである。つまりそもそもオーガと戦うのはいろいろな面で面倒が多いということなのである。

 まあ、魔法のプロフェッショナルが揃っている場合や、うまく罠を仕掛けられる状況であったりすれば上手に誘導することでカモにできるのだが。そういう点においてはオーガの頭の出来が悪いのが都合がいい。もっとも今回彼らが発見したこの森のオーガである彼にそれは当てはまらないわけであるが。


(なんか指差してる。あれだ、確実にいい展開になるとは思えないな……よし、逃げよう!)


 遠目に見える人影の動作が彼には確認できる。オーガである彼のほうを指差し、仲間と何やら会話をしていた。当然ながらそれは『あそこにオーガがいる! 話せる相手かもしれない、仲よくしよう!』なんて都合のいいものであるはずはなく。異世界においてオーガは人間にとって戦う相手、狩るべき敵、駆除対象である。その事実を彼が知っているとは思えないが、多くのファンタジーの物語においてオーガは魔物として討伐されるものということは知っている。ゆえに彼は逃げることを選択した。まあ、ここで呑気にやあやあと近づいていくほどお気楽ではない。






「おい、オーガだ!」

「なに!?」


 森に素材の採集に来た彼らは冒険者である。そんな彼らは森の中に明らかに異質にそびえるオーガの姿を垣間見た。オーガは彼ら冒険者の中でもかなりの脅威出る存在だ。それゆえにその存在を見た時点で彼らはどうするかを判断しなければならない。なにせオーガは身体能力だけはとても優れている。今ここでオーガを発見した彼らの姿をオーガのほうも確認できていることだろう。確実にオーガはこちらに向かってくる。脳筋で相手がなんであろうと襲おうとしてくるのである。叶う相手かどうかすら判断せず、動く獲物がいればがーっと。

 そう、本来ならばそのはずだった。ゆえにすぐに判断し、逃げることを選ぶのが普通なのである。


「……なに?」

「逃げたぞ?」

「オーガだよな?」


 そのオーガは逃亡を図った。オーガには見られない行動だ。明らかにあり得ない出来事である。逃げるためにどうしようかと考えていたところに不意打ちで逃げられた感じであるため、どうにも彼らは戸惑っていた。もっとも彼らはオーガに勝てるような実力もなく、罠や魔法などの対応策も存在しないため逃げきれるかどうかも怪しいところだったため、ある意味相手が逃げたのは幸運である。しかし、その異質さははっきりとわかる。


「……ともかく、戻るぞ」

「おう。そうだな……」

「オーガがいたことを報告しないといけないもんな」

「逃げたことも……よくわからないが、もしかしたら変種か何かかもしれないし」


 オーガの行動は明らかに異質であり、もしかしたら知能の高い個体、特殊な力を持つ個体であるかもしれない。また、例えばオーガを従える何者かがいる可能性もある。理由は不明だが、そういった存在がいる可能性も考慮し、またオーガがいる時点で危険なことに変わりはなく、そのことも伝えなければいけないだろう。彼らがここで死んでしまえばそれこそ情報の伝達がなされず被害が広がることになる。

 もっとも。彼らの言うことが信じられるかどうかは不明であり、仮に信じられたところで最初は状況調査からになるだろう。オーガを倒せる戦力をいきなり即投入できるほど単純ではない。報酬の問題もあるし、何が起きているかを把握しなければならない。まあそれは彼らに発見されたオーガに転生した人物にとってはかなり嫌なことになるのだが。


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