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 かつーん、かつーんと斧が木に振るわれる音が響く。森の中、たくさんの盗賊たち……とはいっても、そこまで多いわけではない。およそ二十人ほどの集団である。そんな彼らがある程度分散して木を切っている。密集していた場合、切り倒された木が危ないのでそれぞれが切る木の位置は配慮しなければならない。


「…………」


 彼らの士気はかなり低い。まあ、目の前で彼らの元々の頭である人物が頭を爆発させて死んだのである。自分たちも下手をすればそういうことになってしまう、確かにそれがわかれば彼らも暴走することはなくなると思われるが、しかしやはり怖い。恐ろしい。彼等は改めて自分たちが虜囚になったことを理解したのである。それゆえに命令は聞かなければならず、またそのため士気が低い。望んで行う行動でもないわけであるし。

 そのうえ、躊躇なく殺される可能性もあると言うことは、自分たちの命を捨て駒、道具のように扱っているともいえる。仮に死んだところで損はなく、問題もない。だからこそ好きに使いつぶせる。つまりそういう使い方をされる危険性もあると言うことである。いや、むしろそういう使い方の方が有用的だろう。結局のところ、彼らは資源として使いつぶしたところで何ら問題ないのだから。そう思ってしまう所だからこそ、士気は低い。


 アォー……ン


「っ!?」

「ど、どこからだ!?」


 遠吠え、森の中にいる獣の鳴き声が遠くから響く。その声が聞こえると言うことはどこかにその獣がいると言うこと。そして、それは彼らの出す音によって来ることだろう。彼らが武器を必要とする、防具を必要とする最大の要因は森の獣から身を守るためである。もっとも、獣も森の外にいる相手を迂闊には襲わないだろう。それも集団ならば尚更だ。余程弱く見えたり、彼ら自身お腹が空いて居たりすれば話は違うが。


「おい、えっと、魔法使い!」

「んー、まあ魔法使いでいいか。ただしさんはつけなさいな」

「お、おう、おい、魔法使いさん!」

「何だ?」

「獣が来るかもしれねえ! まだやんのか!?」


 賢哉に対し、盗賊の一人が声をかける。どこかずれた返答をしているが、とりあえず賢哉はその声に反応し、盗賊は獣の脅威について語る。森の獣の脅威は彼らは何度も味わっている。伊達に森で住んでいたわけではない。その一番大きな役割を果たしていた頭はもういない。その代わりを賢哉が担わなければいけないだろう。人数自体は十分かもしれないが、問題は武器と防具、あとは指揮と士気。まともに戦えるかも怪しい。まあ、幾らか木を切り倒しているのでそれなりに戦いやすくはあるかもしれないが、なれない斧での戦い。代わりに全員が武器を持っているのはありがたいことではあるかもしれないが。


「ああ。獣が来たところで何も問題ない」

「けどよお……俺たちだってああいうのと戦いなれてるわけじゃ」

「誰がお前たちに戦わせるって言った?」

「何?」


 ひゅん、と杖を振る。ごうっと、風が唸る。


「俺が戦う。お前たちはきちんと木を切って仕事をしてろ。それが役割だ」

「お、おう……」


 適材適所とはまた違うが、賢哉の役割は戦いが主。もちろん他にも魔法を用いて多種多様な色々なことをやれるわけであるが、基本的に彼が行おうとしていることは開拓。その開拓を行うための道具作り、その道具を使って開拓を行う者たちの監督、そしてその開拓を邪魔しようとしてくる存在に対応すること、それが彼のやろうとしていること。つまりは敵対生物は彼が排除すると言うことである。






 森を獣たちが駆ける。狼の群れ、それが森を進んでいる。かつんかつんと木を切る音が彼等には聞こえている。匂いに関しては、薄っすらと何らかの生物の匂いを感じる程度であるが、それがわからないわけでもない。つまりは彼らはそこに獲物が存在していると言うことを理解しているのである。


「……?」


 しかし、森を進み進めども、彼らはその匂いの下へと到達することが出来ない。おかしい。匂いをまっすぐ追っているはずなのに、いつの間にか彼らは匂いから離れた場所にいる。


「オオン!!」


 群れのリーダーたる狼が吠える。何かおかしい、何か変な出来事が起きている、何が起きているのか、それを注意しろと狼は群れの仲間へと指示する。群れはいくらかの層をなして移動し、またその群れの進む方向が変わればその都度リーダーが吠えて指示を出す。そうして群れは匂いへ向けて真っ直ぐと向かうことができていた。このまま進めば、進む方向が途中で変わろうとも何とかなる。そう思い、にやりと口角があがる。狼でも笑みは浮かべるのだろうか?


「……!?」


 しかし、そんな狼たちが、一気に何かに押しつぶされた。確かに狼のリーダーは目の前の光景を見ていたはずである。特に何かいるようなことも、何かがあるようなこともなく、そして何かが降ってくることもなく、唐突にぐしゃりとそこにいた狼たちが押しつぶされたのである。


「オオーン!!」


 警戒のあまり狼のリーダーが吠えた。少なくともそれは偶然ではないだろう。自分たちがいつの間にか方向を逸らされていたように、何者かが意図的にそれを行っているはずだ。そのための警戒の吠えである。そのリーダーの鳴き声に他の狼が反応し、周囲にはピリピリとした警戒感が満ちる。


「やれやれ、中々頭がいいんだな。まあ、何でもいいんだけどな」


 そう喋りながら、森の中から一人の男性が現れる。その男性に対し狼のリーダーが睨みつける。今まで自分たちに何かをしてきたのはこの男だ、そう本能的に察知したのだろう。敵対する相手。


「オン!」


 吠え声、それをきっかけに周囲にいた狼たちが一斉に男性に対して襲い掛かろうとした。しかし、男性はそれに対し杖を一振り。その一振りで、動こうとしていた狼たちが消し飛んだ。


「……!?」

「さて。出来る限り回収したいところであるが……うーん、俺はあまり犬系統は食いたくないんだよな。狼を犬と混同するなと言われそうだけど、たぶんイヌ科でいいんだよな? 狼はそれで。まあ、どちらでもいいか。関係ないし。まあ、そういうことなんで、大人しく森の肥やしにでもなってくれ」


 もう一度男性は杖を一振り。それにより、残った狼たちが消し飛ぶ。残っていたリーダーももちろん。


「……チートすぎるな。まあ、それは既に分かってたことか。この世界でも問題なく魔法が使えるのはありがたいが、しかし常識的な違いというか、魔法に対する認識の違いは意外に面倒そうだよなあ……あの子が後ろ盾になってくれるなら、いいんだけど。まあ、こちらはこちらでがんばるしかないかな」


 そう言って男性……賢哉は元来た方向へと戻る。森の木を切る盗賊たち、その監督が必要であるためだ。なお、彼らの安全自体は周辺に幾らか展開している敵を感知する魔法によってわかるので、必要があればすぐに戻ることができた。とりあえず今はその必要がないのでそれなりにゆっくり、それなりに急いでである。


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