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 開拓領地、その場所において基本的に物資が足りていない。食料、資材、建物すらもろくに建築されておらず、領地として明確に区切るための壁、柵のようなものすらも作られていない。周りは森に囲まれており、一応村という形はとられている者の入るための入り口以外は殆ど手が出されていない。もっとも、開拓領地という名の場所なのにろくに開拓がされていないのには理由がある。

 一つはこの場所に来る人間の意思。そもそもこの開拓領地は行き場のない人間の吹き溜まりともいえる場所。追いやられ、捨てられ、蔑まれ、嫌われ、排斥された結果最後に行きつくような場所。もちろんそういった逃げてきた人間達も様々な理由でそうなっている。だが、そういった人間たちが最後に来る場所、そこに来るまでの色々な精神のすり減りや苦悩苦労もあり、活発的積極的な行動はあまり行われず、能動的な開拓が行われていない。そもそも彼らは生きるだけで精一杯という人間が多い。

 一つは開拓領地という場所そのものの過酷さ。そもそも開拓領地には足りていない物が多すぎるのである。人的資源、生存に必要な食料、開拓を行うための資材、そういった様々な物。開拓という物、行動を起こすにはエネルギーという物が必要だ。開拓を行うにはそれだけの労力、人員、時間、道具、そういった物が必要になってくる。しかしそういった物がこの場所にはない。それを始めるための物がろくにないのである。あるとすればこの地にやってくる人間がなんとか持ってきた道具くらい。それでは全然足りていない。そういうことなのでろくに建物を建てられず開拓も行われていない。むしろ建物を建てられているだけマシというべきか。

 一つは盗賊たちが根本的な原因である。と言うのも、彼らは開拓領地に来るはずの人間を襲っていた。彼らもただ遊びで襲っていたわけではなく、自分たちの欲や必要な食など様々な理由がある。まあ、理由はこの際関係ない。善だろうと悪だろうと、彼らが開拓領地に向かう人間を襲い、その結果開拓領地に人が来なくなり、人的資源が足りなくなったと言う事実には変わらない。開拓領地は危険地帯だ。その開拓を行うのに人員は必要不可欠だ。木を切り倒し開拓する者、その周囲を守る者、見張り、運搬役、そして家を建てるにも一人や二人ではどれほどの難易度が必要になることか。つまり人が来なくなることで開拓が行われなくなった、というのが理由になる。開拓して死亡すれば人がいなくなってくるのだから。


 さて、そういった事情で今までは開拓はろくに行われてこなかった。しかし、ここにフェリシア達が来た……正確には賢哉が訪れたことで、事態が大きく転換することになる。

 まず、意志に関して。個人の意思をどうこうするのは難しく、賢哉でもあまりやりたくない行いであるが、犯罪者である捕まえた盗賊たちは話が違う。彼らは自由意志を許されているが、その行動の自由は制限されている。いうなれば奴隷に近い立場であり、賢哉の命令であればその仕事を行う必要性がある。彼らの意思がどうであれ、開拓のために彼らを使うことができるのである。

 しかし道具ないと彼らも言うだろう。彼らも武器や防具を有して盗賊活動を行っていたが、それはすでに取り上げられている。いくら盗賊がそれなりに荒事に通じているにしても、その身一つで木を切り倒すとかできるはもない。そして、当然ながら木を切り倒すための道具もここにはない。どうやって開拓を行えと言うのか。もっとも、それに関しては賢哉がいるのでなんとでもなる。なぜなら彼の使う魔法があれば、簡素な形ではあるが武器も防具も作り出せる。もちろん正式な武器と違うと雑ですぐに駄目になるものだが。

 そして足りない人的資源は今までその人的資源を潰してきた盗賊たちを利用することで解決する。そもそもからしてこの地の開拓を阻害してきた盗賊たちだが、今回御縄につき、その存在そのものを利用し開拓に用いる。さらに言えば、彼らが捕まったことでこれから開拓領地にやってくる人材は潰されることもなくなるだろう。そういうことなので基本的に今はもう開拓を行うのに問題はない。まあ、それ以前にその彼等、盗賊を開拓に使うので他の人間には別のことをやってもらいたいところではあるのだろうが。


 と、そういうことなので今賢哉と契約をして自由が奪われた盗賊たちは森の側へと来ている。


「こんなところに連れてきてなんだよ……」

「森に放り込む気じゃねえだろうな……」

「誰も死んではいないのか」

「…………」


 盗賊たちもざわざわとしている。一体これから何が行われるのか、何が始まるのか。賢哉という存在自体に恐怖感のある彼らはこれからどうなるのか、少し怯えのようなものも交じっているように見える。そんな彼らに賢哉は告げる。


「これからお前たちにはここで開拓を行ってもらう」

「開拓?」

「森に入るのか?」

「何しろってんだ……」

「死ぬぞ、これ」

「やべえ、やべえよ……」

「…………」


 開拓、つまりは森を切り拓くことだが、その危険を盗賊たちも理解している。それゆえの発言だ。彼らもずっと森で過ごしていた。森の木剣という者はよくわかっている。そのうえ、今はその時持っていた装備すらも奪われている。彼らは今ただ服があるくらいでしかない。森の中にいて襲ってくる獣に対抗する武器や防具もないのにどう開拓すればいいのか。当然開拓なんてできるはずもない。まあ、それは賢哉がいなければそうなるというだけであるだろう。


「道具がねえだろ道具が」

「そうだな。今はない……が」


 賢哉が杖を振る。ごりっと地面から音がして、ずりっと斧が浮き上がってくる。


「それを使ってもらおう。もちろん人数分用意する」

「すげえ」

「何だ今の?」

「魔法ってやつか?」

「あまりいいもんじゃねえな」

「魔法使いってとんでもねえ」

「…………」


 盗賊たちが目の前で行われた武器を作った賢哉の魔法に感嘆を示す。彼等の中には魔法使いに対する恐怖があるが、それ以上に目の前で見た、武器を作り出せる魔法に感嘆を漏らしている。彼等盗賊は全ての人員が武器を持てたわけでもない。人数分の武器が用意される、道具が用意されると言うのは彼らにとってはありがたいことである。そういう可能性がある、というだけでも彼らにとってはなかなかありがたいことだ。


「…………」

「これならなんとか……って、頭?」


 盗賊たちがこれならちょっとは何とかできるかも、と思っている時……無言のまま、どこか様子のおかしい盗賊の頭であった男がその造られた斧に手を伸ばす。最初からその盗賊の頭は様子がおかしかった。かと言って賢哉の話している途中に話しかけるわけにもいかない。先ほど賢哉と話している時はこんな様子ではなかったのだが、一体どうしたのか。そんな事を考えていた、そんな中での行動である。

 斧を取った元盗賊の頭はいきなり賢哉に切りかかる。賢哉は次々と斧を作り出しており盗賊の頭に背を向けていた。


「うおおおおおおおおおおっ!!」

「危ねえっ!」


 一応彼らは賢哉に敗北し、その意志に従うことになった。それゆえに思わず盗賊の頭の攻撃が賢哉に向かうことを叫ぶ。彼らとしては契約をした賢哉がい無くなればもしかしたら自由を得られたかもしれないと言うのに。まあ、実際は賢哉が死んだとしても自由になるかは怪しい。むしろ連鎖的に爆発して死亡、とかになりかねないのだが。そういった様々なハラハラ感が彼らにはあったことだろう。

 しかし、その終わりは訪れない。斧を持ち、それを賢哉に振り下ろそうとした盗賊の頭から爆発音がし、その首が吹き飛んだからだ。


「…………」

「…………」

「…………」


 盗賊たちはその光景を見て無言になる。賢哉の行った契約、それが履行された結果である。


「ああ。ついに犠牲者が出たか。最初の犠牲者だな」


 賢哉が振り向いて、そう淡々と述べる。


「契約を破ればこうなる。こいつみたいになりたくなければ、普通でいいからしっかりと働くように。別に無理しろとも命をかけろとも言わない。あくまで普通の人間がやる程度にしっかりそれなりに働けばそれでいいから。わかったか?」

「はい!!」


 盗賊たちが異口同音にそう唱えた。




 ちなみに。盗賊の頭の行動は偶然そうなった、というわけではない。賢哉は盗賊の頭の契約書だけは他の盗賊に使った契約書とは違うものを使用していた。具体的に違うのはその契約の内容である。彼の契約書には、彼の精神誘導とそれに誘発される行動が示されていた。即ち、先ほど彼が賢哉を襲ったのは意図的なもの。つまりは意図的な契約破りを行わせたわけである。

 何故盗賊の頭に対しそのような行いをしたかというと、仮にも彼は盗賊の頭を務めた存在。そのカリスマ性、統率力、場合によってはまた盗賊として部下をまとめ上げ逃亡する、もしくは村に対し攻撃する危険などを考慮した結果だ。もちろん契約をしていれば仮にそうしたところで害はないが、しかし念には念を。確実に始末し今後問題なく行くように、と考えてこうした。後見せしめの効果もある。実際に契約を破った人間がどうなるのか、それを見せることで絶対に自分から契約を破ることがないように。それが功を成すかどうかはわからないが、とりあえず彼らは賢哉に従うことをすんなりと受けいれている。今のところは。



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