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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
maou girl
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32 今と元

「加勢するぞ!」

「っ、雄成さん! すいません、ありがとうございます!」


 自分のみで戦うことに固執しないのは実にありがたい話である。勇者が勇者として、己の役割の固執し自分のみで魔王を倒すべきと考えた場合雄成が戦闘に参加することはできなかっただろう。無理やり参加してもいいが仲間内で変な確執が生まれるのも面倒くさいし帰還の手助けを受けたいのだから仲はいい方がいい。そういうこともあって勇者の判断はありがたかった。


「ふん! くっ、貴様も勇者か!」

「悪いが、そういう大層な物じゃない。似たようなものみたいだけどな」


 実質的に言えば勇者が二人。そんな状況にあるため魔王は実に不利な状況と言える。そんな二人に加勢するようにトリエンテアが姿を見せ、魔王はそちらに向けて叫ぶ。


「貴様は魔族だな! 我が悲願の達成のため我を手伝うがいい!」

「……悪いけど、私はあなたに従うつもりはない」

「なんだと! 貴様も魔族にありながら我を裏切るか! 魔族も実に軟弱になったものだ! ああ、あの時世界を支配出来なかったのは実に口惜しい話だ!」


 戦いにおいて勇者側が有利。トリエンテアは直接の参加はしていないものの、勇者と雄成の二人に彼女も参加してしまえばほぼ確実に勝てる。いや、トリエンテアが参加する必要性すらなかった。


「勝てぬか。仕方のない話、やはりそう簡単には届かぬようだ」

「魔王、これで最後、です!」

「待った」

「えっ?」


 勇者が魔王に止めを刺す……そうしようとしたときにトリエンテアが勇者を止める。


「おお! やはり貴様は魔族、我らが味方よ! さあその勇者を殺せ!」

「……私はお前の味方じゃない」

「トリエンテア、さん? いったいなぜ止めるんですか?」

「魔王の正体……いつも現れた魔王を倒せばいい、そんな状況だと面倒。なぜ魔王が現れるのか、あなたたちはわかっている?」

「えっと……レア?」

「……いいえ。魔王は唐突に表れるもので、出現の理由はわかっておりません」


 魔王という存在について、勇者や勇者を召喚する側は明確な理解をしていない。ただ、それは人類に対し敵対的であり、魔族を支配しこの世界を支配する、征服することをもくろむ存在である……ということくらいはわかっている。逆に言えばそれくらいしかわかっていないということでもある。とはいえ、それだけわかっていれば魔王が脅威であるということはわかる。であれば魔王を倒すことに力を費やす理由としては十分、実際御伽噺になるくらいに魔王の脅威が伝えられている以上それを野放しにすることはできない。

 しかし、出現理由、根本的な魔王の存在理由に発生原因、そちらがわかれば魔王という存在そのものが生まれることを根絶できるかもしれない。現在魔族は人間によってとても穏便な状態になっている。まあ、一部では人類の組織もあるかもしれないが、魔族自体はそこまで人間に敵対的ではなくなっている。そうなれば勇者もこの世界に必要なくなるし、魔王という危機もなくなる。それはそれで人間側にとっていいことかは不明だが、少なくとも魔王がいなくなること自体は勇者として呼び出され使われることになる人間がいなくなることにつながるのだから悪いことではない。今回のような隠れて周囲に被害をもたらすようなことも少なくなるだろう。


「……魔王。いや、魔王の意思。久しぶり」

「久しぶりだと? 我は貴様のような魔族に出会ったことなど………………いや、まさか! 貴様! あの時の!!」

「トリエンテア。あなたの意思に従い、魔王となり、世界を支配する一歩手前まで頑張った過去の魔王。それにしても、良く生きてた。あの時お前は勇者に吹き飛ばされていたのに」

「ふん! あの程度で我が死ぬことなどあり得ぬ! 貴様こそなぜ生きている! 勇者に殺されたのではなかったか!」

「事情がある。それをお前に話すつもりはない」


 トリエンテアは過去の時代の魔王。そして魔王……今の魔王に宿る、トリエンテアにも纏わりついていた魔王の意思、二人は一応知り合いと言えば知り合いである。もっともトリエンテアとってはどうでもいい相手ではある。その存在自体には大した興味もない。元々トリエンテアが世界征服に勤しんだのは己が魔王としての立場になったからであり、それ以上の理由はない。彼女に世界を支配するような目論見も、魔王の意思に従うような崇高な理由もないのだから。


「え……えっと、彼女の言ったことは……」

「俺はティアから聞いた以上のことは知らないが、まあ事実みたいだな」

「どういう事ですか!? 彼女はあの容赦ない残虐な最悪の魔王なのですか!?」

「……まあ、容赦はないが残虐とか最悪とは違うんじゃないか? 御伽噺の魔王、古い昔話の、過去の魔王という存在ではあるが」

「そんな…………」

「ティアは別に人間に対し恨みや憎しみがあるわけじゃない。下手に手を出そうとして喧嘩を売る方が面倒ごとになると思うぞ? 今は魔王じゃないしな」

「ですが、放置はできません。あの魔王が生きていたとなると……私たちとしても」

「レア。彼女はただの魔族だよ。少なくとも今、彼女は魔王と戦うためにこちらに味方してる。必要なら、後で彼女から詳しい話を聞こう。今すぐにすべての結論を出す必要はない。それよりも魔王をどうにかする方が優先だよ」

「…………はい、わかりました」


 トリエンテアが正体を明かしたことによる影響は大きいものの、今すぐにどうにかなるということはなかった。とはいえ、魔王とトリエンテアが対峙している現状、特に状況が動く様子はなかった。

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