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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
maou girl
125/190

28 詳細

「そんなことが……」

「少し信じられませんね……」


 雄成の話す事情、異世界からの転移、迷い込みに関して勇者と聖女は完全には信じきれない。特に聖女側は完全に信じることはしていない。そもそも勇者の召喚という形で異世界から人間を招くことはあるが、何らかの原因で異世界に穴が開きそこにいる人間を引き込むことは想定はされていない。それに異世界からの召喚という行為、勇者という存在そのものに価値を置く彼女と彼女の所属する組織において、勇者と同じような形で異世界から来る存在を安易に認めることは難しい。勇者の権威がそういった存在によって揺らぐ危険性がある。仮に雄成のような存在が容易に発生するようであれば困るわけである。


「勇者の召喚とはまた違う形で異世界から来るのか」

「まあ、俺がこちらに来たのはかなりの偶然だったがな」

「当たり前です……そもそもそんな簡単に異世界から人が来るようなことがあるはずがありません。一体どうしてそのようなことに?」

「それは……俺はあまりよくわからない。俺は元々この世界のように世界に魔力が存在するような世界じゃなくて全く魔力が存在しないと言っていい、魔法というものや魔族や魔物の類が存在しない世界だった。異世界という概念に関して理解はあるが、果たして本当に実在するかすら判断できない場所だったんだ。そんな世界にいたのにこの世界に偶然来ることになったがどうしてこの世界に来たかなんて正確にはわからないな」

「……そうですか」


 雄成に厳密にその内容の理解をしろと言っても難しい。そもそも世界間の移動の原因はトリエンテアだが、トリエンテアもその事実が起きた原因については推測でしか解答ができない。それくらいに異世界転移、異世界移動は難易度が高く危険が大きい、本当に偶然起きるような出来事なのである。まあ、今回の雄成のことに関しては偶然ではなくトリエンテアの存在が大きく関わっているわけであるが。


「そうしてこの世界に来た俺を助けてくれたのが彼女だ」

「それに関してなら私も雄成に助けられた。魔族の討伐は雄成への恩返し……雄成が元の世界に戻るために必要なことを成すために行ってるだけ。雄成を助けるのも恩返しの一環」

「……どう考えても恩返しが過剰な気がするけどな」

「雄成が元の世界に戻ることができるまで、私は精一杯頑張るだけ。できるまで私は雄成を守るために力を使う」

「流石にそれは大変でしょう……いえ、元の世界に戻るとなると」

「勇者の召喚は異世界からの召喚。とうぜん帰還の術も存在する。その帰還の術の仕組み次第では雄成が元の世界に戻ることもできるかもしれない」

「……………………」

「どうなの?」


 ここにおいて聖女は返答に窮する。もっともこれを返答しないという手段はできない。なぜならこの話については勇者であるカルートも聞いているからだ。仮にカルートが元の世界に戻れないと言われた場合どのような行動をとるかわからない。勇者は異世界から召喚しているわけであり、召喚されて帰ることができないと言われると流石に彼らも文句があってしかるべきだろう。それこそ叛意を抱いてもおかしくない。

 実際召喚に対する帰還の術自体はある。勇者も必要がなくなれば元の世界に返すこと自体は何ら問題ない。もちろん利用するだけ利用してあっさり返すということはしないで本人の望む報酬を支払うし、残りたいのであれば残ってもらう、想い人があれば一緒になる、そんなことも有り得る。しかしそういったことに関しては勇者だからこその権利であり、雄成のような勇者の召喚に関わらない人間を帰還させるのはどうなのか、ということになってくる。


「……もちろん帰還の術も存在します。勇者様が元の世界に戻る手段がないなんてことはありません。仮にあるのなら事前にそうお伝えするでしょう」

「まあ、そうだね……戻ることができないと言われたら流石に困っちゃうよ」

「困る程度で済むの……?」

「ですが、それは勇者様だからこそです。彼は勇者様のように召喚された人ではありません。帰還の術を使う許可を頂けるかはわかりませんし、果たして帰還させることができるかもわかりません」

「……そうだな。俺は勇者のように召喚されてきたわけじゃない。召喚した勇者の帰還を行う術が俺に通じるとは限らないな」


 ある意味一番の問題は召喚された存在と転移でこの世界に来た存在が同一であるかどうかだろう。帰還の術により元の世界に戻すことができるのは何らかの手段で異世界から来た存在か、あるいは召喚にてこの世界に来た存在だけか、そこに関しては厳密には判断できる内容ではない。何故ならそもそもそういったことを試したこと自体ないからである。勇者の帰還に関しては一応数が少ないなりに実例はある。どちらかというと勇者が負けた事実……特にトリエンテアが魔王であった時代に帰還させられなかった勇者の多さと損失した様々な資料の問題もあって帰還させられなかった実例の情報の方が多いのだが。まあ、トリエンテアを倒した後の勇者の存在もあるので一応勇者の帰還の実例、結果に関するデータはある。もちろんそれは勇者のみの話であり、他の異世界存在の情報はない。


「それでも…………それ以外の方法による帰還手段は思いつかない」

「……そうですね。確かに手段としてそれ以外の手段は想定できない、というのはわからなくもありません」


 異世界転移は本当に偶然、何らかのきっかけや理由がいるものであり、雄成がまともな手段で帰還するのは恐らく不可能。勇者に使う帰還の術以上の手段は考えられない。


「だから魔王討伐への貢献に対する報酬として求めるのはその帰還の術を雄成に使用すること。それ以上のことは求めない」

「…………」

「そちらとしても勇者と同じ異世界から来た存在が残るのは問題ではない? 勇者の強さは……」

「……っ、確かにそれは」


 異世界から来た存在はほとんどの場合この世界に来ると強くなる。勇者のような、魔王を倒せるような強さを持つ存在をずっとこの世界に残しておくのは危険である……勇者の帰還を行う理由の一員はそこにあると言っていい。まあ、それでも勇者の願い次第では残すこともあるのだから単純に言えるものでもないのだが。しかし、雄成のような存在、偶然難からの理由で異世界から来た存在を残しておくのは、不安が大きい。雄成は勇者と違う。勇者は一応勇者としての精神性を持つような、正しく優しい善性の強い存在を召喚することとなっている。雄成はそれに当てはまるかどうかわからない。ゆえにこの世界に残すことになるとその力で一体何を成すことになるのか。不安に思ってきてしまうだろう。


「わかりました。一応試してみる形になるでしょうが……」

「ダメならダメで仕方がない。他の手段を探すしかない」

「………………」


 戻ってもらわなければ困るのだが、ダメな場合だってあり得る。いろいろな意味で聖女は頭を抱えるしかなかった。

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