25 七幕
「今だ!」
「っ!」
「……なるほど。誘いだったのね」
四方八方から魔族が雄成とトリエンテアに向けて襲い掛かってくる。魔物はいない。魔族だけだ。
何度もいくつもの依頼を受け、魔族の起こしてきた問題を解決してきた雄成とトリエンテア。魔族が起こす事件は別に二人だけが解決しているわけではなく、二人が向かった時には既に解決されていたということもあった。恐らくは勇者の手によって解決された物だと思われるが、実際にどうなのか不明で既に解決しているということくらいしかわからない。そのわからなさこそ勇者の手によるものだと考えられる理由だが、勇者がどこに行ったのかいつ解決したのかもわからなければあまり意味はないだろう。
そしてそういった数多の事件解決に勇者ではなく雄成やトリエンテアの方が乗り出すことが多く、また情報統制の関係上か二人の方がそういった怪事件珍事件難事件の解決を行っていることで有名となったわけである。そしてそういった情報は人間の間での情報のやり取りだけではなく、魔族にも知られることとなった。
今回の事件の解決に来た雄成とトリエンテアをこれまで数多くの自分たちがしてきた人間社会への攻撃を防いだ厄介者として倒す。いや、そもそも今回の事件は雄成やトリエンテアを誘い出すことが目的のもの。それゆえに多くの魔族が集まり二人を襲った、ということになるわけである。
「数が多いな!」
「厄介?」
「いや……まだなんとかなる」
数が多い、集団であるというのは戦闘において中々に厄介なものだ。しかしそれは絶対のアドバンテージではない。勇者に匹敵する雄成と魔王に匹敵するトリエンテア、本来のそれらの存在ではないものの匹敵するだけの力を持つ二人は多少の魔族相手では怯まない。だが簡単に倒せるというほど楽でもなかった。魔族側も雄成とトリエンテアの存在を把握した以上その二人にどう戦えばいいのか、どうすれば勝ち目があるのか、ただ襲うだけでは意味がない、勝てない。ゆえに勝つための手段を事前に模索しておかなければならない。
そして今回はそれを実行している。
「っ! くそ、面倒だな」
「……確かに厄介。戦法としては珍しくもないけど」
前衛を硬い防御力の高い盾の兵で固め、後方から遠距離攻撃で攻める。別に珍しくもない良くある戦い方。雄成もトリエンテアも戦闘能力は高いがそれで一瞬で殲滅できない状態で攻撃を受けるとなるとなかなか厄介ではある。戦闘能力が高いとしても防御能力が極端に上がるということはなく、弱点は弱点のままであることが多い。
たとえば剣の攻撃を受けても少し食い込むくらいに肉体の防御能力が高くなったからと言って眼球は木の枝でも貫くことはできるだろう。男性ならば男性器はやはり強力な攻撃を受ければかなりの痛打を受け、体内部分が弱いことには変わりない。ゆえに相手の攻撃を防御力が高くなったからと言って受けることは容易に認められないのである。本能的な忌避や反射的な動作に関しては普通にの人間と変わらないというのもある。そのあたりはしっかり訓練しなければ改善されない点だろう。
ゆえに抑え込まれた状態で遠距離攻撃を無数に撃ち込まれるのは厄介なのである。
「でも、これくらいなら……!」
トリエンテアが腕を振るう。発生した衝撃波が二人を襲う魔法を薙ぎ払う。
「なっ!?」
「我々の攻撃が!」
全てではないものの、トリエンテアの前方、前側の魔法が薙ぎ払われる。流石に後方までは一度の攻撃でカバーしきれない。
「そっちは魔法はなんとかなるのか!」
「雄成の方は?」
「打ち落とすのが精いっぱいだ!」
流石に飛び道具相手では雄成は分が悪い。どちらかというと雄成の得意とするのは近接戦。
「そう。なら私の方が先に相手を減らす」
「頼む」
トリエンテアの魔法は相手の魔法を打ち落とすことに使われる。魔法を同時に複数使うのは流石に戦闘しながらだと面倒だろう。
「何!?」
「こいつ、近づいてきたぞ!」
魔法を使う魔族というのは接近戦はあまり強くないということが多い。魔法を使う方にその力を費やし近接戦慣れしないからだ。もちろんすべての魔法を使う魔族がそうであるわけではないが。しかしやはり一般にはあまりそういった存在はイメージしづらい、ゆえに魔族たちはトリエンテアの行動を理解できなかった。
「ふうっ!」
「ごあっ!?」
思いっきり蹴り飛ばされる魔族。いくら防御力が高くとも踏ん張る力が高いというわけでもないし、魔法と違い肉のある物理的な攻撃は下手な魔法よりも威力がある……時もある。相手によって有効的かどうかはその時々によって違い、今回は比較的有効な相手だったらしい。
「なっ!?」
「そっちも」
「ぎゃあっ!」
前衛として防御を固めた魔族を吹き飛ばし蹴散らし、そのまま魔法を使う魔族たちにトリエンテアは向かっていく。盾となる前衛を失った彼らはトリエンテアに魔法を向けるがそれを打ち消され、むしろ余波で彼らの方が吹き飛ばされる。
「さあ、叩き潰してあげる」
「ひいいいいいいいいいいぎゃああっ!?」
魔法を使う魔族は近接戦闘が得意ではない。魔王として近接戦もできていたトリエンテアと彼らではくらべものにもならない。あっさりとトリエンテアに殲滅された。そして前衛の魔族も蹴散らしただけでまだ生きている。そちらも潰し、およそ半数程をトリエンテアは潰す。
「雄成!」
それからトリエンテアは雄成の方へと加勢。雄成一人ならばともかく、トリエンテアも含めた状態では攻防はとても楽になり、相手をするのも難しくはない。そのまま残った魔族を倒しきる。
「……助かったティア」
「別に構わない。これくらいなら全然」
雄成としてはトリエンテアの助けを受けることに関して少し複雑な思いがある。見た目は少女であり、今までも色々な形で助けを受けている。せめて足手まといにならないように、同じくらいに戦えるように、そんな思いがある。一方でトリエンテアは雄成を助けることは何の苦にもならない。彼女にとって雄成は恩人であり、自身のことに巻き込んでしまった相手。その恩返しとして苦境を助けることに迷いはない。
微妙に噛み合っていないような、複雑な関係だが、トリエンテアは雄成の想いに関してはわかっていないわけではない。ただ彼女も雄成を助けるのは自分の中で最上の重要事項である。それを雄成側も理解しているため、複雑ながらも文句はない。




