22 道標
魔族と多くの魔物を倒した雄成とトリエンテアは街の方に戻る。元々今回のことは依頼を受けての坑道における異変の調査であり、魔物や魔族を討伐することではない。しかし、その異変がそもそも魔族の手によるもの、原因がそちらにあるのであればその魔族を討伐することで解決した、と言えることかもしれない。現時点ではそのあたりのことははっきりとはわからないわけであるがその可能性は高い。もっとも、雄成とトリエンテアの言い分、魔族や魔物を倒したという話が信じられるかどうかは怪しい限りではある。まあ、そこは多くの死体を調べればいい話なので後で調査をしてそれらの死体が見つかればいい話になるのだが。
今回の件が魔族の手によってなされたことである、ということは既に報告で分かっている。倒したという雄成とトリエンテアの言に関しては一応信じるという形で話は進められたというものの、問題は別である。その魔族が存在すること、そこがそもそもの問題である。
雄成とトリエンテアの報告は冒険者ギルドのギルドマスターにされた。一応その話自体は他の冒険者も少し聞いてはいるものの、重要な部分に関してはいろいろな問題を持つ可能性があるため冒険者ギルドのギルドマスターだけが聞くことになったのである。トリエンテアが魔族から聞いた、魔王についての話。これまでも魔王という存在はいたが、今の人間の世ではかなり魔王という存在に関しては安定した状態……魔王の発生を抑える、対応する、そんな状態が続いていた。しかしここで本当に魔王が発生し、人間に対する敵対行動が行われるようになった。これはかなり大きな問題である。
魔王は元々人間に対し敵対的であるのだが、それでも発見しすぐに討伐することでその活動は抑えられる。魔族を監視下に置くことで対処してきていたが、その束縛から逃れた者がいるということになる。そして、それらは他の魔族をまとめ人間に対して攻撃をしてきた。
更に大きな問題として、その行動の内容が厄介なものだということ。トリエンテア自身のことを思い出せばわかりやすいが、人間と魔族の戦いは全面戦争、直接的な争いが主であることが多い。しかし、今回の魔族の行動は人間の作った坑道で問題を起こし、人間の活動を立ち行かせなくすること。あるいはそういった問題を起こすことで人間を誘い込むことが目的だったと言える。そのような行動は今までの魔族に見られるものではなかった。魔王の活動方針は今までとは大きく異なり、人間側にとっても対応の難しいものとなる可能性がある。
と、いろいろな事情はあるが、雄成やトリエンテアにはあまり関係がない話だった。しかし、とりあえず今回のこと、魔族の暗躍についてはギルドマスターがその情報を他者に伝えることに関して禁じる、という話になっている。今回の仕事に関してはまあいいのだが、あまり魔族については言いふらさないようにということだ。特に魔王に関しては絶対に言わないこととされた。
魔王に関してのことはかなり重要な問題になる。その存在が現れたことは特に。
「雄成」
「ティア。どうした?」
「今後について。少しどうするつもりか決まったから。話し合いをしたい」
「……わかった」
トリエンテアが雄成に話し合いを持ち掛けてきた。今回のことを通じて、トリエンテアも色々と思うところがあったのかもしれない。特に今回のことは魔族、魔王に関わることだった。トリエンテアは元々魔王であり、本人は今も魔族である。本来ならば向こう側に戻りそちらがわの存在として活動していてもおかしくはないはずである。
「それで、どうした?」
「……基本的に、今までと同じで雄成を元の世界に戻すことを目的にすること自体は変わりがない」
「ああ……確かそういってたな」
トリエンテアは雄成への恩返し、この世界にトリエンテアが戻ってしまう際に巻き込んでしまったことの罪滅ぼし、贖いとして雄成の帰還をの手段を探すことを目的としている。それ以後やそれ以外の点に関しては特にこれといってトリエンテアは何をするかは決めていないが、そこは細かく気にする必要はないことだ。トリエンテアはやりたいように、望むように活動する。
「今までは雄成のことをどうやって戻すのか、という問題があった。異世界に移動する手段、異世界に道をつなげる手段はそもそも普通にできることじゃない。私が雄成のいた世界に行ったときも、勇者と私の力がぶつかり合って偶然移動した。それくらいに異世界への移動は偶然起きるようなもの」
「ふむ……」
「でも、そういった方法とは別に。正しい異世界移動の手段がある。本来、正しく異世界から異世界の住人を招く手段。そして、異世界の住人を異世界に戻す手段。魔王がいる以上、それが成される可能性は高い」
「……魔王がいるから?」
「そう。勇者の召喚。勇者は魔王を倒すために召喚され、魔王を倒せば元の世界に戻される。つまり異世界への帰還方法がある、ということ。それを利用させてもらう」
「いや、俺がいた世界と勇者が召喚される世界が同じとは限らないだろう……」
勇者の召喚される世界は特定の世界だけというわけではなく、その時その時で違う。なのでその召喚と帰還に雄成を巻き込ませて元の世界に戻すのは恐らく不可能と考えられる。
「重要なのは召喚先、繋がる異世界じゃなく、帰還の術。恐らく召喚と帰還は二つで一つの術ではなく、それぞれ別の術だと思う」
「……どういうことだ?」
「召喚は召喚する者を選ばない。召喚者がどうなるかわからない。帰還までが一連の術だと途中で術が途切れるのは魔法として問題がある。それに魔法としても一連の流れの時間経過の問題もある。魔法がずっと続けられる、というのは歪になる。それなら、召喚と帰還で条件を分けて術を使う方が普通」
「…………よくわからん」
「帰還の術は恐らく、異世界からこちらの世界に来た人間を、こちらに来た人間が元々いた世界に戻す、という法則で発動するようになっていると思う。それが召喚であろうと、偶然異世界に開いた道を通った形であろうと。この術を作ったりするのは難しいけど、既にある分を使うなら、楽だと思う。勇者の償還が成されるのであれば、帰還もいずれはなされるものだと思う。その時に雄成も元の世界に戻してもらえれば……」
「……なるほど。でもできるのか?」
「わからない。まず勇者を見つけて、勇者とその関係者に直接話してみないと無理かもしれない。でも、無理に勇者の召喚と帰還の術を探るよりは楽だと思う」
色々と問題はあるが、勇者に関わること。勇者自体がそもそも異世界召喚の産物であり、異世界に関わる存在。そちらから帰還に関する情報を集める、帰還手段を求めるというのは悪い判断とは言えない。問題はそれを受け入れてもらえるか。あるいは異世界から来たことを信じてもらえるかなどだろう。まあ、そのあたりは結局のところ勇者と接触するという目的が果たされなければ意味はないことではある。ともかく、トリエンテアは勇者に関わる道を選択するようだ。そして雄成もそれに伴う。まあ、何時勇者に出会えるか、どういう形で接触するかなどわかった話ではないのだが。




