20 適応
襲ってきた魔物に対し雄成は剣を振るう。雄成はこれまでほとんど剣を持ったこともなく、トリアンテアに多少鍛えられはしたが、本来ならば急激に成長することのないそれほどでもない実力者である。しかし、なぜか日によって雄成の力は違ってくる。よく動ける日であったり、いきなりうごけなくなった日であったり、その時その時で雄成の強さは違っている。
うまく成長したと思えばそうでなかったり、元々の雄成よりも弱いのでは、少しは成長したと思ったら、ということもある。明らかに雄成の強さの変化は異常に見える。実際、雄成の強さの変化は異常であると言える。そもそもが本来この世界にいる存在ではない、魔力の存在しない世界に過ごしていた雄成が魔力のある世界に来たことでその肉体的、能力的な変調を起こしたとしてもおかしな話ではない。だが勇者の実例で考えれば、魔力のない世界から魔力のある世界からくることで能力的には大きく成長、強化されるものである。今の雄成のような変化はおかしいのである。
「はあっ!」
しかし、この坑道に入ってからは雄成は比較的魔物と戦えるようになっている……いや、魔物とまともに戦えるようになっている。今この場で多くの魔物に襲われているのに、雄成はその魔物達を相手に戦えていた。
「ふっ!」
魔物達の攻撃を避け、魔物達の攻撃を受け、魔物達に攻撃を仕掛け。これまでの雄成ではありえないような、急激な成長。本来なら異世界の魔力のない世界から来た雄成であれば、魔力のある世界において強くなるのが当然のこと。そういう意味では変な話ではない。だが、やはりそういった急激な成長は明らかにおかしく見えるだろう。
「なんだ……? 動きがよく見える。体の動きもいい…………戦えている」
雄成は自分の力が明らかに変化していることを自覚している。これまでも幾らか自分の変化に関しては自覚はあったが、どこかその変化をうまく受け入れられず、その力を振るえなかった。いや、変化自体はそれまでは上下していたわけだが。ここでその変化がしっかりとした、雄成が自覚できる変化になっているわけだ。それも成長の方に振られている。
この世界における異世界の存在である勇者、その存在は本来召喚という形でこの世界に来る。それはこの世界への適応が召喚の仕組みに組み込まれている物であった。雄成のように、この世界に来ても自分の肉体の強さが上下にその日その日で変調するようであれば戦いに勇者を駆り出すことはできない。そう考えられ、召喚対象のこの世界への適応が成されるようにされていた。
だが、雄成はこの召喚によりこの世界に訪れたわけではない。雄成の世界にてその持ち得る能力ゆえに異物として元の世界へと戻されたトリエンテアに巻き込まれる形での異世界転移。この世界移動ではこの世界への異世界の存在への適応が成されるものではない。それゆえに雄成はこの世界に来てから、自分自身でこの世界への適応を果たす必要性がある。それゆえに雄成はこの世界に来てから肉体の変調が起き、その時その時で強さが変動してしまっていた。雄成の世界において魔力というものはほぼ存在しないと言ってもいい。雄成が保有できる魔力、雄成という器に入れることのできる魔力は相当な量となる。それが正しく適応され、雄成自身がこの世界の存在として魔力を持ち、強くなるのにはどうしても時間がかかってしまった。
「はああっ!! とっ!」
ここにきて、雄成はこの世界の魔力に正しく適応し、その力は本来勇者として召喚された者たちと同じくらいの強さを持つ。いや、雄成の世界には魔力が全くと言っていいほど存在しない世界である。この世界の魔力を取り込むことでこの世界への適応が成されるわけであるが、元の世界での魔力の量とこの世界の魔力の量がその適応による強さを決定する。魔力差が大きいほど、この世界に来た存在は強くなる。これは魔力がその存在の成長に使われるからだが、元の世界で魔力がない存在は魔力がない状態でそこまで成長した、ということなのである。その成長をそのままこの世界の魔力量の世界で成長した場合にあてはめられるため、強さはかなり上昇することになる。トリエンテアが戦った勇者は雄成ほど魔力のない世界ではないものの、この世界よりもかなり魔力が少ない世界であっただろう。つまりトリエンテアが戦った勇者よりも雄成は強くなる、ということになる。もっとも、魔力の扱いに関しては魔力のある世界と魔力のない世界では結構な差がでてしまうだろう。そこに関しては雄成の今後の成長に期待するしかない。
「まだ、まだっ!」
この場において魔物の数が多い、というのはある意味雄成にとっては都合のいいことだった。魔物の数が多いため、急成長した状態での戦闘経験が増える。本来ゆっくりと力への適応を果たしていくが、必要に駆られ急速に己の力に適応していく。それは単純な肉体の強化だけではなく、魔力の扱いも場合によっては学ぶことができるかもしれない。
「はあっ!!」
適応、そしてそれに伴う成長。戦う中、雄成は正しく勇者に等しい存在として強くなる。ただ気にかかるのはその成長が急速であること。場合によってはかなり大きな歪みを作りかねないだろう。まあそのあたりのことはトリエンテアが気に掛けるものだと思われる。




