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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
maou girl
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19 今の魔王

「俺は魔王様に仕える偉大なる魔族! 今人間どもに行かされている魔族どもとは一味も二味も違う絶対者!」

「…………魔王?」

「そうだ! 魔王様は既にこの世界に生まれ落ち、我ら魔族を率いて人間どもに痛打を与えようとしているのだ!」


 自分でそのように言いながら悦に浸る魔族。本来そう言うことは言わないで置いた方が魔族側にとってはいいはずだ。下手にあれこれと話すとこれからの彼らの行動に差し支える可能性があるのだから。もっとも、彼らにそのような思考はないのだろう。魔族として、魔王の部下として、己に誇りを持ち、それらを顕示する欲求を持つ。自分は偉いのであるといい聞かせ、他者にそれを示さなければならない。トリエンテアや雄成はそれを理解することはできないが、その精神性はかなり都合がいい。少なくとも魔王が復活しているということを知ることができたのだから。


「お前も魔族だろう。なぜ人間と活動しているのか知らないが…………ふん、よく見ればそれなりに美しい見た目じゃないか。魔族ならば魔王に従い人間を滅ぼすのは当然の行い、我らが使命だ。大人しく俺に従うがいい」

「…………何を言っているの? なぜ私があなたに従わなければならないと?」

「魔王の部下である俺に逆らう気か?」

「部下。そう。部下と言ってもどの程度の立場にいるの? 魔王の副官? 四天王などの幹部? 軍勢を束ねる軍団長? そもそも魔王はどの程度の規模の部下を持っているのかしら?」

「…………なんだと?」

「魔王魔王と言っているけど、今の魔王の噂は全く聞いたことがない。本当に魔王は復活しているの? それともあなたのような底辺魔族が魔王を言い訳に人間に喧嘩を売っているだけかしら?」


 魔王と魔族は言っている。しかし、実際に魔王が復活したという話は全くと言っていいほど聞いたことがない。魔王が本当に復活していれば何かもう少し騒がしい状態でもおかしくはない。そもそも元魔王であるトリエンテアとしては目の前の魔族はどうにも大したことがないように思える。まあ、魔族で魔王の部下と言うのは別に変な話ではない。目の前の魔族は幹部であるとも自称していない。本当にただの、魔王の仲間の一人、本当に下っ端の一人だというのならばおかしな話でもない。そもそもの問題はなぜ魔族がこんなところで活動しているかである。人間に敵対するのならば、トリエンテアの経験的にもっと大々的なことをしているはずだ。


「こんなところで魔物を呼び集め、入ってきた人間に危害を加えるだけ。それが魔王の意思?」

「お前のような人間とともに過ごしている魔族には理解できぬだろうな魔王様の高尚な考えは! 魔王様は人間たちが気付かぬよう、裏で弱らせるように動いているのだ! 今の魔族は人間どもに飼われており、我らのように奴らの手の及ばぬ魔族は少ない。そのわずかな戦力では人間に簡単に勝てるはずもない。やつらは数だけはいるのだからな! ゆえに、弱らせる。数を減らす。力を削ぐ。生活を破壊し、得られる物を失くす。昔の魔王は何も考えずにただ争い合うだけだったようだがな!」

「……………………」


 その物言いに少しイラっとするトリエンテア。まあ、自分自身がしてきた行為がただ何も考えず争い合うだけと言われればしかたがない。しかし、かつては世界を完全に手中に収める一歩手前まで迫った彼女、そのうえ魔王と言う者はかつての魔王たちの意思、それにより影響を受けていると知っている彼女としては今更そんな搦め手を使うようになったのはどうなのだろう、という思いもある。


「おおっと…………うっかり言ってはいけないこと話してしまったな」


 にやりと笑う魔族。うっかりではない。単に雄成とトリエンテアを襲うための言い訳のようなものだ。まあ、別に逃がすつもりもなかったわけであるが。


「そこの人間は殺す、お前は俺が捕まえ言うことを聞くようになるまで調教してやろう。光栄に思うがいい」

「………………」


 トリエンテアから殺気が漏れる。流石に相手のふざけた物言いを許容できない様子である。まあ、雄成のことまで含めた内容であれば仕方がない。現状、彼女にとっては自分自身よりも雄成の方が価値としては大きいのだから。


「っ! 行けっ!」


 流石にその殺気に驚いたのか、魔族は雄成、トリエンテアに対し魔物を差し向ける。どこからか現れた魔物たちと一緒に魔族が襲い掛かることで戦いを有利に進める。トリエンテアがどれほどの実力があろうとも、数の差はそう簡単に覆せない。そういう考えだからだ。


「雄成!」


 流石に雄成に襲い掛かる魔物はどうにかしたいと思うところであるが、しかし魔族相手ではトリエンテアとて簡単に背中を見せるのは難しい。相手はそれほど強くないにしても、人間と敵対する確かな実力者であることは事実だろう。


「くっ! こっちは、大丈夫だ!」


 その雄成は一応それなりに戦えてはいる様子である。そこに少しだけ安堵するトリエンテア。


「……わかった。なら!」

「おおっ!? ぐっ!」

「先にお前から相手をする。雄成なら…………負けることはないから」

「ははははは! 人間如きに何を期待する! 魔族ならばまだしも、人間だぞ! お前は死体と対面することになるだろう! その前に地に這いつくばらせるのが先になるだろうがな」

「…………どこからその自信が出てくるの?」


 相手との実力差を見抜けない魔族にトリエンテアは呆れる様子だ。まあ、相手はトリエンテアが大昔の元魔王であると知らないのだろうからしかたがないかもしれない。

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