18 魔族
坑道の中、いろいろな危険に雄成、トリエンテア、同行する冒険者たちは遭遇する。とはいっても、遭遇する危険は主に魔物だ。坑道は元々危険はあった。外から侵入する獣、住み付いた獣、獣ではなく魔物がそういう風になっている例もある。また、魔物は魔物でも獣の類に近い魔物ではなく、ゴーレムのような特殊な、坑道のような環境でも存在しえるような性質の魔物であったりもする。
まあ、ともかく、普通ならば坑道と言う環境はそこまで危険なことにはならない。もともと廃坑というわけでもない坑道である以上、今も人の手が入っている。そんな環境である以上外部から来る獣も住みにくいし、魔物が発生しても簡単な危険ならばこの坑道で仕事をしている人間だけでも問題はないはずだ。本来そういった環境である以上そう危険が起きえるはずもない。
しかし、今回は冒険者が調査しなければならないほどの危険が起きている。一応トリエンテアは新人冒険者なのだが、トリエンテア程の実力があれば熟練……とまではいかずとも中堅くらいの冒険者と言う扱いで見られるだろう。そんな冒険者でも、仲間を共なようようにと言われるくらいである。もちろん調査がその理由の一端ではあるが、危険があった場合にその対処が可能な数を用意するためでもある。トリエンテア一人だけでどれほどの危険対処できるか厳密にはわからないゆえに。
「…………なんだ?」
「変な感じだな……」
かなり奥まで雄成たちが来た。雄成もこの場所の魔物相手にまともに戦えるくらいに………………成長している? 雄成の成長に関しては少々特殊だが、今回は問題なく戦えるくらいの強さがあるようである。ともかく、雄成とトリエンテアも問題なく、また同行する冒険者も問題なく、行動の奥へと来ることができた。だがその行動の奥はかなり奇妙な感じがする場所であった。
それは気配。濃密なこの世界における魔の気配、それに近しい気配である。特に力を扱える人間ならばそれを強く感じ取っただろう。
「…………これは」
その気配を受け、トリエンテアが小さくつぶやく。その感じをトリエンテアならば理解できるからだ。
「っ!?」
「危ない!」
「落石かっ!?」
そんな中、上から巨大な岩が降ってくる……それは単に巨大、と言う言い方をするのが正しいとは思えない。それは天井を丸々占めるくらいに巨大な岩。天上そのものが降ってきたかのような大岩だ。しかし、そんなものがどうして降ってくるのか。天井が崩落し落ちてきたならば理解できるが、天上ほどに大きな岩が降ってくるのは常識的にあり得ない。つまりそれは何らかの力によって降ってこさせられたもの。。。…いわゆる魔術、魔法の類であるものだ。
「………………」
トリエンテアは頭上に手を向ける。これが降ってくれば自分もまきこまれる。雄成も巻き込まれる。確実に命を落とすことに間違いない。ならば消し去るしかない。己の手にこの世界に満ちる魔力、自分が取り込んだその魔力を集め……それらの力に対する中和力を持たせ、放出する。
「うおっ!?」
「ひっ!」
その力の集中は通常の人間では持ち得ないくらいに膨大である。元魔王であるトリエンテアは魔王で在れるだけの力を有しており、元々それくらいに強力な力を持ち得る可能性のあった魔族、であればそれくらいの力を今も有しているのは当然のこと。雄成のいた世界にいた時は回復できなかったが、この世界では問題なく回復できる。つまり問題なく魔法のような力を使えるのである。その力はわかる者からすればとんでもないものだった。まあ、そういったことはさておき。落ちてきた岩の塊はそういう力によるものであったため、それを中和する力をぶつけたこと消失する。
「き、消えた……」
「なんだ……あれ。やばい…………」
「…………はっ! 今のは!? 今のはなぜ降ってきたんだ!?」
唐突に降ってきた岩は消えたが、問題はなぜそれが降ってきたかだ。
「誰か今の岩を降らせた奴がいる……」
「魔物もそいつのせいか?」
「……………………魔族」
「っ!」
トリエンテアがその存在について呟く。それは妙にこの場所に響いた。
「魔族だと!?」
「なぜこんなところに……いや、今は報告を優先したほうがいい! 魔族相手となると簡単には」
「へえ。さっきのを消したことといい、なかなか気づくのが速いじゃないか」
とっ、と軽く上から降ってきた一つの男性らしい人影。ただ、人間とは違う特徴を有する。とがった耳に黒い肌。頭には片角をはやしている。魔族は魔族によってそれぞれ特徴が違うため厳密にどういう姿をしていれば魔族であるという断言は難しい。場合によっては人間に近い姿をしており、今残っている魔族はそういう魔族が多い。しかし、目の前のそれは魔族と言う存在の異質性がはっきりわかりやすく見えた存在である。
「ま、魔族!」
「くっ……やばい!」
魔族は人間よりもおおよそ強いことが多い。もちろん人間も魔族を相手に戦うだけの力を持つが、先ほど巨大な岩を作り出した存在であるとなると、厄介さは跳ねあがる。今ここにいる彼らでは対抗する手段が多い。
「邪魔だから早く戻ったほうがいい」
「…………わかった! 頼む!」
「え? い、いや、さすがに」
「いいから戻るぞ! 俺たちじゃ勝ち目はない!」
「あ……ああ」
冒険者たちが一斉に行動の外へと向かい逃げ出す。トリエンテアと雄成だけがその場に残っている。本当ならばトリエンテアとしては雄成にも逃げてもらいたいところだが、まあそこは自分が守ればいいと思っている。他の冒険者に関しては純粋に言った通りの理由、邪魔だからここからいなくなってほしいという感情である。
「ほう。お前は…………」
「一つ聞く」
「ん?」
「ここに何のためにいる?」
「ふん。俺に対して質問するとはずいぶんと偉そうな物言いだ」
別に偉ぶってもいないが、まあ彼にとってはそういうふうに感じるのだろう。
「まあいい。聞きたいというのなら冥途の土産に聞かせてやろう。ははははは!」
そう言いながら、トリエンテア……と、残っている雄成に対し、魔族が語り出した。




