17 坑道
トリエンテアと雄成、一緒に依頼を受けているとなんとなく雄成の少し妙な状態にトリエンテアが気付いている。本来成長と言うのはある程度徐々に育つものだが、雄成のそれは上下にぶれぶれの成長であるということがわかってくる。成長した、結構力がついたと思ったら、次の日には一気にその能力が落ちている。落ちたり上がったり。ゆえにトリエンテアはそれほど慌てて雄成を鍛えるつもりはない。まあ、自分の状況になじませることは必須であるため、鍛えることは必要になる。
雄成は異世界の住人である。異世界の人間はこの世界のように世界に満ちる魔力が少なかったり、持っていなかったりする。雄成のいた世界は世界に満ちる魔力がとても少ない場所……ほぼないといってもいいくらいであり、それゆえに雄成はこの世界で世界の魔力を受け入れるだけの空っぽの器な状態だ。そこに魔力が流れ込めばかなり強化されることに間違いないとトリエンテアは考えている。今までの勇者のように。
すぐにそうならないのは単純に魔力になれること、本人が強化される力になれないこと、そういった部分が大きいだろう。いきなり自分の力が二倍になった人間がその力を制御できるはずもなく、身体自身がそれに適応するとも限らない。そもそも力の制御自体難しいだろう。まあ、そのあたりは異世界から来た人間の特殊性か。
ともかく、雄成はそういう感じで成長しいずれ強くなるのが確定しているとトリエンテアは確信している。そのためある程度雄成に危険がありながらもトリエンテアは雄成と一緒に依頼を受けている。それはトリエンテアが雄成を守り切れるという考えと実力があるからと言うのもあるが。しかし、それを理解しているのはトリエンテアだけだ。雄成に関しては弱音を吐いたりはせず、トリエンテアにも相談せず、忍耐でトリエンテアについていこうとしている。トリエンテアばかりに負担をかけるというのに本人が納得していないというのもあるだろう。雄成に関してはまあそれでもいいのかもしれない。問題は他の冒険者たちである。
「……………………」
「ティア? 機嫌が悪いのか?」
「悪い」
トリエンテアは自分に対する視線は基本的に気にしない。だが、雄成に対する者に関しては敵意を見せる。冒険者ギルドにおいてはそれほど、単にひそひそ話で仲間内でいう程度であるためそれほど気にすることはないが、冒険者が雄成に対する視線に関しては別である。
「…………雄成は気にしないの?」
「いや、まあ……殆ど事実だろうからな」
「………………」
雄成に対する目線、噂。それはトリエンテアに寄生する冒険者というものである。実際雄成がトリエンテアに寄生しているに近い状況にあるというのは間違っていない。ある程度雄成自身も頑張っているが、ほとんどの成果はトリエンテアのものだ。特に討伐系依頼ではほぼトリエンテアの成果と言っていいだろう。採集系ても特殊な力を扱え身体能力、索敵や嗅覚視覚聴覚の五感の高い周辺状況把握能力の高いトリエンテアのほうが成果は大きい。
まあ、そういった事に関してはおおよそ事実を話されているだけだ。悪意があるとはいえ、事実である以上あまり気にしても仕方がないものである。そういった視線や噂に関しては本人が気にせず無視するのが一番いい。実際にトリエンテアは気にしないようにしている。冒険者ギルドにいった際にそういった視線を向けてきたり噂をすること自体はその場限りのものであるため特に気にしていない。流石に実害を与えてくるようならば考えるが、噂や視線は今の内だけの一過性。多少雄成に対し精神的な負担となるかもしれないが、雄成が成長し今後どこで何をするか、どこに行くかが定まればここから離れるのだからあまり気にしても仕方がない。
ただ……それは特に関わりもしない相手だから、と言う点がある。仮にそれが一時的にとはいえ同行する相手ならばまた話は違ってくる。
「それじゃあ行きますよ」
「わかってる」
現在トリエンテアと雄成は他の冒険者たちと行動している。複数の冒険者パーティーでの共同依頼、それが今回の依頼を受ける際に必要とされた条件だった。トリエンテアとしては後からそう言われてかなり困った様子だった。
今回の依頼は坑道における異変の調査である。この坑道は現在でもつかわれている炭鉱の類であるのだが、そこで魔物の異常出現と入った人間が死体で発見されたりと結構様々な問題が起きた。そこで何が起きたのか、その異変の調査を冒険者に依頼された形である。複数人のパーティーが必要であるとされたのは単純にその調査範囲、規模、そして危険性からだ。そもそも冒険者になったばかりのトリエンテアと雄成がこういった依頼を受けるのがおかしい。本来なら相応の実力者が行くべきの依頼である。だが、そもそもこの街ではそこまで実力のある冒険者も少なく、どうしても残ってしまうタイプの依頼でもある。
しかし、今回はトリエンテアが受けるということもあり、その依頼の受領を許諾した。ただ、トリエンテアと雄成だけで果たして坑道の調査ができるのかと言う疑問もないわけではない。そのため、ある程度他の冒険者と一緒にと言う形になったわけである。まあ……そこに雄成の噂に関するものと、雄成に対する視線に関してが考慮されていたかは……怪しい話だが。
「………………」
「………………」
そのこともあり、トリエンテアは不機嫌であり、雄成はそんなトリエンテアにどう仕事をさせるべきかと悩み、冒険者たちは無言で仕事をする妙にピリピリとした雰囲気となっているのであった。まあ、それくらいの雰囲気のほうが活動としてはいいのかもしれない。警戒心も上がるし、緊張が緩まないのはそれなりに悪くはないかもしれない。




