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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
maou girl
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13 注意

 流石に魔王を務めていだけあり、トリエンテアの殺気は普通の冒険者には毒に近しい。それを向けられるだけで、怯え、動きが止まり、下手をすれば気絶する。余波でもかなり恐怖を感じ、殺されるのではないかと感じるくらいのもの。それを浴びている冒険者二人はそのまま行けば気絶しかねない……いや、気絶してしまうくらいだろう。

 彼らが気絶するかどうかはさておき、そんな殺気が冒険者ギルド内に満ちるといろいろと困る。冒険者ギルドにいる冒険者は一人二人ではない。ギルド内部に満ち満ちているというほどいるわけではないが、いくつかのグループ、個人活動をしている冒険者がいくらか、およそ三十人には満たないが、二十人は超えるだろうくらいの人員がいる。また、冒険者以外のギルド職員もいるのだからそちらにも影響が出る。


「ちょ、ちょっと…………と、止めてくれませんか?」


 ぶるぶると震えつつ、ギルドの受付の女性が雄成に話しかける。トリエンテアは雄成の仲間、少なくとも一緒に冒険者登録をしに来た親しい相手である。ならば雄成ならば彼女の行動を止められるのではないか、という考えだ。通常であれば雄成もトリエンテアの殺気で動けなくなるようなものだが、トリエンテアは雄成だけは敵対意思を向けることがあり得ない存在であるためか、その殺気の影響を受けていない。自由に動ける。


「そういわれてもな……」


 今の今までギルド側が冒険者の行動を止めなかったのに、トリエンテアの行動を問題視し止めるのはどうなのだろう、と雄成は思う。まあ、被害がトリエンテアに話しかけてきた冒険者二人以外にも及んでいるのも止めてほしいという理由の一環であるし、彼女も含めギルド職員も影響を受けているのだから流石に業務に支障が出るということで止めてほしい、というのもわからなくもない。だが、それ以上にギルド側が先にあの二人の所業を止めていれば特に問題が起きなかったはずだという思いが強い。それゆえにどうんみも止める行動に移り難かった。そもそもトリエンテアの行動を雄成が止めるのも何か違うし、彼女の行動は雄成のための行動だ。もし彼女が行動しなければ雄成が巻き込まれ、トリエンテアに被害が及んでいた可能性もあるとなると、やはり止めるべきではないかとも思ってしまう。

 と、そんなことを考えている間に、事態が動く。冒険者ギルド内に満ちている殺気は別にこの部屋だけに及んでいるわけではない。流石に壁を隔てればその殺気はかなり落ち着き弱く感じるのだが、それでも殺気そのものは感じる。そもそも、それほどの殺気を放つ存在がギルド内部に現れるということが異常であり問題である。そういう場合、動く人間がいるわけで。


「いったい何事だ!」


 受付の奥の方から一人の男が現れる。長身でがっしりとした体つきの、結構な年齢の厳つい表情をした…………はっきりと荒事が得意で実力があるというイメージにぴったり合う、冒険者ギルドのギルドマスターのような男性である。


「ギ、ギルドマスター!」


 否、ギルドマスターである。流石に殺気を感じて動かないわけもなく、冒険者たちの前に現れた。


「………………どういうことだ?」

「そ、その…………」

「あの二人の前に対峙してるあの小娘がこの殺気を出してるのか……あの二人、例の問題のある奴らだな。いつもの通りか?」

「はい…………」


 あの冒険者二人組の行動はいつものこと。それゆえに冒険者ギルド側もその行動を把握しているため、今回の原因ははっきりとわかる。しかし、それはともかくとしてトリエンテアの強烈な殺気の放出を止めるのが先である。


「おい、小娘」

「………………何?」

「そいつらもう気絶してるからもうやめておけ」

「…………」


 呼ばれて振りむき、そのあと冒険者二人組を見直すトリエンテア。二人は立ったまま気絶、または放心か喪心の状態になっている。それくらいに強烈な殺気だったのである。流石にそんな状態の二人にこれ以上殺気をぶつけても意味がない、というよりはもうこれ以上殺気をぶつける意味合いもない。雄成に危害を加えてくるのでなければ別にどうでもいい。対応するような相手でもないからどうでもいい。なので殺気を引っ込める。そうして冒険者ギルド内にはどこか弛緩した、安堵したような雰囲気に包まれた。


「雄成、行こう」

「ああ……」

「ちょっと待て」

「…………」

「ああもう! 待てって!」

「……………何?」


 トリエンテアは別に相手をする必要がない、とギルドマスターですら相手にしない。とはいえ、さすがに二度も、一方は強く言ってこられたのだから流石に対応する。


「少し話がある」

「私にはない」

「………………あー、俺は冒険者ギルドのギルドマスターだ。冒険者ギルドの冒険者であるお前にある程度指示を出すことのできる権利を持つ。だから、とりあえず一度ついて聞くれ」

「…………」

「ティア、一応話をしておこう。流石にこの流れで無視していくのは難しい」

「…………身分証を見せないと」

「ああ、それはわかってる。あまり長い話にはなりませんよね?」

「ああ……まあ、ちょっと一応注意とかそういうのくらいだ」

「なら、少し話してすぐに見せに行けばそこまで問題にはならない。一応時間はまだ余裕があるし」

「…………わかった」


 そういってトリエンテアはギルドマスターの言い分に従う。


「ああ、ならついてきてくれ……っと、そうだ。おい、あそこの二人に注意しておけ。これ以上やったらギルドから追い出すってな」

「あ、はい……」


 流石に今回のは彼らが原因の大規模な案件となったため、注意せざるを得なかった。元々彼らの行動は黒、本来ならばアウトな行いである。一応冒険者同市のやり取り、諍いであるためそれに対する対応はしてこなかったが、さすがにその範囲、規模が大きくなったため、その行動を問題視しないわけにはいかない。そういうことで注意せざるを得ないということである。もっと早くに注意しろ、と言いたいところだが、一応彼らも冒険者同士のやり取りと言う言い訳ができる状況であるため、ギルド側も強く言い出せなかったのもある。そのあたり、法律とかルールとかで曖昧な部分の問題だろう。

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