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「…………」


 賢哉にいきなり話を振られたフェリシアは悩む。為政者として正しい行い、貴族として適当な判断、真っ当な人間である限りは求められることの少ない人の命の行く末の決断、それを任されフェリシアも緊張と恐怖に惑う。もちろん賢哉の提案は殺すという選択を行うものではなく生かすための選択である。それでも、それを選び進めるのが正しいことなのか、それをしていいのか、何を選び何を行うのか、そこに大きく迷いがある。


「お嬢様」

「アミル……」

「最初にお嬢様に決断を迫った私が言うのもなんですが、ご自分の意思のままに選択するのがよろしいかとおもいます」

「……自分の意思ですか」

「はい。彼が最初に言い出したとおり、本当ならばこういったことを決めるのにお嬢様はまだ早い。例えこの先必要になることだとしても。いずれその能力を求められることになることは間違いないでしょう。ですが、今すぐにお嬢様が全てを決める必要もありません。今回のことは、別にこの先の運命を決する出来事でもありません。彼らの命をどうするか、だけです。ですから、それくらいはお嬢様がご自由にお決めになってもよろしいかと思います」

「……………………」


 最初と言っていることは違う。しかし、賢哉の発案や、それに対して決断を迫られるフェリシアの態度、そういった色々なものを第三者の視点から見たことで改めてフェリシアがまだ子供であることに思い至った。自分の主であり、自分が導かなければならないと少し焦るような、期待するような、そんな気持ちがアミルにはあったのかもしれない。それゆえにまだ子供である、右も左もわからないフェリシアに無理に決断を強いていた。

 それに気づき、一度その考えを捨てる。そもそも今回の盗賊に関しては、どう扱おうとも今後の状況に大きく影響しない。仮に殺すことになろうとも、生かすことになろうとも特に問題はない物事である。ならばフェリシアの自由意志に決断を委ねた所で問題ない。あまりに悩み、今後のフェリシアの人格が歪んでしまえばそちらの方こそ問題である。どうするか、フェリシア自身が決めればいい。少なくともその判断を責められるものは誰もいない。

 もし、問題が起きたならば……その時は賢哉に働いて貰えばいい。フェリシアの従僕、と自分で言っているのだからそれくらいの働きはしてくれるだろう。なにせ雇い主はフェリシアであるのだし。


「……好きに決めて良いんですか?」

「はい。そもそも領主として決断するにしても、きちんと領地ができてからでもいいでしょう。いきなり何もかも領主として決断しなければならない、とする必要もありません。お嬢様だけで全てを決める必要もない……今はまだ部下もいませんが、必要ならば下の者に任せるのも領主の勤めです」

「そういうものでしょうか……」

「はい。そこに物好きもいることですし、なにか面倒なことがあったら押し付けるのもいいかと」

「それは酷くないか……?」


 いざという時は賢哉に押し付ければいい、そうアミル入っている。その言葉に苦笑しながら酷いと言う賢哉も、必要ならばそれを受け入れても構わないとは思っている。ただ、このことに関してアミルが気にすることは賢哉に少し頼りすぎてはいないか、依存するような状況になっていないかという点だ。賢哉の存在は悪いものではないが、賢哉がいなくなってしまえばやっていけなくなる危険がある。フェリシアも助けられた恩もしくはその時に頼りになると思った点や、先ほどの気安さ、いうなれば兄のような頼れる存在と感じてしまっているところも見えなくはない。フェリシアは家族を失った。死んではいないが離れ離れであり、また会えるかもわからない状態である。そんなこともあり、最も身近であるアミル以外に頼れる相手はそういなかったが、賢哉が救い、その結果最も頼れる存在となっている。彼の能力に関しても理由として挙げられるだろう。まあ、そういう細かい話はさておき、賢哉にあまり頼りすぎるようになるとまずい、しかしいくらかは頼らなければやっていけない部分もあるだろう。どうすればいいか迷う、困った話である、ということだ。とはいえ、今は賢哉をうまく使っていくしかないのだが。


「ま、言われた通り何か困ったことがあったら頼ってくれればいいさ、雇い主さん」

「フェリシアです」

「……ん。了解、フェリシア」

「それで、どうするおつもりですか?」


 賢哉とフェリシアの仲が近づいた、そんな雰囲気を察したアミルが横槍を入れる。


「……ケンヤ様の意見を受け入れようと思います」

「そうか」

「そうですか」

「……駄目でしょか?」


 不安そうにフェリシアは賢哉とアミルに視線を向ける。


「いえ、問題はありません」

「ま、特に問題はないな。俺はちょっとあれ等を入れる建物を建ててくることにしよう」

「お願いします」


 そう言って賢哉はその場から離れる。


「……本当にこれでいいの?」

「お嬢様、何事も経験です。最初から何もかも正しい判断ができる人はいません。それに、お嬢様は貴族とはいっても、いまだ殆ど何も学んでいないのです。今は全て自分の手でやるのではなく、人を頼りながらそのうえでどうすべきか判断を下す、またはどう判断するのが善いか学ぶ、そういう方向性でやっていくのがいいでしょう。そういう意味では彼が自分の意見を提案してくれたのはよかったのかもしれません」

「…………少し、わからないわ」

「はい。まだまだわからない部分も多いと思います。何がわからないのか、理解できていないのか、それを知りながら、少しずつ学んでいきましょう」


 フェリシアはまだ少女である幼い貴族だ。いうなれば、雛……下手をすれば罅の入った卵に近いくらいかもしれない。そんな彼女はまだ何も知らない、まだ何もできない弱々しい存在である。ならば、それを育て、立派な存在にすることこそ必要なことだろう。すぐに何でもできるわけではない、しかしいずれはどんなことでもできるようになる、そんな立派な貴族に育て上げるのがアミル、そして賢哉の仕事である。



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