11 冒険者
冒険者ギルド。そこに二人の男女が入る。トリエンテアと雄成だ。別に入るときに何か言ってはいる必要もない。この街を拠点に生活する冒険者たちにとっては二人は普段見ない顔……町でも見かけた覚えのない明らかに新顔な二人に冒険者なりに興味、警戒を示す。そもそもそこまで大きな街でもないこの街において、冒険者の仕事はあまり多くはなく、場合によっては自分がよくやる仕事を奪われる危険もある。そういうことで新しい冒険者である二人に対して警戒を見せているわけである。
まあ、そういった警戒ばかりではなく、冒険者として仕事ができる人間が増えるのはありがたい、または自分たちだけではあまり大きな仕事もできないと思っている冒険者にとっては新しい冒険者は自分たちと組む可能性のある存在であり、果たして彼らを仲間にできるのかと、またその彼らの実力は如何ほどなのかと興味がわく感じでもあった。それとは別に、入ってきた少女の方に興味を持つ存在もいる。まあ、少女であるとはいえ見た目はかなりいい。それを手籠めにできる可能性があると考える頭の悪い冒険者も世の中にいるだろう。
そんな視線に居心地の悪さを感じる雄成。一方で全く他者の視線を気にする様子もなく、受付の方へとトリエンテアは向かっている。度胸がある……と言うのも間違いではないが、基本的に彼女はあまり関係のない他社に対する興味が薄いのが要因だろう。
「いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「私と彼の冒険者登録をしたい」
「………………失礼ですが、年齢をお尋ねしても?」
トリエンテアは見た目でいえば少女である。それゆえにその見た目で荒事を行う冒険者業を行うのはやはり少し周りから見る分では不安のほうが大きい。実際の能力や、そもそも根本的に年齢が桁違いであるのだが、そんなことは見た目から推測しろと言われても無理だろう。
「見た目通りではない。登録に年齢を教える必要がある?」
「い、いえ、そうではないのですが……冒険者業は荒事が多いので……」
「ああ、彼女は俺よりもはるかに強い。そういった点においては大丈夫だ」
「そう……なのですか?」
雄成がトリエンテアの強さを保証するが、言葉で保証されたところで信じられるかどうかはまた別である。とはいえ、成人男性以上の人間より強いのであれば確かにそれほど問題はないだろう……まあ、雄成の実力はそもそもこの世界においては現状ではかなり低いほうであるため、あまり強いといったところであてにはならない。その辺りを見ても見た目が重要であるというのはよくわかる話になるだろう。
「ともかく、登録してもらえるか? 身分証の代わりに使えるという話も聞いているんだが」
「……ええ、まあ。ですが身分証として冒険者登録されるのは」
「ああ、ちゃんと仕事もする。そこは心配しないでもらいたい」
「それならばいいのですが……では、登録をしますので……まずは名前から」
冒険者になるような人間は文字を書けない場合が多い……ということで冒険者登録は基本的に口頭による回答を記録し行われる。とはいえ、そもそもからして冒険者になるような人間は相応に事情を抱えていたりすることもあるため、そこまで突っ込んで話を聞いたりはしない。名前や戦闘スタイル、おおよその能力など。もともと冒険者ギルド側で細かく聞いた所で後で更新するわけでもないので登録するうえで必要な物を少し聞くくらい。個人の証明となればそれでいい。そもそも、個人認証方法が特殊である。
トリエンテアの場合、その名前に関して少し妙に思われたくらいで特にこれと行って問題なかった。問題があるとすればどちらかというと雄成の方だった。個人認証はそもそも魔力によって行われ、そのための個人登録も魔力で行われる。しかし、雄成はこの世界に来たばかりであまり魔力になじんでおらず、魔力もあまり持っていない。雄成のいた世界には世界に満ちる魔力がなく、その影響で雄成は魔力をその身に殆ど有していない状態となっている。そのため登録に時間がかかった。何度かやってようやく登録ができた。
そんな少々トラブルがありつつも、二人の冒険者証が作られ冒険者登録がなされた。
「登録が終わりました。これがお二人の冒険者証です」
「ありがとうございます」
「…………」
冒険者証を受け取る二人。しかし、これだけではない。冒険者になった以上仕事を行わなければならず、その説明に関しても行われる。まあ、冒険者としてのランクについての話で合ったり、仕事の受け方であったり、仕事の内容に関しての話くらいでそれほど重要なことはない。罰則に関してもある程度人間として当たり前の守るべきことについての話だったり、少々ギルド特有の物であったりと話が合ったが、普通に冒険者として仕事をするのであれば別に何も問題のないような内容ばかりである。
そんな説明を受け、ようやく冒険者として冒険者ギルドを巣立つ……はずなのだが。
「よう、兄ちゃん。いい女連れてるじゃねえか」
「ちょっくら俺たちに貸してくれねーか?」
そんなふうに雄成の前に現れる二人組。いわゆるお約束、テンプレと呼ばれるような冒険者ギルドにいることのあるおバカな冒険者達が二人の前に立ちふさがったのである。




