10 街
村で得たお金はそれなりの額だと知るのは後での話。この世界における基本的な通貨に関してトリエンテアと雄成は知らない。ゆえにもらった額が適正な値段なのか、それ以上なのかそれともそれ以下なのかは基本的にはわからない。村ではとくにお金を使う機会がない。まったくないとは言わないが、村は村だけである程度成り立つような社会性になっており、お金を使うのはよそから来た商人相手、くらいな感じである。娯楽や欲しい物に使うことはあるが、やはり基本的にはお金を持っていてもあまり使い道がない。なので久々に来た若い旅人に少しお金を大目に払った感じである。まあ、それ相応の手伝いや狩りをトリエンテアがしたということでもある。閉鎖的とはいえ、そこにいる人間が性格が悪いわけではない。閉鎖的と排他的は微妙に違う。それに完全に外部の存在を受け入れないわけではない。
と、細かい話ともかく、トリエンテアと雄成はお金を手に入れ、村から出て近場の街へと向かう。その道中、特に危険に出会うことはない。トリエンテアの強さがあれば多少の危険であれば特に問題はないのだが、さすがに一日でつくほど簡単ではなく、少し野営をしながらも街へと向かう。二人とも村でいくばくかの物資を受け取って入るが、着の身着のままで結構困っている。ある程度はトリエンテアの持つ力で対処はできているが、やはりちゃんとした休息をとれる場所で過ごすのとは全然違うだろう。
そうして街の入口にたどり着いた二人。街はそれなりの大きさの普通の街。村と比べれば大きく、都市と言うには小さいだろう。つまりはまあ普通の街であるのだが。街の入口には検問、関所のような門番役を担っている兵士がいる。街に入る人間を調べ、悪人を入れないようにするための存在である。その存在を見て雄成はどうしたものかと思っている。別に二人とも悪人ではないが、いろいろと事情の問題、身分を示す物が存在しないなどの厄介な部分がある。それゆえに街に入れるかと迷うところなのだが……トリエンテアは迷わず入口へと向かう。
「あ」
トリエンテアの行動は間違いではない。雄成のように入口に近づかずに見ているほうがどちらかと言えば怪しいだろう。しかし、身を立てる証を持たない二人が街に入る怪しい人間を見張る兵に近づき、身分の証明ができないとなればどういう扱いをされるかわからない。街には入れない程度ならばいいのだが、それで捕まったりするとなると結構な面倒ごとである。
しかし、今更トリエンテアを止められなかったことを悔いても仕方がない。すでにトリエンテアは街の入口の方へと向かっているのだから。
「待て」
「…………なんですか?」
「街に入る前に身分証を提示してもらいたい」
「…………………………」
「どうした?」
「…………身分証とは?」
「なに?」
トリエンテアはそもそもあまり普通の社会性で生活していないため、身分を示す物と言うものに関しては知りえない。そもそも彼女は魔王としての生活時間が長く、その影響で一般的な社会での生活機会が少ない。
「…………いったい」
「あの、いいですか?」
「うん? ああ…………この子は君の連れか?」
「ええ、まあ。そういう感じと思っていただければ」
「街に入りたいのならば身分証を提示してもらいたいのだが……」
「それなんですが……」
雄成は自分たちの事情に関して説明する。
「実は、自分たちはいきなりこの場所に連れてこられたような感じで……その時着の身着のままで身分証なども持たず、いきなりこちらの方まで連れてこられたのでそういった物も持たず、近くの村で一度幾らか旅に必要なものを手に入れ、そこからこの町に来た次第です。なので身分証のようなものを持っておらず、こちらの身の証を立てることはできない状況にあります。そういった場合、どうすればよろしいでしょうか?」
「…………ふ、ふむ。それは……大変だな」
「………………」
街の門を守る兵は雄成の説明にどう対応したらいいか困ったような感じに答え、トリエンテアはその雄成の普段とは違う言葉使いの方に驚く。まあ、トリエンテアを相手にするときと兵を相手にするときの言葉使い、対応が一緒なわけではないだろう。雄成はなんだかんだで社会人であるためそういった時場所場合における対応はそれなりにできる。
「そういった場合か……本当は身分証明をしてもらわないと困るのだが…………ふむ、証明できない場合か。そうだな……」
「そもそも、こちらでは村人などは身分証明を持っている物でしょうか?」
「基本的に村長に一筆書いてもらうものとなっているな。彼らも身の証を立てる物を常に持ち歩くわけでもない……君たちは旅人か?」
「今は旅人です。いきなりこちらに連れてこられ、故郷にもどることもできず……なので戻る手段を探すつもりなので旅をするしかないでしょう」
「そうか……………………そうだな、街に入れてやろう」
「問題ありませんか?」
「確かにないとは言わない。しかし、一度冒険者ギルドで冒険者証を作ってもらい、それからこちらに来てほしい。身分証さえ作ればそれを提示してもらったということで問題なくなるからな」
「それは……いいんですか?」
「問題ない。黙っていればな」
門を守る兵士はどうやらだいぶいい人であるらしい。お堅いルールを守ることに腐心する兵よりはいいのだが、その人の良さは本来ならばあまりよくないことなのではないだろうかとも思えることである。
「一応名前を聞いておこう」
「…………雄成です」
「ふむ、ユウセイか。そちらの子は?」
「…………トリエンテア」
「トリエン…………トリエンテア?」
その名前に驚いたような反応を見せる兵士。
「何か問題がある名前ですか?」
「昔話に出てくる魔王の名前だ。問題がないはずがない」
「……なるほど」
村ではその存在については触れられていない。まあ、村ではあまりそういった昔話を語る人間がいないからと言うのがある。寝物語として語られる昔話でも単純に魔王としてか言われておらず、トリエンテアという明確な呼称に関しては一部の教養の情報となる。
「だからかもしれませんね」
「何がだ?」
「ええ、俺たちがこちらに連れてこられた理由です。もし、トリエンテアと名付けられた子供がいたとしたら、その扱いがどういうものになるか……予想できると思いますが」
「ふむ…………確かに」
「それで彼女を助けた俺も、一緒にこちらに連れてこられた。そういうことなのかもしれません」
「大変だな」
何がそれでなのか、雄成の言葉は具体的に何かを語っている物ではない。単純に事実である内容を述べているだけ。トリエンテアと名付けられた子供がいたとしたらどういう扱いになるか、トリエンテアを助けた雄成が一緒に連れてこられたという事実、それらをうまく曖昧に述べ、それが理由でこちらに来てしまったかのようにつなげる。つまり、雄成達が住んでいたところでトリエンテアと名付けられた少女がいて、その子供を雄成が助けた。その結果、トリエンテアと一緒に雄成が自分の物も、身分証も持たされることなくこの場所の近くに捨てられた……という意味合いになるようにつなげている。よくよく考えたらなぜそうなるか意味が分からない感じだが、なんとなく雰囲気的にそれっぽく言うことで相手側に勘違い、思い込ませる風に言っている。
そして雄成とトリエンテアは街の中に入ることができた。同時に街の門を守る兵から、トリエンテアと言う名前の魔王に関する話についても少し聞けた。それは昔話に出てくる魔王の名前であると。つまり、トリエンテアがいた時代に関しては昔話になるくらい前であるかもしれないということだ。




