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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
maou girl
106/190

9 不明

「それで、ここは何処なんだ?」

「………………わからない」

「わからない?」

「私はずっと城にいたから」


 トリエンテアは基本的に魔王城から移動することがほとんどなかった。人間の国へと攻め込み人間を倒すのは基本的に部下の魔族たちの役割である。一応魔王も戦闘に参加したり、攻め込むのに参加したりすることがあったが、逆に言えばそういう機会以外はほとんど魔王城にいたし、毎回攻め込んでいたというわけでもない。そもそもトリエンテアは百年生きており、そのせいもあって時間の移り変わりによる地域の変化などもあって、あまり詳しくはわからないのである。


「それに…………」

「それに?」

「私があちらに行ったときは勇者との戦いの直後だった。あちらに言ってあまり時間もたっていない、つまり魔族と人間の戦いは終わっていない」


 魔族と人間の戦いは今も続いている……魔王であったトリエンテアがいなくなったことにより魔族側が徐々に勢力を弱めていくことになるのは間違いないが、一年もしないうちに人間側が魔族側を排して完全に盛り返すとは思えない。しかし、現状は闘争の雰囲気が存在しない。


「そのはず……だけど、そんな感じはしない」

「そうなのか?」


 はっきり言って、トリエンテアの言う闘争が終わっていない感じがしない、というのは雄成にはわからない点だ。そもそも彼らのいる場所は特に人里近いばしょでもない。ごく普通の大地……別に草原と言うわけでもないし荒野と言うわけでもない、普通の大地である。そんな場所なのに一体何がわかるというのか。


「この周囲に魔族の影が見られない。世界に満ちる魔力の変動も、特にあるようには見えない」

「……そうか」

「とりあえず………………どこか行く。ここにいてもあまりいいことはない」

「そうか」


 ここには何もない。眠る場所も、食料を得る場所も、安全な場所も。そんな場所にどうすればいいかわからないから、と滞在していてもいい結果にはならないだろう。ともかく、どこか当てができる場所に移動しなければならない。


「……危険はないのか?」

「ある」

「あるのか……」


 この世界には世界に満ちる魔力があり、トリエンテアも魔法を扱える。もちろんそれはトリエンテアだけではなく。この世界に住む多くの存在が魔法が使える。まあ、魔法を使えるといってもトリエンテアのような強力な魔法を使える存在ばかりではない。また、世界に満ちる魔力による力の補正もあるだろう。それによる身体強化、能力強化。この世界に存在する生物は基本的に雄成達の世界における生物よりも強い状態にある。当然ながら、雄成はこの世界において弱く、かなり危険である。


「…………雄成、あなたは私が守る。養ってもらった恩を返す。この世界に連れてきてしまった償いをする」

「いや、それは……」

「あなたには恩がある。それを返さないのは私の矜持に反する。だからあなたには恩返しを受けてもらう」

「……わかった」


 もとより雄成一人だけではこの世界で生きていくのは容易ではない。この世界にもともと住まい、大きな力を持つトリエンテアの力を借りなければ大変であることだろう。そういうことで、雄成はトリエンテアと行動を共にし、当座の安全な場所を探すこととした。






「…………人間の村」

「村だな。リアルでこういうのを見るとは思わなかった」


 彼らが到達した場所は道の通じる村。極々普通の村である。まあ、町と比べ明らかに規模が小さい。そこで彼らは話を聞く。現在の情勢、時期、場所についての話。一応村人としては旅人を歓迎する、というわけにはいかない。そもそも雄成とトリエンテアはこの世界におけるお金を持っていない。資産も存在せず、物々交換すら現状はできないだろう。まあ、それはトリエンテアが高レベルの魔法を使えることで解決したが。

 村の手伝いなどをしつつ、途中村の近くで狩りをし動物を得て、それらをお金に換える。また、一日だが休める場所も提供してもらった。なお、場所に関してはトリエンテアと雄成で同じ場所だ。一緒に旅をしているので男女で区別をする必要がない、また容姿的に親子みたいなものとおもわれたのかもしれない。


「今がいつか分からない…………魔族と人間の情勢に関しても全くわからなかった……」

「そうだな」


 二人の情報収集の結果、現状についてトリエンテアの記憶と照らし合わせてもまったく状況的に意味が分からない、というのが結論だった。まあ、ここが小さい村であるため基本的に閉鎖的に近い状況であり、旅人もあまりよらず情報がないというのも可能性の一つとしてはあり得るのだが。


「だが、情報がないというのも一つの情報じゃないか?」

「言いたいことはわかる。魔族と人間の争いに関する話が全くない、というのも一つの指標になる…………忘れたい記憶、というのもありえなくはないけれど、それにしても全くそれらしい雰囲気もない」


 現時点で全くそれらしい過去があったようには見えない。いや、そもそもトリエンテアの魔族と人間の戦闘状況からすれば、この村は明らかにおかしいのである。そういった拠点は基本的に魔族によって破壊されなくなっていることが多く、仮にあったとしても魔族による攻撃、破壊などが起きていておかしくない。その痕跡すら残っていない……いや、そもそも魔族がいろいろとやっていた痕跡すらないのは奇妙だろう。まるで今の状況は魔族がいなくなってかなりの時間がたっているような、ともいえるくらいに魔族と人間の戦いの痕跡がない。


「………………今のところは推測にしかならない。この村で幾らかのお金は得た。大きい街や都市に行ってみて、そこで色々と話を聞いてから総合的に考えたい」

「そうだな。流石に個々だけだと情報がないか」


 二人はそういう形で一時的な結論をだす。現状把握をまず優先する、それが今の状況に必要なことである。

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