7 買い物
トリエンテアが現状を受け入れ、自殺願望に近い目的、目標に突き進むことはなくなった……とはいえ、トリエンテアの現状は特に変わっているわけではない。むしろ変わらないほうが都合がいいといえばいいのだろう。今の状況はトリエンテアにとっては屈辱であり罰である、と思っているのだから。
しかし、それに対して雄成のほうで思うところはある。現状、はたから見た様子だけでいえばトリエンテアは雄成に監禁されている状況だと思えるわけだ。雄成自身、トリエンテアを閉じ込めている状況なのは複雑な思いがある。もっと外に出して遊ばせてやりたい、いろいろとあちこち見て回らせたい、そんなふうに思わないわけではない。まあ、別にトリエンテアは見た目通りの年齢ではないのではしゃぎまわるということはなく、落ち着いてわくわくどきどきするだろう。
ともかく、そんな感じで雄成はトリエンテアの現状をどうにかしたいという想いがある。幸いなことにトリエンテアは見た目でいえばほとんど人間と変わらず、この国においては髪の色も問題はない。肌の色は若干トリエンテアは白い感じに見えるが、まあはっきり真っ白と言うわけでもないし、それほど違和感はない……と言った感じだろう。一番の違いはその眼の色だが、まあそこもなんとか納得はできる。まあ、少々目立つが恐らくはこの国の人間に紛れても問題ない、と言った感じである。
「ティア」
「……何か?」
「外に出るぞ。ずっと家の中にいるのも退屈だろう」
「………………」
トリエンテアは何を言っているのだろう、もしくはええー、と言った感じの表情をしている。基本的にトリエンテアはあまり大きな感情の変化を表情に出さないので雄成はその雰囲気の把握が大変である。まあ、不満があるのは仕方がないのかもしれない。トリエンテアにとっては実際どうであるかはともかく、罰を受けている状況と言うのが重要だ。こんな狭い場所に閉じ込められ、自由な行動ができず、人間に生活を管理され生きるのに必要な糧を供与されている、という状況。それはある意味でいえば屈辱でも何でもない供物を受け取るみたいな感じなはずだが、少なくとも今の彼女は雄成なしで生きる術がないことから生殺与奪を握られている……と、思えているわけである。
「流石に今の服装のまま、ってわけにはいかないだろ。正直、一応俺の服を使ってもらってるわけだが、ずっと男物の服とティアが着ていた服だけを使うってのもどうかと思うし」
「私は……別に構わない」
「いや、俺が構うんだよ」
自分の服を少女のような見た目のトリエンテアが使っている、という点でもそうであるし、トリエンテアが自分の服を持たず男性の服を着ているという点、大きさ的に成人男性の服は当然ながら少女には合わない。そのうえ、下着なども女性用の下着を雄成が持っているはずもなく、さすがに自分の下着を使わせるのは……ということで特に下着も付けていない状況。一応こちらの世界に来る際に来ていた魔王の服装に下着は含んでいるが、それを使いまわすのにも限度があるし、それを洗うのが誰かと言うと雄成だ。精神的に削られる。
そういうことで女性服を買いに行こう、ということなのである。まあ、女性服を買おうと雄成のやることは変わらない。むしろ女性服が増えて余計精神に悪いのではと思うところだが。そこはトリエンテアに家事を教えてさせるくらいのことはできるだろう。下々のやる雑事を任せるといえばトリエンテアは喜んで自分の罰だということでやることだろう。中々に厄介な精神性だ。
「ともかく、行くぞ。あまり外に出られる機会はないだろうから今回くらいは我慢しろ」
「………………命令?」
「……ティア、命令だ。お前が俺の服を使っている状況は迷惑だから、お前が着るための服を買いに行く。こちらの精神の安定のためにも。だからついてこい。も悔いは言わせない」
「…………わかった」
そういうことで雄成はティアと一緒に買い物に向かう。
買い物は基本的にはトリエンテアの服を買うことになる。上下、ズボンスカート、下着類に家で着る基本服に外出用、ジャージのようなラフな服装系とその予備、その他ハンカチなどの日常用品など。また、服以外の物も当然買う。一応来客用などの皿やコップ、茶碗があるにしてもいつまでもそれを使わせるというのもどうかということでトリエンテア用の物を買うわけである。今日だけで普段あまり趣味意外に使わない雄成の買い物出費がどうなったのか少々気になるところであるが、そんな感じにトリエンテアの使うものを買っていく。
トリエンテアは自分の意見はあまり言わない。彼女の現状は雄成に養われている状況だから好きにしてほしいといったところだろう。それでも幾らかの主張はあるし、買い物をするということ自体が彼女にとっては珍しいものだ。彼女のいた世界、魔族はそもそも買い物と言うものをしない……というわけではないかもしれないが、魔王であった彼女に買い物の必要があったかと言うと、なかったわけで。そんなこともあり、物を買うという行為自体が新鮮であまり表情に現れていなかったかもしれないが楽しんでいた感じである。
買い物以外も、そもそも様々な建物や物品など、この世界に存在する様々な物を直に見るというのも彼女にとっては楽しいことだった。異世界観光と言うのも一つの娯楽になるだろう。
「楽しかったか?」
「………………私は楽しんでいいわけじゃない。だから楽しんでない」
「そうか」
トリエンテアは自分に自分自身で罰を科している。実に面倒くさい性格だが、彼女らしいともいえる……そうとでも言わなければただの面倒くさいだけの少女である。年を経て余計に精神的に凝り固まっているのかもしれないが。
「っと、もう戻ってきたか……ま、買い物に行っただけだし、終わったらすぐに帰宅だしな」
そうして二人は雄成の自宅に戻ってきた。




