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二日目、聖域へ


 異世界(イツ・ルヒ)の管理者にして巫女である千歳碧のテリトリーに入り、定められた順路の通りに路を進む。

「奈落ちゃんには案内がいらないくらいだね。一人でも碧さんのとこまで行けちゃうんじゃないかな」

「うむ。行くことは容易いがの。案内人であるお主が居らねば、こちは相当に疑われてしまいじゃよ」

「そうかもね。まあ最初のゲートのところでちゃんと説明すれば、案外とすんなり通してくれるかもしれないけどね」

「然もありなん」


 さて、テンゴクが首をひねっておるのう。

 こちと山吹の話の内容に、ではないのが残念じゃな。

「どうしたのじゃ、テンゴク?」

 テンゴクがあのことに気付いてしまったことは知っておるが、こちの口からは説明したくない案件じゃな。

「うん。そのさ、さっきから奈落ちゃんとね、手を繋いでみようとしてるんだよね…」

 うむうむ。

 体も小さいこちが、この辺り一帯の何処までも広がっていそうな暗闇の中に入り込みそうで心配だったんじゃよな。

 テンゴク自信も初めて来る場所で不安だったのもあろうが、気遣い自体は嬉しいのう。


「言いたいことは分かっておる。手が繋げんのじゃろ」

「そう! やっぱり変だよね!」


 この場所、というより碧のテリトリー内で発動している能力のせいなのじゃよな。

 もう趣味が悪いとしか言えんのう。


「あちゃあ。なんかね相性が悪いと手が繋げないことがたまにあるんだよね。まあだからってまあ仲良くなれないってわけじゃないからね。そんなに気にすることじゃないさ」

 ここで手を繋げないということ以外には不利益はないのじゃよな。

 逆に相性が良すぎる場合なら、極端に言えば心が通じあってしまうことがある故、このチュートリアル期間にそのことを説明しておく必要があるのじゃし役にも立とうが…

 しかし、相性が悪いと手を繋げなくする必要は全くさっぱりないじゃろうにな。


「ふーん。不思議だね」


 テンゴクが気にしておらんしこの話題は終わりじゃよな。

 よし、そろそろ碧の所じゃ。

 さっさとジョブ魂をもらって帰りたいのじゃ。


「うん。到着だ。この先にいる碧さんって忙しい人でさ。あんまり騒ぐと怒られちゃうから気をつけてね」

 山吹の注意は、されどもテンゴクが碧の子どもだと知らぬ故じゃな。

 流石の碧もテンゴクと接する時には平静では居られんのじゃよ。

もっとも、テンゴクにとっては普段の碧を知らぬ故、分からぬことじゃがな。


 テンゴクが「はい」と返事をする。


 そして、こち達は路を進み、最後の魔方陣で転送された。

 あっという間に風景が変わり、今度は神社の建物の中に現れる。


「ふん。早かったね」

 千歳碧がぶっきらぼうな感じに声をかけてくる。

 この程度の言い方でも、こやつにとっては褒めているつもりなのじゃから不器用がすぎるのう。

「ふうん。聞いていたけど、なるほどね。擬人化されたアカシックレコードというのも(あなが)ち嘘ではないのかな」

 こちの感情を読むことで、こちに思考を読まれていることを理解してしまうのは流石じゃな。

 そして、そのことに動じた様子が微塵もないというのは大したものじゃよ。

「そこは疑われても証明は出来んのでな。こちは確かにアカシックレコードじゃが、今では奈落という名前がある。奈落という人間だと思ってくれればそれで良い」

「良いとも。人外も、物ノ怪も、心があるのなら人と同じようなものだ」

「実に寛大な心構えじゃな。して、悪いが早めにジョブ魂が欲しいのじゃ。準備を頼んで良いかの?」

 相手の感情を読み取ることの出来る碧に対して、喋りながらも別の考えがあることを含ませておく。

 お主だけに言っておくことがある、とのう。

 まったく、感情だけでどうしたらそこまで思考を読み取れるのか、こちにも理解の出来ん領域じゃが、確かに読み取ってくれるのじゃな。


「良いだろう。鏡占いを始めよう。『ジョブ魂:占い師』『憑依』」

 突如現れた人魂のような見た目のジョブ魂にテンゴクがぎょっとする。

 それを自身のサブ職として取り込み、『巫女』のジョブのままで『占い師』の能力を使う碧。

 うむ。

 『憑依』とは便利な能力じゃな。


 占い師の碧の横に大きな鏡が現れる。

 大きな鏡が突然に現れても、今度はテンゴクも動じてはおらんのう。

 頑張って平静を装っておるのじゃ。


「これは、この世界の頂きにある『深淵を写す鏡』を模していてね…」


 碧がざっとした説明をしてくれる。

 主にテンゴク向けの説明なのじゃが、テンゴクは自分のジョブが何になるのか気になってその話に集中出来ておらんのじゃな。

 そういう所を碧は見破っておるのじゃが、それはテンゴクには知らぬままで済ませてやりたいのじゃよ。


「それでは、テンゴクから先に行くのじゃ」

 こちは碧に言っておくことがある故、テンゴクには先に鏡の中へと向かってもらう。

「あれ? 奈落ちゃんは行かないの?」

「うむ。さっきの手を繋げなかったのと同じでの、相性が悪いと一緒には入れんのじゃよ」

 ちょっと残念じゃがのう。

「そっか。じゃあ先に行ってくるね」


 テンゴクが鏡の中へと入っていく。

 恐る恐ると鏡に触れて、鏡の中の自分の像に手を引っ張られるテンゴクは、心底びっくりしておった。


 うむ。

 やっぱり、あれは怖いのう。


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