二日目、カレーライスを食べるのじゃ
テーブルの上には大きさの違う中小2枚の皿が並べられている。
こちのような幼女に出すには、子ども用の皿で出てくるのは当然の理じゃ。
然れど、立ち上る湯気から薫る濃厚なスパイスの香りから、これがけっして子ども用に味付けられた甘口カレーで無いことは分かってしまう。
そう。
ここの店長はカレーに決して妥協はしない。
こちがただの幼き子どもであったなら逃げ出すべき状況なのじゃろうな。
「あっ、ナラクちゃんにはちょっと辛いかも… 大丈夫かな?」
「ふふん。とうど辛いのは承知の上でこの場に座っておる。案ずるでないのじゃよ」
舌は子どもでも、精神面は老獪すら超越した、神に匹敵するポテンシャルを持つこちにとって、辛いという程度では食への好奇心を抑える理由には足らんのじゃ。
熱々のカレールウを、ほかほかのご飯と共にスプーンで掬う。
くふふふ。
なんとも魅惑的な色艶をしておるのう。
眺めているだけで涎が出そうじゃ。
「ふーふーっ」
少しだけ冷まさんと、熱で味が分からんのでな。
「ふーふーっ」
うむ、頃合いじゃ。
「はむっ」
くはあっ!
これが食事という快楽!
このような行為が日々必要だなど、生物とは真に贅沢じゃな!
しかも己等で食材を育み、改良し、調理方法まで模索し続ける人類という存在が実に尊いものだと実感できるのう。
その中でも、このカレーは真に素晴らしい!
一般的に使用されるスパイスだけでなく、山椒の実が僅かに使用されておりピリリとした辛さもあるのじゃな。
豆板醤もわずかに練り込まれていて、巷で言うとことろの麻婆カレーに少し寄せられているカレーライスであると言えよう。
その辛みと反するようではあるが、隠し味に入れられた蜂蜜とアプリコットの甘い風味がまたたまらんのじゃ。
辛いようでいて甘く、甘いようでいて辛い、この複雑な味わいをまとめているのがリヴァイアサンの鱗じゃな。
稀少な鱗を粉末状になるまで砕き、果てにはペースト状になったものをカレーのルウに混ぜ込んで使用するとはのう。
それが小麦粉の代わりに機能するとは、こうして食べてみた今でも驚きが止まんのじゃ。
まさか、リヴァイアサンの鱗が元よりカレー味であるなど異世界の民達も知らんじゃろうが、それを食べてみるところが梅染蘇芳の偉大な所行じゃと言えるのやものう。
腹が減ったから食ってみたという、ただそれだけのことに後世感謝が絶えんことになるのも頷けるのじゃ。
辛味と甘味が円みを帯びて上手く繋がっておる。
つまりは美味いのじゃ。
ふむ。
なるほどのう。
四の五のと理屈や要素を並び立てるまでもなく、ただ一言で良いのじゃな。
「美味い! このカレーは美味いのじゃ!」