二日目、山吹食堂へお出掛けなのじゃ
テンゴクが突然に立ち上がり「お昼だお昼だ!」と言って宿題を片付けていく。
「うむ。出掛けようかの」
クレヨンで汚れた手を洗う。
水源は当然『理術』で生み出された水なので、まあ綺麗な水ではある。
無駄にカルシウムの豊富なミネラルウォーターが出ている辺りに、和堂兆の親バカな一面が見えるのじゃな。
しかし、頭の中を真っ白にして絵を描くのは最高の娯楽じゃ。
こちの絵を「上手だね」とテンゴクも褒めてくれたしの。
何故か抽象画と呼ばれる類いの仕上がりになってしまうのが不思議じゃが、上手と思われているので問題はないのじゃ。
「それでは、お昼ご飯を食べに行くのじゃ!」
ふふん。
テンゴクと手を繋いでお出掛けなのじゃ!
しかも、あの山吹食堂の鬼カレーを食べに行くんじゃよな。
道中に、ついつい「カレーじゃ、カレーじゃ」と口ずさんでしまう。
「ん? ああっ! 今日ってカレーの日!?」
「そうじゃよ。山吹食堂の店長が人生をかけて作り上げているカレーが食べ放題になっているカレーの日じゃよ」
「あれって食べ放題だったの?」
「うむ。お主の父親も何度もおかわりしとったじゃろ?近所の学生達にも大好評じゃよ」
そうだったんだとテンゴクが頷いておる。
今のテンゴクには一皿で丁度良い量となっているんじゃな。
「ほれ、もう食堂じゃよ」
山吹食堂の入り口に来たので、こちはテンゴクの後ろに回り込む。
すまんが盾にさせてもらうのじゃ。
そんなことは気にした風もなく、テンゴクが店の扉をがらがら開く。
「突っ立ってないでさっさと座んな!そっちの小さい嬢ちゃんもね!」
ふう。
テンゴクの陰に隠れて何とか無事に済んだのじゃ。
あらゆる邪気を祓い退ける鬼の雄叫びとか、仮にも人外の存在であった者として直接浴びたいとは思わんのじゃよ。
もっとも、浴びたところで大した効果はないのじゃがな。
それでも、別に怒鳴り声が怖いから隠れたわけではないのじゃよ。
「あ、びっくりしたよね?昔は奥の厨房にいるゴツい店長が怒鳴ってたからさ、本当に怖かったんだよね」
そう言ってから、背中に隠れてるこちに、あっちに座ろうとエスコートしてくれるテンゴク。
ふむん。
一端のレディー扱いみたいで嬉しいのう。
もっとも、傍目には只の子ども扱いなわけじゃがな。
「その小さい子はどこから連れて来たんだい?」
山吹の奴め、こちのことが気になっとるようじゃ。
海松色海松茶とは違い、たんに可愛いもの好きというところは安心じゃの。
「あっ、この子って空から降ってきたんですよ」
「うむ。これからお主達には昼餉世話になるのでよろしく頼むのじゃ。お代は和堂兆につけておけば良いのじゃよ」
しかし、空から降ってきたんですよと素直に説明しても冗談だと思われているのじゃな。
「あはは。空から降ってきたなんて面白いね。私のとこにも一人欲しいよ」
子どもの冗談に対応する大人として100点の回答じゃな。
もっとも「本当に空から降ってきてもおかしくはないか。兆の旦那のとこだもんね」とも思ってるようじゃがの。
「今日ってカレーの日なんですか?」
「おっ、そうだよ。やっぱり匂いで分かっちゃうかな?」
知ってるだけなんじゃよな。
大衆食堂の割に、ここの空調は気を使われておる故、そこまで匂いは強くはない。
「ナラクちゃんがカレーの日だって教えてくれたんです」
うむうむ。
「こちに知らんことはないのじゃ。当然じゃよ」
「へえ、初めてみた子なのにね。うちのカレーの日を知ってるなんて、ここも有名になってるのかな?」
アカシックレコードとしては当たり前なのじゃな。
「とっても物知りみたい。ひょっとしたら天才なんじゃないかな」
ふふん。
アカシックレコードとしては当たり前なのじゃが、テンゴクに褒められると嬉しいのだけはどうにもならんのう。
店長の梅染蘇芳に呼ばれて山吹が厨房に行く。
そろそろカレーが食べれるんじゃな。
ちょっとそわそわしてきたのじゃ!
「ほら、お待ちどうさま。カレーの日のカレーライスだよ」
それではいざ!
「「いただきます!」」