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二日目、お絵描きが好きなのじゃ


  胡桃、月白、撫子、蜜柑、紅葉…

 こちの名前を考えようとして、次々にクラスメイトの名前を思い浮かべていくテンゴク。

 山吹さんってなんていう名前だっけ?っという疑問にぶつかったところで、テンゴクの思考が横道にそれてしまう。

 山吹というのはあのチート持ちの女じゃな。


「山吹の名前は山吹で、名字は梅染じゃよ」


「あれっ? 口に出てたかな?って、山吹さんって山吹さんって名前なの!?」

 まあ、山吹食堂の店長が娘の名前を看板に掲げておるなどと、普通は思わんよな。

「うむ。あやつの夫妻が、かつて世話になった恩人の名前を店と娘につけたのじゃよ」

 もう何十年も前の話じゃな。

 こち達には関係のない出来事じゃ。

「へえ。本当に色々知ってるんだね」

 ふふん。

 アカシックレコードである以上は当然なのじゃが、それでも嬉しくなるものじゃな。


「褒めても何も出んのじゃよ?」

 こんなことでアカシックレコードであるこちが喜ぶなどと思われては困るのじゃ。

「いや、すっごいにやけてるけど?」

 表情筋のコントロールは知識だけでは出来んのじゃな。

「なに、こちもまだまだ幼いということじゃよ。とくに、表情筋が言うことを聞かんで困る」

 苦しい言い訳じゃな。

 まあ良い。

「そうじゃ。こちの名前なんじゃがな、地獄と同じような意味で女らしい『奈』の字が含まれる言葉に『ナラク』というのがあっての」

 もっとも、その名前になることは知ってるんじゃがの。

 なのに、名が付くことを何故か心待ちにしている自分がいるのが面白いのじゃ。

「うん。良いんじゃないかな。奈落ちゃんって可愛いかも。それに、君の雰囲気に似合ってる感じする」

「そうじゃろう。それに奈落という言葉にはの、華やかな舞台の下に広がる床下の空間という意味もあるんじゃよ。絢爛豪華な舞台で踊るお主を支える者として、これ以上良い名は無さそうじゃろ?」

 うん?とテンゴクの顔が曇る。

「えっと、ぼくってケンランゴウカって舞台で踊ることになるのかな?」

「格好よく、派手に暴れまわるという意味じゃよ」

「ええっと、ぼくってそんなことしないと思うんだけどな…」

 うむうむ。

 今日という日を皮切りに文字通りに世界が変わるんじゃが、それはもうちょっとだけ後じゃしの。

 信じられんのも無理はないのじゃ。

「ふふん。今日の終わりに同じことが言えたら大したもんじゃな」

「ええー? 今日って何があるんだろ…」

「さて、想像もつかん出来事じゃよ。それよりテンゴクよ。お主は宿題の途中であったろう。そろそろ片付けておいた方が良いのじゃよ」

「あっ、そうだよ!庭に女の子が降ってくるなんてさ。びっくりしちゃって忘れてた」

 ちょっと待っててと言って宿題をしに向かうテンゴクが、その途中で思い出したようにテレビをつけてくれた。

「それじゃ、ナラクちゃん。好きなテレビ見てて良いからね」

「うむ。テンゴクも頑張って学ぶが良いぞ。知識は己を裏切らんし、簡単なことを難しく考える機会なぞ、お主の人生ではそうそうないのじゃよ」

「確かに、算数の教科書って内容を理解してから見直してみても難しい時あるんだよね」

 こちの嫌味にとれそうな発言に、それでも実に素直な感想を返し、テンゴクは机に向かう。

 勉学なんぞ個人のペースでやる方が効率が良いとは言え、講師の不足と有限の予算がそれを許さんのじゃな。

 足りぬを知るには良いと言えるのかのう。

 もっとも、テンゴクにはあの頭の片隅が腐っておるような、それでも教師としては優秀な海松色(みるいろ)海松茶(みるちゃ)の教え方が合ってはいるようじゃし、と…

 むう。

 異世界イツ・ルヒであの女に会うことを考えると今から憂鬱になるのでやめておこう。


 しかしのう。

 テレビはいかんのう。

 世界中のテレビに今どんな番組が放映されているのかもアカシックレコードには記録されておるわけで、わざわざ自身の目と耳を使ってまでそれを見たいとは思えんのじゃ。

 とは言え、テンゴクがわざわざ気を使ってテレビをつけてくれたんじゃし、見ようとしたいとは思うのじゃが…

 テンゴクが勉学という苦行に挑んでいるのじゃし、こちも少しは頑張っておこうかの。

 これも人と化した者の努めと割り切るとしよう。

 せめて、世界的に見られている件数の少ない番組を見ておくとしようかのう。

「ふむ。尭帝山の山芋汁に秘められた神秘のパワーをぎゅぎゅっと濃縮、とな。万病が治るとはのう」

 うむ、尭帝白皇という商品の、所謂テレビショッピングじゃな。

 しかし万病は盛りすぎじゃ。

 栄養は豊富なようじゃが、濃縮したせいで栄養成分の吸収率も落ちておるし、コスパは悪くなっておるの。

 しかも、このような怪しげな商品を買う鴨候補の電話番号を漏れなく獲られるとは小狡いものじゃな。

 うむ。

 やはりつまらんが…


「ちょっとナラクちゃん! こういうのはもうちょっと大人になってから見ないとダメだよ!」

 テンゴクがテレビを消してくれたのじゃ。

 商品を買うお金がない子どもはテレビショッピングを見てはいけないと思っているようじゃの。

 内容を素直に信じちゃいそうで怖いとも思っているんじゃな。

 よし。

「テンゴクよ。子ども扱いついでに、一つ頼みがあるのじゃ」

「え、えっと。なにかな?」

「テンゴクばかり宿題してて狡いのじゃ。こちも何か書きたいのじゃよ」

 大衆的に量産された見聞きするタイプの娯楽はこちには合わんのじゃ。

 いつでもアカシックレコードの記録から鮮明に思い出せるからの。

「それじゃあ、お絵描きでもする?」

「うむ! 紙を己の発想で塗り替えるなぞ最高の娯楽じゃ!」


 そうして昼前まで、こちとテンゴクは机に向かったのであった、のじゃ!





本編と地獄編を差し置いて、こちらを真っ先に完結させる予定です。

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