二日目、山吹戦の解説なのじゃ
床にべたりと伸びている山吹を転がして、その目覚めを待つ。
総MPが少ない分、全快までの時間が早いのも山吹の取り柄なのじゃよな。
「えっと、勝ったのかな?」
「うむ。勝ったのじゃよ」
あれこそ正しい勝利じゃ。
うーんと唸り、納得できないことがあるようなテンゴク。
「ぼくの攻撃が当たったって感じもなかったんだけど…」
「そこのところは、そうじゃな、山吹が目を覚ましてから説明しようかの。なに、直ぐに起きてくるのじゃよ」
ほれ、倒されてから3分も経たぬ内に「あいててて」とか言いながら山吹が起き上がってきたのじゃよ。
ゲーム風に言えば、やられたキャラが数ターンで自動復活してくるようなものじゃろう。
やれやれじゃな。
「ああ、負けちゃったんだね。やれやれ、どうして負けたのかさっぱりなんだけど、良かったら教えてくれないかい?」
思いもよらぬ負けかたが悔しかったのじゃな。
「うむ。それでは講釈しんぜよう」
「まず、そもそもじゃが、山吹には勝つつもりは最初からなかった。そうじゃろ?」
テンゴクが驚きを隠せずに山吹を見て、山吹は真摯に頷いた。
「まあね。だけど、負けるつもりもなかったんだよ」
わりと本気で悔しかったらしい山吹に、子ども相手にそれは大人気ないの、とは言わずに講釈を続けるのじゃ。
「テンゴクも覚えておくと良い。パーティーを組んでいる相手への攻撃はの、自分自身がダメージを受けることになるのじゃよ」
つまりは、山吹がテンゴクを攻撃したが故に、山吹はダメージを受けたのじゃ。
「あれ? 山吹さんがぼくを攻撃したから山吹さんがダメージを受けたってこと? そうなるってことは山吹さんは知ってたんだよね?」
それで負けてるのは間抜け過ぎだよねと遠回しに聞いてくるテンゴク。
「もちろん知ってたよ。だからさ、ダメージをちゃんと調節したんだよね。何度か転ばせたらテンゴクも諦めるかなっと思ってね」
「うむ。そういうわけで一つ目のポイントは『パーティーメンバーへの攻撃は自身にダメージが反ってくる』ことなのじゃ」
味方に化けたモンスターや、幻影を見破るのにも使えるので覚えておいて損はないのじゃ。
「次のポイントはテンゴクの使ったスキルじゃな」
基本的にスキルの説明は言葉足らずなことが多い。
これは、どんなスキルでも実際に使って試して欲しいからこそなのじゃ。
実際に使ってみないと効果がはっきりしないスキルが多い故、じゃがな。
「えっと、『気合い』と『根性』と『全力攻撃』を使って、威力を上げた『炎斬』を使おうとしたんだよね」
「うむ。『気合い』の効果はなんじゃ?」
「えっと、気合いが出る」
「『根性』は?」
「根性がすわる」
「では、『全力攻撃』は?」
「次の攻撃のダメージが3倍、だよね」
うむ。
スキルの説明文ではそうなっておるのじゃ。
「まず、『気合い』の正しい効果は『次に使用するスキルの効果が2倍』なのじゃ。更に、『根性』は『次に受けるスキルの効果が2倍』」
「ああ、2倍の2倍で4倍からの、『全力攻撃』の3倍で12倍って言ってたんだね」
「うむ。そしてじゃ、『全力攻撃』の真の効果なのじゃが、これは『次に与えるダメージか、受けるダメージが3倍になる』なのじゃよ」
次の攻撃のダメージが3倍という説明でも、確かに間違ってはおらんがの。
受けるダメージでも、与えるダメージでも、どちらであっても次のダメージが3倍なのじゃ。
「あっ! それじゃあ山吹さんがぼくを攻撃した時のダメージが12倍になって、しかもパーティーを組んでるから12倍のダメージが山吹さんに反っていったんだ!」
「うむ。その通りじゃよ」
飲み込みが早いのは助かるのじゃ。
もっとも、アカシックレコードの記録に乗っ取り、テンゴクが理解できる結果が得られるように教えられるおかげでもあるがの。
「なるほどね。ダメージが3倍になるスキルなんて、デメリットが無い方がおかしいか。だけどまあ、デメリットを利用して勝つなんて、中々面白いね」
受けるダメージが3倍になるのはデメリット、そう思うのも無理はないのじゃ。
今後の普通の戦いでも、それなりに使うことになるとは思うまいわな。
「ふふん。パーティーを組んでいるが故に、12倍の反射ダメージで、山吹は倒れた。ここまでは良いな?」
うん、と頷く二人。
そういうことかと納得しているのじゃ。
なんとも可愛いのう。
「では、最後のポイントじゃ」
「まだあるの?」
驚くテンゴク。
山吹の方は薄々と察しているようじゃな。
「一番大事なのはここからじゃよ」
そして、こちは二人に今回の勝負のあらましを説明する。
先のボス戦にてテンゴクの技の威力を山吹に見せておいたこと。
賢者のジョブを使用して、山吹の位置をピタリと指し当てることで、山吹の動きが読めていると刷り込ませせたこと。
それらの影響で、山吹が万が一にでも12倍炎斬に当たってしまうと、技を放ったテンゴクの方が大ダメージを受けてしまう為、攻撃の発生前に潰そうと考えたこと。
そして、山吹がそう考え終わったタイミングに合わせ、こちが技を撃つ指示を出したこと。
全てが山吹に勝つための行動だったのじゃ。
「つまりは、最初から全部計算通りだったってことかい?」
「少し違うのじゃよ。計算など、2かける2かける3の掛け算しかしておらん。こちがアカシックレコードである以上、最初からそうなることを知っていた、それだけじゃ」
過去から未來まで、この宇宙における全ての因果が記録されている以上、こちに未知はなく、故に既知であり、故知であったと言うことじゃな。
「つまり、こちが居たことがテンゴクの最大の勝因であるのじゃ。アカシックレコードが味方であれば、戦いが始まる前から勝利することが決定事項なのじゃよ」
勝ち目がないなら戦わなくても良い方向に進むだけじゃしの。
「うーん。頼もしいけどさ、頭の中まで分かるって、本当に何でも知ってるんだね。でも、いつか奈落ちゃんを驚かせてみたいって少し考えちゃうよ」
ふふん。
後で物陰から大声で驚かしてみようかな、などと考えておるのじゃな。
「挑戦するのは自由じゃが、例えば、物騒なことが起こりそうな物陰には近寄らんのでな。テンゴクは一人寂しく物陰の裏に佇むことになるじゃろうな」
むむっと唸り、作戦の失敗を悟るテンゴク。
「そっかあ。それは確かに寂しそうだね」
うむ。
驚かされると知っていても、きっとびっくりしてしまう自信があるのじゃ。
テンゴクが驚かせることを諦めてくれて一安心したことは秘密じゃよ。




