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二日目、山吹戦


 神速の境地で駆け回る山吹。

 それを目で追うことができるはずもなく、テンゴクは唖然と呟いた。


「いや、これ無理だよね?」


 下手に攻撃をするのは、自ら事故に捲き込まれに行くのと同じこと。

 誰もが、そう考えて躊躇せずにはいられない状況に、それでも奈落は冷ややかに笑う。


「否じゃ。こちはアカシックレコードとして、この戦いにテンゴクが勝利することを宣言する」


 奈落にとって、戦いとは既に約束された勝利に向かって、一歩ずつ近寄っていくだけの作業でしかない。


「だけどさ、こんなの攻撃当てれる気がしないし、避けれる気もしないよ!」


 ただの攻撃なら確かに避けられ、ただの攻撃でも確かに避けられないことは明白だ。


「なに、先ほどのボスを倒したあの技を、こちの指示したタイミングで使えば確実に勝てるのじゃよ」


 知覚は出来ずとも、アカシックレコードには過去から未來まで、どの場所に山吹が存在しているのか記録されている。

 目で追えなくとも、既に奈落は知っている。


「こちがジョブ魂を使えば知覚が上昇し、リアルタイムでアカシックレコードの記録と自身の行動の両方を演算することも可能じゃ」


「つまりはどういうことなの!?」


 アカシックレコードではなき者にとって、アカシックレコードであるこちを疑ってしまうのも無理はない。

 そして、だからこそ、この戦いは奈落にとって、テンゴクに自分のことを心置きなく信じてもらうための戦いでもあった。


「つまりは、こういうことじゃよ」


 奈落は全ての知覚を持って、アカシックレコードの記録と自身の制御にのみ集中する。

 山吹を見る必要もなく、気配を察知する必要もない。

 結果は既に知っている。

 奈落にとっては全てが故知たるこの現世に置いて、するべきことはただ一つ。


 再現すること、それだけだ。


「そこじゃ!」

 奈落が叫びと共にピシャリと手を振りかざし、真っ直ぐに山吹を指し示す。

 ただそれだけ。

 お前はそこに居るとただ指し示しただけの、攻撃でも何でもないその行為で、山吹の動きはピタリと止まったのだった。

 腕の一振りで暴風が如き猛威を静めた奈落に、テンゴクは目を見張る。

 そして、山吹は…


「へえ、びっくりした。凄いね。面白いや。攻撃されてたら当たってたかな」

 驚きは隠せずに、そして歓びも隠せずに、

「だけどもう、油断はしないよ!」

 山吹は再び駆け出した。


「ええっ! もっと速くなっちゃったよ!」

 テンゴクが絶叫する。

 山吹は確かに速くなり、そして油断も消えたのだ。

 今と同じことをしても、今度は確実に失敗する。

 だからこそ…


「次はテンゴクの番じゃよ。さっきのボスを倒したときと同じように、『気合い』と『根性』、そして『全力攻撃』からの、今度は『炎斬』が良いじゃろな。12倍攻撃なら範囲もそこそこ広いしの。タイミングはこちが指示するが故、好きな所を攻撃すれば良い。それで勝てるのじゃよ」


 奈落は断言する。

 アカシックレコードの化身であり、結果を既に知る奈落が断言したのなら、それは間違いなく、そうなる。

 荒れ狂う山吹の風が「あはははっ。出来るかな?面白いね!」と笑いながらも少しばかりの怒気を孕んで更に激しさを増した。


「12倍攻撃なら、確かに当たれば…」

 奈落のか細い指先の比ではない強大な攻撃が、当たれば一撃で倒せることは間違いがなかった。

 何せ、山吹はジョブ魂を使っていない。

 そして、レベルはたったの10なのだ。

 耐久性はたかが知れている。

 そこまでのことは知らずとも、テンゴクは決意する。

 よし、やるぞと。

「『気合い』! 『根性』! 『全力攻撃』!!」

 そして、準備は整った。


 山吹は考える。

 確かに当たれば一撃だ。

 そして、テンゴクは戦いの素人だ。

 どんな動きをするのは予想がつかない。

 どんな攻撃であっても対応できる自信はある。

 だけど、さっきは奈落ちゃんに虚を突かれた。

 今度も私の意識の虚をついて、思いもよらない攻撃がきたらどうなるかな。

 本当に『ファイヤスラッシュ』が来るのかも決めつけちゃ駄目だよね。

 よし、万全を期して攻撃前にテンゴクを転ばせたらどうだろうか?

 奈落ちゃんの指示があってからでも、技が発動する前に邪魔するくらいは簡単だ。

 ある程度ダメージを調整しないといけないけど、よし、いけるよね。

 技の発動前に軽く足払い、これでいこう。


 山吹はまだ理解していなかった。

 そう考えることすらも、アカシックレコードの記録のうちだということを。

 そして奈落は待っていたのだ。

 テンゴクの攻撃が山吹に当たるタイミングではなく、山吹が足払いで行こうと考え終わることを、奈落はじっと待っていた。


 つまりは時が来た。

 後は一言

「今じゃ!」

 そう一声、威勢良く発すれば

 

「『ファイヤースラッシュ』!!」


 炎斬が発動し、地には山吹が伏せていた。




次回はどうして山吹が倒れているのかの解説回。もっとも、本編と奈落編を合わせて読んでいると、大方の予想は付いてしまうと思います(宣伝)。


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