二日目、テンゴク初陣
末広とは着物に挟んで持ち歩く扇子のことです。
山吹に回復薬を貰い、レベルが上がったことによる不足分のMPを回復したテンゴク。
自身の数倍はあろう巨大な岩の顔面像と向かい合う。
いざボス戦というわけじゃ。
「先ずは覚えたスキルを一通り使ってみると良いじゃろ。『憤怒』からがお勧めじゃ」
テンゴクが覚えた勇者のスキル。
その内『勇者の憤怒』というスキルをレベル3まで上げて使えるようになった『炎』『氷』『岩』『打』『斬』『突』の6つの技。
これらは単体では効果を発揮できず、いくつかを組み合わせて使用するのじゃ。
「それじゃあ、えっと… 『炎斬』!」
詠唱によって炎の斬撃が現れ、巨像へ向かって飛んでいく。
巨像を焼き斬らんとするその斬撃は、それでも少々の焦げ目をつけただけで終わった。
『炎』と『斬』を組み合わせての『ファイヤスラッシュ』
大したダメージを与えたとは言えぬ初歩的な攻撃。
然れど、それはテンゴクにとって…
「凄い!本当に炎の斬撃が出たよ!」
なんとも嬉しそうなのじゃ!
初めて使ったスキルが確かに発動した感慨。
それこそが今の攻撃により得られた最大の効果じゃ。
見ていてほわほわするのじゃよ。
「うむ!見事じゃ!その調子で次も行くのじゃ!」
嬉しそうなテンゴクを見ていると、こちもテンション上がってくるのじゃよ。
「よおし! 『氷突』! 『岩打』!」
氷による刺突が穿たれ、岩による欧打に揺れる巨像。
元より動かぬ巨大な像が、揺れることによって弱っているように見えんでもないのじゃ。
「そこじゃ! 行くのじゃ! 必殺、『気合い』と『根性』からの『全力攻撃』じゃー!」
「行くぞー! 『気合い』!」
『気合い』の効果で次に使用するスキルの効果が2倍になったのじゃ!
「次は『根性』!」
『根性』の効果は次に受けるスキルの効果が2倍!
先ほどの『気合い』の効果で2倍の2倍で4倍じゃ!
「さらに『全力攻撃』!」
この『全力攻撃』は次の攻撃がダメージ3倍になるのじゃ!
『気合い』で2倍、『根性』で2倍、『全力攻撃』で3倍、全てを掛けると12倍!
隙こそ大きくとも、やはり格上と張り合う為のスキルこそが勇者の真骨頂なのじゃ!
「行け! 止めの『氷突』じゃ!」
防御の高い岩の敵には氷の刺突が相性抜群なのじゃよな。
『岩』に対しては『氷』が、『防御力』に対しては『刺突』が最も効果を発揮するからの。
「いよっし! 必殺!『アイスニードル』!!」
勇者の攻撃スキルの初歩である『氷』と『突』も、その効果が相性抜群の12倍攻撃であれば必殺スキルに早変わり。
巨像は粉々に砕かれて、その巨体は光となり消えていった。
「見事なデビュー戦じゃ! 天晴れなのじゃ!」
こちは末広を取り出し広げてテンゴクを褒め讃える。
「やったよ!本当にスキルが使えるなんて、あんな大きい敵が倒せるなんて凄いね!」
うむうむ。
テンゴクが嬉しそうだとこちもほわほわじゃあ。
「よくやったね。まさか一人でやっつけちゃうなんて思わなかったよ。流石に勇者ってとこかな」
山吹が回復薬をテンゴクに渡し、テンゴクは嬉しそうにそれを受け取る。
「ありがとうございます!でも、山吹さんみたいに一撃で瞬殺の方が凄いですよね!」
回復薬を飲み、テンゴクも全快となった。
さて、頃合いじゃな。
「『ジョブ魂:賢者』『インストール』!」
「おや、どうしたんだい奈落ちゃん?」
白々しい山吹。
「ふん。次のお主との戦いに勝つためにはのう、流石にテンゴク一人では難しいじゃろ?」
まいったね、と笑う山吹
どういうこと、と戸惑うテンゴク
「それじゃあ本当のボス戦、テンゴクと奈落ちゃんバーサス私、試合開始といこうかな!」
そして山吹が駆け出した。
それはもう、目にも止まらぬ早さで縦横無尽に駆け出した。
「ええええええっ!!!?」
テンゴクの悲鳴にも似た叫び声をゴングに、奈落のデビュー戦が始まった。




