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二日目、勇者テンゴク


 鏡にテンゴクが吸い込まれて行くのを見送った後、こちは千歳碧と向かい合う。

 これから長い台詞を言うのかと思うと少しだけ緊張するのう。

 「さて、と」

 などと一拍とってしまう程度には緊張しとるんじゃな。

 まあ良い。これも経験じゃ。

 緊張できるなど貴重な経験であるとも言える。


「千歳碧、異世界(イツ・ルヒ)の巫女でありテンゴクの母であるお主に言っておくことがある」


 こちの背後で山吹が吹き出しとる。

 今まで碧がテンゴクの母親だと気付いておらんかったのは鈍感としか言えんのじゃがな。

 それなりに長い付き合いじゃろうに。


「聞いておこう。悪い話ではなさそうだ」


 うむ。流石に碧は落ちついとる。

 要点だけ言っておくのじゃ。


「うむ。やがて起こる戦いで、テンゴクは異世界(イツ・ルヒ)に付くことを選ぶ。その心積もりをしておくと良い。これはアカシックレコードに記録された純然たる事実じゃ」


 地球と異世界(イツ・ルヒ)

 どちらかが消えるまで終らぬ戦いが起きる。

 その時までに色々と準備せねばならぬのじゃ。

 これもその準備の内の一つじゃな。


「ふん。そんなことを言いたかったのかい?」


 くだらないとばかりに言う碧。

 嬉しさ半分と虚しさが半分というところじゃな。

 この世界を見捨てられず、生け贄と言っても大差のない巫女という役目を負った千歳碧にとって、やはりどちらかの世界が消えることは憂鬱でしかないのじゃろう。


「あと一つ。差し迫っては此方が大事じゃな」


 焦らすように一拍の間を置く。

 雰囲気は大事なのじゃ。


(じき)に『魔王』が復活する。そして、テンゴクの天職は『勇者』じゃ」


 今度は碧も目を伏せる。

 然れど、それもほんの一瞬のこと。


「そうか。そういうことか…」


「一応言っておくが、これに関して(きざし)は何も仕組んではおらん。ただの運命なのじゃよ」


「ああ、(きざし)は、それでも何かを企んでいるんだろう?」


「うむ。世界を見捨てられぬお主を見限れぬ兆は、今も神を欺こうと奔走しとるよ。こちの擬人化もその一環じゃな」


「まったく、地球のことだけを考えてくれれば良いというのに…」


 嬉しさが半分と諦めが半分じゃな。


「まあ、あやつは地球のことは片手間でやっとるのじゃよ。そこはお主よりも上手くやっておる」


「そうだろうともさ。さて、しかし『勇者』とはね…」

 『勇者』という職業はそれだけで特別じゃ。

 特別故に特別扱いをせねばならなくなる。

「知っておろうが『魔王』を倒せるのは『勇者』だけなのじゃ。間に合わせる為にも早急にレベルを上げることになる故、早々にレベルキャップを外して欲しいのじゃよ。なに、最初のキャップは明日で良い」


 こちの背後でまた山吹が吹き出すように笑いだした。

「明日までにレベル50にするってことかい?」

 まるでおかしなことだと思っている山吹。

「そうじゃと言っておる。そも、お主の方のやったチートなステータス上げに比べれば余程にゆっくりしておるじゃろ?」

 こちの指摘に少しぎょっとして「あはは。それもそうだね」と苦笑う山吹。

 山吹のやったというよりは、和堂兆にやらされたというべきじゃがな。


「明日中に上げれるのなら構わないとも。準備しておくさ」

「うむ。まあ言っておくべきはそのくらいじゃ」

 これで恙無く碧達の方は動いてくれよう。


 そろそろ、テンゴクが鏡の中より帰ってくる。

 次はこちの番じゃな。

 あの鏡に入るんじゃよな。

 むーん…


 そして、鏡の中よりテンゴクが出てきた。

「怖っ!」

 第一声が勇者とは思えんのじゃ。

 まあ、まだジョブ魂も使っとらんしの。

「あっ、奈落ちゃん。ぼくって勇者だって! 何だか照れるよね! 魔王を倒しに行ったりって柄じゃないんだけどなあ!」

 うむうむ。

 ちょっとテンション上がってるのう。

 こういうテンゴクは子どもらしくて可愛いのじゃ。

「うむ。魔王と戦えるのは勇者であるテンゴクだけなのじゃ。皆、期待しておるのじゃよ」

 実際にそうなのだから誇張も何もない。

 然れど、勇者なんぞと言われて平常心を保てる者は勇者が過ぎる。

 その点、テンゴクはちょうど良い勇者なのじゃろう。


「えーっ? 本当に魔王が居るの!?」

「うむ。魔王が復活するまでに勇者はレベルを上げんとならん。頑張らんとな」

「本当にゲームみたいなんだね!」


 うむうむ。

 さて、次はこちの番じゃな。

 やれやれ、鏡の中の自分に手を掴まれるのは怖いのじゃ。

「それでは次は君の番だよ」

 碧が促してきおる。

 催促してきおる。

「それでは行ってくるのじゃ」

 行かんわけにもならん、行くなら勢いよく行かねばな。


 こちは少し助走を付けて、鏡の中へとダイブした。

 これなら一瞬しか手を掴まれんのじゃよ!


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