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名もない二人シリーズ

all alone

作者: 椎名

 


 ふわふわした足取りで人通りの少なくなった道を歩く。

 頭上には星ひとつない漆黒がまき散らされているけれど、それはちっとも不快じゃなくて、むしろ溶けてしまいたくなるような、そんな6月の夜だった。

 薄い綿のロングスカートが足に絡みつくのも、去年買った白いサンダルが時折するりと脱げそうになるのも、今の心情からしてみれば割とどうでもいいことで。

 さざ波のように寄せては返す夜風の心地よさに身を委ねながら、あてもなく歩いてきた。


 誰が見ていなくとも回り続ける風車。

 一輪だけ咲いた季節外れのヒマワリ。

 楽観主義者でも悲観論者でもないけれど、目に入るそんなものたちが、今の自分には見合っていると思った。

 身の丈を弁えた分相応の共鳴は、誰への冒涜でもないだろう。



 曲がり角を文字通りに曲がりかけて、うすぼんやりした街灯の下に見慣れた男の影を見た。

 驚きも焦りもしなかったのは、これが初めてではないからか。

 あるいは、待っていてくれることを心のどこかで期待していたからか。


「おかえり、不良娘。また一人でふらふらしやがって。」


 短くなったアメスピを靴底で踏むと、やがて赤は黒に変わる。

 吸い終わるまでに時間がかかるというそれを、一体何本手持ちから減らしたのだろうか。


「ふらふらはしてない。ただのお散歩。」

「屁理屈を捏ねんなっての。世の中物騒なんだから、ちょっとは身の危険を回避するように動け。」

 聞いてんのかと咎める口調の奥に心配と安堵の色を見て、安心するのはこちらの方だと言ったらどんな顔をするだろう。

 もっとも、今以上に呆れてしまうことは確かだろうが。


「それでも、待っててくれるんでしょう。」

「それでも、一緒に連れて行けよ。ひとりでいようとすんな。」

 続かない言葉の続きが堪えた。

 それは彼のやさしさで、わたしの狡さに他ならない。

 是も否も言えなかった。言いたいことは何ひとつ。



 ただ、抱き寄せられた腕の中で、

 わたしはきっとまた同じことを繰り返すのだと、漠然とそう思った。










アメスピ=アメリカンナチュラルスピリット


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