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春の隣  作者: 白黒
22/26

22話

 アトラクションを楽しんだ後は、食べ物を調達し、パレードを見ようということになった。

 最も難易度の高いアトラクションを乗り終えても、如月と佐田はけろりとした顔をしていた。

 俺と先川には少しだけ刺激が強過ぎたが、尾をひくほどではない。

 パンフレットであらかじめ確認してあった場所で各々好きな食べ物を買い、食べ歩きながらパレードが見える場所へ移動する。

 食べ歩きができるのも、このテーマパークの醍醐味の一つだ。

 俺と如月はボリュームのあるホットドッグを。先川と佐田は、チュロスを一本ずつ、ポップコーンを二人で一つ買っていた。

 先川が選んだチュロスの味は、予想を裏切らないチョコレート味だった。

 移動するにつれ、周囲を歩く人の数が増えているような気がするのは、気のせいではないだろう。

 俺達同様、パレードを見ようという客が移動しているのだ。

 テーマパーク内を回っている間、俺と如月は先川と佐田の後ろを歩くことを心掛けていた。

 それはこういった人の波に飲み込まれたとき、俺達より身長が低い二人を見失うことがないようにする為だ。

「これ以上近付くと、もっと人が増えてきちゃうね」

「この辺りで止まろうか。ここからでも結構見えるし」

「そうだな。向こうの端に寄ろう」

 最前列で見られなくとも、このテーマパークのパレードは規模が大きい。多少離れていようが、十分に楽しめるはずだ。

 俺達は人の波を断ち切るように少しずつ移動し、道の端を目指した。

「真智、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

 若干ぶつかられながらも、うまく人と人の間をすり抜ける佐田に対し、先川は大丈夫と言いつつも危なげだ。

 歩く速度は人それぞれ違うため、人を避けるタイミングを読むことが難しい。

 もしものとき、すぐ見つけられるように後ろを歩いていたが、この場合は前か横で先導した方が良さそうだ。

「如月」

「あぁ」

 声を掛けただけで俺の意図を察した如月が先川の横に入り、俺は佐田の横に入る。

「お?」

「え?」

 俺は佐田の。如月は先川の肩に手を添える。力の入れ具合で、進め、止まれ、と指示を出し、道の端へ誘導していく。

 それでも、ぶつからないよう注意を払わない奴等というのは、どうしてもるもので、こちらがどんなに気をつけていようと、そういう奴等を完璧に回避することは難しい。

 勢い良く進むそういう奴等に、先川と佐田がぶつからないよう、俺と如月で庇いながら少しずつ進んでいくと、時間は掛かったが無事に道の端へ抜けることができた。

「ふーー。やっと抜け出せた。山下、ありがとうさん」

「どういたしまして」

「如月君、ありがとう。ごめんなさい、私鈍臭いから」

「あの人の数じゃ仕方ないだろ。気にするな」

 人の波を抜け、俺達は大きく息をついた。

 佐田は軽い口振りで礼を言い、先川も礼を言うが、申し訳なさそうに眉尻が下がっている。

「はぐれずに済んで良かった良かった。ほら、パレード始まるよ!」

「うん。……如月君、山下君、ありがとう」

 さすが佐田。と言うべきだろう。気落ちし掛けた先川の気分を、佐田の陽気な声掛けが立て直させた。

 せっかくの楽しい時間なのだ。先川に笑顔が戻り、俺も安堵する。

 俺、佐田、先川、如月の順で並び、パレードが始まるまで待っていると、遠くから賑やかな音楽が聞こえてきた。

 拍手と、歓声が湧き起こった。

 徐々に音楽が大きく聞こえるようになると、煌びやかな衣装を身に纏ったキャスト達や、人気キャラクターが乗ったフロートがやって来るのが見えた。

「綺麗……!」

 佐田の向こうで、先川の歓喜の声が聞こえた。

 この音楽と歓声、拍手や手拍子の中では、聞こうと耳をすませていなければ、聞こえない。

 パレードを楽しみながら、つい先川に意識を向けてしまう。

 パレードは楽しい。音楽も、キャストの振り付けも、歌もいい。

 だが、それと同じくらい、先川が今どんな顔で笑っているのか、見たいと思ってしまうのだ。

「真智じゃなくて残念だったわね」

「……!」

 パレードに目を向けたまま、佐田が不意にそう言った。

「と、な、り」

 そう付け加え口角を上げた佐田に、俺は唖然と言葉を失った。

 先川に意識を向けていた俺だが、俺が視線を向ける先には佐田もいる。

 俺がパレードに集中していない事に気が付いても不思議なことではないのかもしれないが、それ俺が先川に意識を向けていたように、佐田も俺へ意識を向けていればの話だ。

 女は男より色々見えてる。以前、アルバイト先の店長が言っていた言葉を思い出す。

 まさか。もしかして。可能性としての切り口が脳裏に浮かぶが、そんな中途半端な表現で収まる状況ではないだろう。

「好きなんでしょ?」

 そら、見たことか。

 視線はパレードに向けたまま、周囲の音に掻き消されずに済むぎりぎりの声量で確信的に尋ねてくる佐田に、俺は返答に詰まった。

 違う……そう口にしようと思ったが、口はきつく引き結んだまま、開かなかった。

 違うと口に出そうと考えたその直後には、駄目だと否定的な意思が、俺の中で待ったをかけたからだ。

 違うと言いさえすれば、誤魔化せる可能性はゼロではなくなる。

 しかし、例え嘘だとしても、既に名指しで突き付けられた想いを、想い人の友人である佐田に向けて否定するのか?

 今ここで誤魔化せば、いずれ胸を張って想いを告げる資格がなくなる気がした。

「あぁ」

 俺は自ら、佐田の確信を肯定した。

 すると、佐田は目元を緩め、「良かった」とぽつりと零した。

「私さ、最初は山下のこと、あんまりいい印象持ってなかったんだよね。冷たそう、っていうかさ」

「…………」

 突然の嬉しくない告白に、戸惑わなかったわけではない。

 だが、何か意図があるのだろうと、俺は沈黙して佐田の声を拾った。

 それに、どのみち俺は佐田の発言に言い返す言葉を持ち得なかった。

 俺は優しくない。

 外見目的であったとしても、好意的に声を掛けてくる女子に、にこりともしないし返答もぞんざいな自覚がある。

 それを指摘されてしまえば、ぐうの音も出ない。

 けど、いつだったか……。俺を優しいと言ってくれた奴がいた。

 夏休みの、アルバイト先。偶然先川に会ったとき、言われたのだ。

 山下君は優しいですから。

 そう、言ってくれたのだ。こんな俺のどこを見て、そう思ったのか。先川は、俺を優しいと言ったのだ。

 今でも、優しいという評価にはピンときていない。

 先川には、一体俺がどんなふうに見えているのだろうか。

 俺の沈黙を落ち込んでいると取ったのか、佐田は苦笑し「今は違うって」と言葉を続けた。

「今のあんたはいいと思うよ。あんたなら……って思うくらいには。この前、それを確かめられたしね」

「……あれか」

 この前、と言われすぐに思い至るのは、中間試験前、気分転換に街を歩いていた日のことだ。

 先川の誕生日。

「俺を有無を言わせず誘ったのは、品定めの意図があったってわけか」

「そうに決まってるでしょ。でなきゃ、あんな横暴なことしないって」

「……」

 前島とのやり取りを思い出す限り、先川の誕生日に取った佐田の行動も、ほとんど素だったと思うのだが、今は沈黙が賢明だろう。

 先日、俺は佐田に認めてもらえるような行動を取った覚えも、そんな発言をした覚えもない。

 何が佐田に、あんたなら……と思わせたのだろうか。

 先川に言われた優しいという評価と同じくらい、ピンとこなかった。

「あの子は、イケメンに告白されたからって簡単にオーケーするような子じゃないから。そこ、ちゃんと覚えておきなさいよね」

 茶化すような、皮肉るような。軽薄に聞こえる声の弾み方だが、しかし佐田は、真剣に言っているのだろう。

「分かってるさ」

 佐田に言われるまでもない。

 先川がそういう奴だったら、俺はこんなに惹かれたりしなかったのだから。

 そんな意を込めて返すと、佐田は笑って俺の腕を軽く握った拳で小突いた。

「それなら良し」

 女は男より色々見えてる。改めて、思い知らされた気分だ。

「理歌! これ理歌の好きな曲だったよね?」

「あ! そうそう、これこれ! ここで流すなんて憎い演出するわー!」

 俺と会話していた事実など、まるでなかったかのように。

 先川に声を掛けられ、佐田はころりと表情を変え、陽気に応えた。

 女は凄い。そして、少し怖い。

 先川に、いい友人がいて良かった。

 敵に回すのは恐ろしいが、先川にそんな友人がいることが、俺としては心強い。

 俺が先川に誠実である限り。生半可な想いを向けない限り。ずっとそう思っていられるだろう。







 パレードを見終えた後は、17時の集合時間に間に合うように土産を買った。

 集合時間ギリギリになる奴等もいたが、大きな遅れはなく、ほぼ予定通りの時間に、バスを出発させることができた。

 一日遊んだ疲れからか、眠ってしまう奴が多く、行きのバスで騒いでいた奴等も、帰りは静かなものだった。

 通路を挟んだ隣で、佐田が先川に寄り掛かって眠っている。

 窓の向こうへ目を向けている先川と、俺の視線が交わることはない。

「…………」

 ポケットにしまった、先川からもらった飴の袋を取り出し、裏に書かれた文字を見る。

 “恋を成功させる為には”

 俺の飴が変わった色は、黄色。……自分から行動を起こすべし。

 その一文を見たとき、図星を突かれた気がした。

 遠足が終われば、すぐに期末試験があり、それが終われば息つく間もなく受験を迎えることになる。

 席が隣になることも。アルバイト先で会うことも。帰り道が一緒になることも。

 これまであった全ての偶然は、きっともう起こらないだろう。

 俺が、自ら望んで先川の隣に行こうとしなければ。

 隣にいたいと、ただ望むのではなく、それを現実にしようと行動しなければ。

 行動を起こすチャンスすら、なくしてしまうだろう。

 受験が終わり、合格が決まったそのときに……。

 俺は一歩を踏み出すと、決意した。

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