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春の隣  作者: 白黒
21/26

21話

 中間試験の結果はまずまずといったところ。

 先川と佐田の様子を見る限り、二人も良かったらしく、結果を見せ合って喜んでいた。

 結果がいい奴がいれば、悪い奴もいるわけだが、赤点ばかりを取る奴はいなかったようで、補習授業を受ける必要のある生徒は俺のクラスではいなかった。

 中間試験が無事終われば次に待っているのは、時期に賛否両論分かれる遠足だ。

 遠足で行く場所は、日本で最も人気があると言ってもいいテーマパークだ。

 アトラクション、パレード、建築物や風景、食べ物、等々。

 楽しみ方は様々で、どんな奴でも何かしら気にいるものがあるだろうという場所だ。

 目的地まで向かう手段は大型バスで、座席は班別になっており、左の列が男子、右の列が女子となっている。

 通路側に俺。窓側に如月。通路を挟んだ向かい側には、通路側に先川。窓側に佐田が座った。

 今回の遠足、如月が参加するとは正直なところ予想していなかった。

 気掛かりではあったのだ。

 文化祭のときも如月は、文化祭に出るならバイトする……と母に言ったくらいだ。

 今回の遠足も、「遠足に金を掛けるなら生活費の足しにする」というようなことを言うのではと思っていた。

 遠足に参加するかどうかは如月本人が決めることで、如月が後悔しないのなら他人の俺がとやかく言うこともできない。

 だが、とやかく言えるのが家族というものだ。

 如月の家族は文化祭のとき同様、如月に遠足を楽しんでほしいと思っていたのだろう。

 バスの中で、それとなく参加を決めた理由を探ってみると、やはり如月本人は不参加のつもりだったが、家族の懇願があったため参加を決意したのだそうだ。

 不参加の理由も、参加の理由も、家族。さすが如月だ。

 俺は如月の参加に密かに安堵した。

 俺が心配するまでもないのだろうが、家族と協力しうまく生活しているようだし、如月が参加するかどうか、きっと先川も気掛かりだっただろうから。

 バス内、俺達の班の席は前から二番目で、担任の後ろの列。

 大きな塊に属する奴等は好き好んで選ばない列で、騒々しい奴等は側におらず、バス内は快適だった。

 後ろの列の奴等に聞かれないとも限らないため、如月のプライベートに関わることには俺からは触れないようにしつつ。

 ぽつりぽつりと会話をする中で、如月の進路は就職だと知った。

 驚きはなく、そうだろうなと思った。

 テーマパークに到着すると、さすが人気のテーマパークというだけはあり、平日でも大勢の来場客が行き交っていた。

 休日や大型連休と比べてしまえば随分マシな方で、こんなものだろうと思う俺とは違い、如月はこの人の数にたじろいでいるようだった。

「おい、大丈夫か?」

 如月が人混みが苦手な奴だったとして、それが体調に影響するほどの度合いの話だとすれば、入口の門をくぐった後の行動に気を付けなければならない。

 確かめる為に小声で声を掛ければ、如月は思案するように顎に手を当て、曖昧に頷いた。

「こういった場所に来た経験が少ない……というか、記憶上なくてな。人の多さに少し戸惑った」

 ただ人の多さにげんなりしているだけ。それ以外に深い意味はないような軽い言い振りをした如月だが、声を潜めていることから事情は窺えた。

 如月の父がまだいた頃。こういった場所に連れて来てもらえるような状況にはなかったのだろう。

「俺も初めて来たときは人酔いしたな……。これからは行く機会が増えるかもしれないし、少し慣れておいた方が、あとあと楽だぞ」

 母や妹を連れて来てやるとか、いずれは恋人や、結婚し子供ができれば親子で……。

 恋人、果ては夫婦になる相手のことは、考えないでおこう。

 今は、如月が誰かを連れて来てやりたいと思ったときの為に、多少なりとも克服した方がいいということだ。

 勿論、如月自身が来たいと思ったときの為にも。

 もし、無自覚でも苦手意識を持ってしまっているのだとしたら、今こそ少しでも克服するいい機会のはずだ。

 俺や先川がいる今なら、仮に如月が不穏な心境になっても、それを晴らしてやることができるかもしれないから。

 そんな内心は、照れ臭くて口には出せるわけがない。

「そうだな」

 少しだけ口の端を緩めた如月の表情からして、全て筒抜けなのだろうが。

 それをわざわざ口に出して確認しようとしないところが、俺が如月との会話で心地良いと感じる瞬間の一つだ。

「では、17時にまたここで点呼を取る。時間厳守だぞ。羽目を外し過ぎないように。解散!」

 担任からの連絡、注意が終われば、小学生のように元気な声で「はーーい!」と手を挙げる奴等がちらほらと。

 パーク内に入ると、班で別れてしまった友人ともパーク内を回りたいという奴等が、友人がいる班と自分の班とで合体し、大きな班のようになっている。

 如月のことを考えれば、俺の班がその流れの影響を受けることは望ましくないだろう。

 男子ならともかく、大きな塊の女子が加われば、如月はテーマパークに慣れることより、身近な他人に気を張らなくてはならなくなるだろうから。

 先川や佐田も、あまり親しくない奴等が加わってきてしまっては、のびのびと楽しめないだろう。

 パーク内に入る前に、俺はあらかじめ他班との合流を避けようという案を出していた。

 ハッとしたように頷いた先川は、俺の如月への考えを察したのだろう。

 佐田には「モテる男は大変ね」と茶化されたが、如月の件を勘付かれずに済んだのだから、これはこれで好都合というものだ。

 パーク内を少し進み、他班から距離を取ったところで、俺達はマップを確認した。

 まずどうするか話し合った結果、午後のパレードまでアトラクションを楽しもうということになった。

 乗りたいアトラクションを一人一つずつ上げていき、まずそれから回っていくことに決定した。

 どのアトラクションがどういうものなのか分からない如月は、「直感でいい。選んでみろ」と俺が耳打ちした通り、俺達が希望を出したアトラクション以外のものを適当に選んだのだが……それがこのテーマパークで最も難易度の高い絶叫マシンだということは、今は伏せておくことにした。

 他のアトラクションから、如月が絶叫マシンをどの程度大丈夫なのか把握し、やめた方がいいと判断したとき教えればいいだろう。

 如月が大丈夫でも、先川か佐田が無理な場合もあることだし。

「…………マジかよ」

 誰かが絶叫マシンを苦手だったら……そんな心配は杞憂だったと、俺は早々に思い知ることになった。

 俺と先川が希望したアトラクションは、絶叫難易度があるとすれば中間辺り。

 佐田が希望したアトラクションは、俺と先川が希望したアトラクションより幾分、難易度が高く、初心者の如月はどうかと気を揉んだが、乗っている最中の如月は無言。

 乗り終わった後も、青い顔をしているかと思いきや、気のせいでなければ清々しい顔をしているように見えた。

 意外なことに、先川もけろりとした顔で佐田と笑っているのだから驚きだ。

「如月、お前大丈夫か?」

「何というか……風がいい」

「マジかよ」

 念の為に声を掛けてみるが、やはり如月は全く問題なかったようだ。

 将来バイクでも買おうものなら、頻繁に乗り回しそうな返答が返ってきた。

 この調子なら、もう心配は不要だろう。如月が直感で選んだアトラクションも、問題なく乗れるはずだ。頼もしい限りである。

「んーー、なんか口寂しい」

「お腹空いた?」

「うん。ちょっと」

 如月が選んだアトラクションを待つ列に並んでいる最中。

 佐田が小腹が空いたとぼやき始めた。

 乗り終わってから何か食べ物を調達するにしても、待ち時間はあと三十分はある。

 それまでは我慢だなと、俺は近場で食べ物を調達できそうな場所を確認するためにマップを開いた。

「理歌、これならあるよ」

「あ! これ占いのやつじゃん!」

 佐田の弾んだ声に、何だと顔を上げてみると、先川が菓子の袋らしきものを佐田に向けて傾けていた。

「一年生のとき流行ったよねぇ。ありがとう」

「どういたしまして。山下君と如月君も、よかったらどうぞ」

 佐田は袋の中身を知っているらしい。

 勧められるまま、俺と如月も袋の中から一つ取り出した。

「飴?」

「うん。裏を見て」

「裏……あ」

 袋の中から取り出した、小包装された小さなそれは、どうやら飴らしい。

 裏を見るように言われ、裏返してみると、そこには何やら文字が書かれていた。

「恋を成功させる為には?」

 問いのような短い一文の下に三つの色があり、その色の横にもまた、短い一文が書かれていた。

 赤……今は動かず時を待つべし。

 黄……自分から行動を起こすべし。

 緑……今の恋は諦めるべし。

「この飴ね、最初は全部白色なんだけど、舐めると赤色か黄色か緑色に変わるんだ。変わった色に書かれていることが、占いの結果なんだよ。一年生のときに、よくみんなでやったんだ」

「なるほどな」

 先川から説明を受け、俺は袋を開け飴を口に入れた。

 女子は占い好きな奴が多い。信じる信じないは別としても、こういった類いの遊びが楽しいのだろう。

 先川の飴には“今のあなたに必要なものは”、佐田の飴には“将来の為にするべきことは”と書かれていた。

 恋を成功させる為には……。適当に取ったはずが、随分と俺に的確な問いが当たったものだ。

 これで緑に変わろうものなら、目も当てられない。

「そういえば、如月は何て書いてあったんだ?」

「ん」

 口に入れた飴を転がしながら、如月は飴の袋を俺に見せた。そこに書かれていたのは……。

 “近々手に入るもの”

 赤……親友。

 黄……恋人。

 緑……兄弟。

「…………」

 たかが飴の占い。信じるわけではない。ないのだが、非常に結果が気になる内容だった。

「私は黄色だから……自信、かぁ」

「えっと、緑ってことは……貯金を心掛けるべし、か。うう、耳が痛い」

 先川と佐田は、手鏡で飴の色を確認すると、存外、本人達に心当たりがある結果になったらしく、遠い目をして唸っていた。

「…………」

「…………」

 二人から手鏡を借り、飴の色を確認した俺と如月は、互いに目を合わせるが、互いに無言だった。

「いや言いなさいよ」

 この遊びが成立しないでしょうが。

 そう佐田から、ごもっともな指摘をされ、俺と如月は同時にこう言ったのだ。

「緑以外」と。

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