『コーンポタージュ★裏』
木枯らし吹き荒ぶこの季節、ほとんど冬と言っていい秋のこの寒さは身に堪える。
部活終わりの道具の手入れは後輩の仕事、この時ばかりというわけではないが気まぐれで運動部に入ったことを後悔する。
病的なまでに白かった肌も健康的に色づいてはきたものの、この寒さで白に戻りそうだ。
半年は頑張ってきたにも関わらず腕は頼りない、幼き頃のモヤシと呼ばれた記憶は忌々しい。
そうこう思っているうちに手先の感覚がなくなってきた。すっかりぬるくなってしまったカイロを握る。
全て終える頃にはすっかり陽は沈みきっていた。
同じ一年の同胞たちは薄情であり、当番であるものを助けるなんてことはしない。僕もしない。
せめて心くらいは温めてくれてもいいだろうに。
「おわっ!?」
急に熱いものが首に触れた。反射的に変な声をあげてしまう。
「先輩?」
「精がでるじゃないか後輩くん、お疲れ様」
振り返ればしてやったりとばかりにニンマリと笑っている女子生徒がいた。片手には黄色い缶が握られている。
「驚かせないでくださいよ、先輩。それとヤケドしそうなのでそういうことはやめてください」
今の僕はいわゆるジト目だろう。いくら先輩といえど断固抗議する。
「お前の体が冷え過ぎてるだけで缶自体はそんな熱くないよ。だからそんな警戒した猫みたいなのやめろ」
「フシャーッ」
「いいのかなぁーー? 先輩にそんな態度を取ってーー?」
────っ!? くっ……って、いつもアンタ何もやってなくても後輩イジリするじゃないか!?
「全く愛いやつめ。ほら、冷める前にとっとと飲んじゃいなさい」
そう言って渡されたのはコーンポタージュの缶だった。コーンポタージュに罪はない。よって開封、甘くてとろりとした温かい液体を口に流し込む。
そしてそんな僕を眺める先輩……────って先輩!? そんなに見られると飲みづらいんですが……、何がそんなに楽しいんだか。
「先輩帰らないんですか?」
「あら、こんな夜に女の子を一人で歩かせるの?」
「あー、送りますよ。駅までですけど」
「フー、やっさしーい」
先輩はこんな人なのでもう諦めた。
寒空の下、先輩と歩く夜道。星が綺麗だ、冬の大三角形はどれだろうか?
そんなことを考えていないと意識してしまう。
先輩でも一応女の子なわけで……
今僕は女の子と並んで二人きりで歩いている。
会話はさっきからずっとない。
どれくらい経ったか、先輩が白い息と一緒に溜め息を吐いた。
「全く気がきかないなぁーー。ほら、あっためてよ、私の手」
それ以降のことはあまり覚えていない。
ただ、────先輩の左手はコーンポタージュよりもずっと温かくて、僕は心まで温まった。
残すは対偶(比喩)のみだね☆