あと一瞬
光が地球から月まで進むのにかかる時間は1.26秒。
人間の反応速度は130ミリ秒。
商用交流50Hzの1周期が20ミリ秒。
そして、俺とやつの間は1ミリ秒。
あと一瞬だった。
ほんの少し、数センチもあるかどうかという差だっただろう。
同着と言っても過言ではないほどの時間差でしかない。
「今、写真判定を行っています……」
誰かの声が聞こえる。
100メートル走で、ライバルといえるやつがいる。
それは幸運と同時に不幸である。
相手がいることは、俺はそいつに打ち勝とうと思って頑張ることができる。
だが、そいつも俺を追い越そうと思って頑張っているはずだ。
こうやって、時折バトルとなってそれが現れる。
はぁはぁ、と息荒くなっていたのも、ゆっくりと落ち着いてきたころ、ようやく結果が出てきたようだ。
「君らは同着となった。千分の1秒まで一致したというのが、大会委員会の見解だ」
珍しい、というのがライバルの感想だった。
それは俺も同じことを思っていた。
「勝負は次だな」
「だな」
あいつは笑って俺と息を併せていた。
次こそは、俺が勝つ。
相手も、そんな目をして俺を見ていた。