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第2章 それぞれの事情 【1】

※分割作業(2016/03/15)後、最新話です。

 翌朝、教室――。


「ふぁ、ぁぁぁぁぁ……」


 正司は、おおきくアクビをしながら、バッグから教科書やノートを取り出して、机の引き出しに突っ込んでいく。


「どしたん? 寝不足か?」


 前の席の高木が振り返って、心配そうな表情でそう尋ねてくる。


「え? あ、ああ。ちょっとね」


 苦笑しながら、そう返した。

 すると高木は、眉間にシワを寄せる。


「えっと……」


 ――な、なんだ? 怒らせた?


 そう不安に思った瞬間、高木はクシャッと破顔した。


「お前もかよー。俺もだわー。夜中までオンラインゲームやっててよ。でさ、やめてHDMIからテレビにかえたらライブやっててさ。うっかり見ちまったよ」


 高木の言葉に、ほっと胸をなでおろしながら、正司は笑う。


「あはは。なるほど」

「お前はなにやってたの? ゲーム?」

「え? あ、いや……う、うん。そう。ゲーム」


 実際は調査なのだが、正司はごまかすべくうなずいた。


「そっか。俺バンドやってっけど、ゲーマーでもあんのよ。だから、ゲームやるやつがいんの、うれしくってさ」

「そうなんだ」

「おう。へへ、今度一緒にゲームやろうぜ」

「うん。いいよ」


 正司がうなずくと、高木はうれしそうに微笑んだ。


「あ、ついでに、楽器もやってみねえ? 部活やんねえっつってたし、特にやることねえなら、趣味でやってみんのも悪くねーぞ」


 白い歯を見せながら屈託のない笑顔で、高木はそう言う。


「楽器かー。俺あんまり音感ないしなぁ」


 音楽を聞きはするが、やるとなると興味のない正司は、やんわりと断る雰囲気をみせる。


「そっか。じゃあしゃーねーな」


 表情で「残念!」と語りながら、高木は肩をすくめてみせた。

 と、その瞬間だった。


「草薙くん、部活やらないの!?」


 突然、凛子が真横からそう言ってくる。


「えっ!? つ、月詠さん……?」


 目が、爛々としていた。


「どうして? なにか理由? 宗教上部活やっちゃダメとか?」

「い、いや、やりたいこともないし……」


 正司がそう答えると、高木が「あちゃー」と小さくつぶやいた。


 ――え、なにかマズかった?


「月詠って、愛好会の部長なんだよ。部員が欲しくてたまんねえの」

「な、なるほど」


 高木の言に合点がいく正司。


「愛好会って会長じゃないの?」


 凛子はキョトンとそう尋ねる。


「知らねえ。どうでもいいじゃねーか」


 高木は、答えながら困った顔をする。


「うん、どうでもいいね。そんなことよりも草薙くん、もし何もないなら、ぜひ人形研究会に来てみない!?」

「に、人形研究会……?」

「そう。人形研究会。人形って、不思議だと思わない? 人の心を癒やしてみたり、いろんな逸話があったり、時には呪われたものだったり。そんな人形の魅力や歴史なんかを研究するところなの」


 ふと、凛子のバッグにぶらさがっていた人形を思い出した。


 ――なるほど、あれはそういうことか。


「なかなか部員集まらないから、部にもならなくて、困ってたの」

「名前、貸そうか?」


 やや気圧されながら、正司はそう持ちかけてみる。

 だが――


「ううん。そういうことじゃないから。好きになってくれなかったら、それでいいの。ムリに入ってもらいたくはないし、名前を借りても仕方ないから」


 少し、さびしそうな笑顔。


「そう?」

「だって、愛好会だよ? 愛があって好きな人たちの会でしょ? 好きでもないのに入るのは違うと思うの。私が大好きでやってるから、特にね」


 真剣な眼差しだった。


「そっか。じゃあさ、とりあえず見学させてもらおうかな」

「本当? よかった。えっと、今日って大丈夫だったかな……」

「オッケーな時に言ってくれたら、行くよ。今日大丈夫だったら、後で言ってくれたらいいし」

「ありがとう。だったら、そうさせてもらおっかな」


 本当にうれしそうな笑顔を浮かべる凛子。


「じゃあ、いい時に連絡するね」


 そう言って、自分の席に歩いていった。


「……顔、赤いぜ」


 高木にそう言われ、正司は首を振る。


「元々だよ」

「だったら健康を疑うわ」


 肩をすくめて、高木は前に向き直った。

 それからしばらく、正司は熱くなった顔で、ぽやーっとしていた。




   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 昼休み――。


「さて、学食行ってくるか」


 そうつぶやいて立ち上がると、


「草薙、学食行くの?」


 高木に尋ねられた。


「うん。そっちは……弁当みたいだね」


 机の上に乗った弁当箱を見て、正司はそう言う。


「ああ。いつも作ってっから」

「……え? 自分で作ってるの?」

「おう」


 うなずきながらフタを開けると、中身はなかなか見栄えがいい。


「どうよ。美味そうだろ。冷凍食品を使わねえってのが、俺のモットーだからよ」

「えっ!? 全部手作り!?」

「おう。一人暮らしのたしなみだぜ」


 ――俺も一人暮らしだけど、こんなの作ったことない……。


「って、お前学食行くんだろ? はやく行かねえと、混むぞ」

「えっ? あ、そうだった。じゃあね」


 感心から我に返ると、正司は慌てて歩き出した。

 バンドマンに意外な特技があったことに驚きを隠せないまま、階段を降りる。

 勝手ではあるが、正司は彼らのようなタイプに、ジャンキーなものが好きなイメージを持っていた。


「まさかの料理上手……」


 苦笑しながら、1階に降り立ち、角を曲がる。

 その瞬間――


「っ!?」


 正司の目の前に、なぜか女子の後頭部が迫ってきた。

 ボブカットの、赤い髪の毛だ。

 自分は前に進んでいるし、その女子の後頭部はなぜか後退していたし、避ける時間はなかった。



 ドンッ!!



「ふぎゃっ!?」

「ぐぁ!?」


 勢いよく、正司のアゴと少女の後頭部の交通事故が起きた。

 赤髪の少女は、後ろ向きのまま尻もちをつく。

 そのまま頭を抱えて、前向きにうずくまった。

 対して正司は、壁に手をついて、転倒を防いでいる。

 アゴに強い衝撃が入って、どうやら足にきているようだ。

 壁についた手と逆の手で、頭を抑えていた。


「痛ぁぁぁ~~~っ……」


 少女はうずくまって、しばらくうなっている。

 正司は、くらっとしていた頭を振って、視点を定めた。


「っ!?」


 定まった視線の先には、少女のおしりがある。

 ペタンと座り込んだ格好のまま前のめりになっているせいで、白と薄いパステルピンクのしましまパンツが見えていた。

 正司は息をのんで、じっと見つめる。


「これは……」


 ちいさくつぶやく正司。

 ……が。

 正司の視線は、パンツとは少しズレたところにあった。

 スカートのポケットから転がり落ちたんだろう、彼女のすぐ脇、廊下の上に、見覚えのある小さな六角形の“なにか”が落ちていた。


――えぇーーーっ!? ギア落としてるーーー!!


 それはそう、見覚えがあって当然だった。

 ヒーローの心臓。悪党の心臓。

 彼らの力の源だ。


――あと……パンツ……。


 と、少しして、少女が立ち上がりながら振り返った。


「ご、ごめん。だいじょぶ……?」


 まだ痛そうな表情のまま、そう言う。


「う、うん。大丈夫」


 やたら大きな胸元には、学年を表すバッジがついており、正司のひとつ下、1年生であることがわかった。

 赤いボブカットの髪の毛の下は、年齢より少し幼さを残した顔つき。

 その大きめの目には、少し涙がたまっている。

 身長は、凛子より少し高いくらいだった。


「キミ、1年生だよね?」

「ほえ? そうだけど……あ、2年生の先輩だ」


 少女は、正司の2年生バッジを指差す。


「名前は?」

「名前? カグヤだよ」

「かぐや? 苗字?」

「違うよ。火紅弥かぐやは下の名前。上は九尾つづらお


 ――ツヅラオ カグヤ、ね。


「そっか。俺は2年の草薙 正司。大丈夫だった?」

「うん、へーき」


 にっこり笑う火紅弥。


「なら良かった」


 正司も、笑顔を返す。


「ところで、なにか落ちたよ」


 そう言って、下を指差した。

 火紅弥は足元に落ちているギアに気付いたらしく、拾い上げた。


「おぉ。あぶないあぶない。なくしたら怒られるやつー」


 そう言って、頭をかきながら苦笑いして、ポケットにしまいこんだ。


「火紅弥、あなたまた……!」


 と、今度は火紅弥の向こう側から、別の女子が駆け寄ってきた。

 身長は火紅弥よりかなり高く、下手をすると正司に近いくらいか。

 動きにあわせて、美しいさらさらストレートロングの銀髪が揺れていた。

 火紅弥に比べるとすごくおとなしめな胸は、あいにく揺れていないが。


「ごめんなさいね。大丈夫だったかしら?」


 その女子は、正司に声をかけてくる。


「え、あ、はい。大丈夫です」


 正司は、すぐに彼女のバッジに3年と書かれていることに気付いた。


「この子、いつもこうなの。気をつけなさいって言ってるんだけど」

「えへへ」


 にへらっと笑いながら、頭をかく火紅弥。


「そうなんですね」


 やや苦笑しながら、正司は返した。

 色白で、整った顔をしている。

 年齢的には“可愛い”という頃合いだろうが、彼女は“美人”といった雰囲気だ。


「あ、ねえ、氷鏡子ひみこ姉。はやく行かないとだよ」


 と、火紅弥がその女子に向けてそう言った。


「あら、そうだったわね。それじゃあ、失礼するわね」

「あ、はい。失礼します」


 お姉さまといった立ち居振る舞いで、氷鏡子は悠然と歩き出す。


「じゃーね」


 その後ろを、火紅弥がちょこちょことついて歩いて行った。

 正司は、そんな二人をしばらく見送る。

 そして、背中が見えなくなったところで、歩き出した。


 ――1年の、ツヅラオ カグヤか。マークしておこう。


 この(・・)学校内でギアを持っているという意味。

 それは、潜入しているというヒーローか、そうでなければ――


「アトモスフィアの構成員……」


 誰にも聞こえないくらい小さな声で、正司はつぶやいた。

 ヒーローならヒーローで、別に構わない。

 意外な形で好転したのかもしれない。

 そんな風に思いながら、正司は歩く。

 少し歩いて、早足になり、すぐに走り出した。


「めっちゃ混んでんじゃん!!」


 なぜかって、視界にうつった食堂がすさまじく混雑してた上に、後から後から生徒が並んでいっていたからだ。


「これメシ食えるのかな!?」


 ダッシュしながら、正司は不安に思い始めていた。


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