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2014年/短編まとめ

久し振り、と回り出す

作者: 文崎 美生

駄目だとペンを投げた。


カツン、と机に弾かれて転がるペンを睨みつける。


別にペンが悪いんじゃない。


悪いのは自分だ。


回転椅子の背もたれにぐったりと凭れかかって天井を眺める。


白い天井を眺めていたって何の解決にもならない。


そんなこと知ってるんだ。


机の上には大量の紙と画材の数々。


でもその紙は全部途中で投げ出された下書きだ。


ゴッ、と鈍い音を立てて机に額を打ち付けた。


勢い良く行ったから椅子から落ちかけた上に額がヒリヒリする。


完全なるスランプだ。


「あぁ、コンクール間に合わない…」


次の美術部で出すコンクールの締切が後一週間なのだ。


だと言うのに全く描けない。


「お姉ちゃん、お友達だよー」


ノックもなしに開けられた部屋の扉。


机から顔を起こして椅子を半回させて扉の方を向いた。


妹が玄関に、と言ったので仕方なくノロノロと椅子から降り立つ。


ポシェットを下げた妹は家を出るところだったんだろう、私よりも早く階段を下りて玄関へと走って行く。


若いっていいねぇ、なんて年寄り臭いことを呟きながら階段を下りると「あっ」なんて素っ頓狂な声。


「あー…っと、久し振り?」


小首を傾げながら言えば、相手が笑った。


最後に会った時よりも髪が短くなっていたので少し眺めると、彼女は自分の髪を撫でながら「短くなったでしょ」なんて笑う。


ショートからベリーショートになってる。


ぽむぽむ、と彼女の髪を触れて私も笑う。


取り敢えずは玄関なので部屋に上がるように促した。


作業中だった部屋は中々に汚いが彼女はあまり気にしていなかった。


まぁ、こういった場面はよく見られていたので慣れたのだろう。


麦茶を出しながら今日はいきなりどうしたのか問いかけると、彼女は少し照れたように笑いながら紙袋から何かを取り出した。


「クッキー持って来た」


その言葉に私の体は僅かに揺れた。


何を隠そう私は彼女の作るお菓子が大好きなのだ。


有り難く受け取りテーブルの横に置いて、用件はクッキーだったのか聞けば彼女は一つ頷いた。


相変わらず思い立ったが吉日のようだ。


それが彼女らしいとも言えるが。


中学校まで何かと一緒に行動した私達だが、高校は別で会うことが減った。


だからこうして会うのも数カ月振りだ。


ついでに人間性としても別なのだが…。


相手はスポーツ女子で私は芸術系女子だし、明るいのと暗いのと極端に言えばそう言う事だ。


話を聞くに向こうは向こうで大変そうだが充実しているらしい。


久々に見る彼女の笑顔にスランプへの苛立ちが緩和されつつある。


しばらくお互いの現状報告をして、私は思い立ったように立ち上がりスケッチブックと画材を鞄に詰め込んだ。


彼女は中学時代に女子バスケ部で主将をしていて、今でもバスケを続けている。


骨折とかもしていて中学の時よりも大変そうだが、イキイキしていて私は描きたいという衝動に駆られていたのだ。


部屋の隅に置いてあったバスケットボールは誕生日に彼女から貰った物。


「さぁ、行くぞ」


ニッ、と不敵に笑ってバスケットボールを彼女に投げ渡せば彼女も笑った。


近くの公園で彼女はボールを弄る。


指先に感覚を染み込ませるようなその姿は、やはり彼女がバスケを一番に置いているんだと伝えている様だった。


行くぞ、とは言ったが私はフェンスに背中を預けてスケッチブックを開いている。


真っ白なそれに鉛筆を走らせる。


彼女がコート内を走りボールを操る姿をひたすら描く。


イキイキとしたその姿をこの絵の世界にとどめようとする。


「ねぇー!楽しいー?!」


体を動かしているからか、彼女は馬鹿みたいに大きな声で私に問いかけた。


満面の笑みを浮かべる彼女に私も最高の笑顔を返す。


一週間後のコンクール、何とかなるかな。


「次のコンクール、楽しみにしとけ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い友情ですね。 彼女も友人のおかげでスランプを抜け出せたようで安心しました。
2014/10/15 09:57 退会済み
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