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未来の考古学  作者: 鷲塚
9/10

ロクスケ・ターミネーション!(3)

3.初顔会わせ?

初顔会わせ?


 あゆむは、原付のスタンドを立てて固定し、ヘルメットを脱いでハンドルに引っかけた。月面ウサギもベンチから立ち上がる。

「初めまして、って言うのも可笑しいかな”明かなる”マキナこと剣あゆむです」

「初めまして、月面ウサギこと・・・・・・」

 少し言葉に詰まった、さっき決めていた事なのに、余りに久しぶりにその名を言うのをためらってしまうのだ。そして口の中の生唾を飲み込んでから、

「笹間ミコトです」

 ミコトは、ペコリと頭を下げて、やっとの事で言い切った。その答えを聞いて、ロクスケの耳がピクリと動く。

「かっ、かっ、かわ、かわいいなあ。おいいい」

 あゆむは、ミコトにすり寄るとガバッと抱きしめ、ほおずりしてくる。面食らったミコトはされるがままだ。

「いや~、あの月面ウサギの中の人がこんなに若くて可愛い子だったなんて、おねーさんはもう」

「あ、いや。ちょっと違うんだけどな」

「ん?」

「ここで話すのもなんだから」

「ほいほい、了解!じゃあ、メットとジャージ」

「ありがとう」

「じゃ、後ろに乗って。腰に手を回してしっかり捕まっててよ」

 ミコトは、バイクにまたがる前に一度ベンチを振り返りった。ロクスケは、ベンチに座ったままじっとミコトを見ている。

「またね」

 ロクスケに軽く手を振って、ミコトはバイクにまたがった。そのまま、あゆむの背中に寄り添って腰に腕を回しす。少し柔らかな背中だった。もう感じることが出来ないと思っていた人のぬくもりを直に感じることが出来たという、えもいわれぬ感情がこみ上げてきて泣きそうになるのをグッとこらえた。

「そいじゃあ行くよん」

「大丈夫」

 あゆむがアクセルを開けるとモーターが唸りを上げ走り出した。走っている間、あゆむはミコトに何も聞かなかったし、ミコトも何も喋らなかった。

 二人は何事もなくバイクで東山通りを下がり、石段下まで向かう。

「家ってネオ・ギオンにあるの?」

「そうだよー。もうすぐ着くから」

 四条通から花見小路りを下がり、復元された祇園の街をすり抜けるように進む。観光地で夜の花街なだけあって人通りが絶えることがない。まだまだ宵の口といった雰囲気だった。

 あゆむが運転するバイクは、祇園の中心部から少し離れたワンルームマンションの前で止まった。相当高額な家賃を請求されるであろう立地だが、あゆむの副業のことを考えれば支払いなんて楽勝だろう。それだけの稼ぎをあの秘密クラブでたたき出しているのだ。

「ほい、到着」

 ミコトはバイクから降りてヘルメットを外し、乱れた髪を手串でなでつけた。

「あたしはバイクを車庫に入れてくるから、ちょっと此処で待っといて」

 そのまま、あゆむはバイクを押して駐車場へ入っていく。マンションの玄関前で、ミコトは、ヘルメットを両手で抱え、ぽつんと立っていた。少し遠くの御茶屋さんから優雅な三味線の音が聞こえてくる。

 その音に紛れ、角の向こう側でグシャリと破砕音が小さく聞こえた。次いで、鋭く空を切る音と重い何かが地面に落ちる音。いくら歓楽街の外れとはいえ、明らかに異常だ。ミコトは、身を竦め、視線を交差点の角に向ける。

「おっと、お待たせい」

 不意に背中からあゆむの声がした。

「小さな肩縮こまらせてなにやってんの。いつも自信満々の月面ウサギさんはどこへ行ったのやらですよ」

 そう言って、あゆむはミコトの肩に手を回す。

「い、いや。あの角で何かあったみたいでね。こう、機械の破砕音が聞こえたもので」

 ミコトは、そっと奥の曲がり角を指さした。あゆむは耳を澄ましてみるが、乱闘しているような音は聞こえてこない。

「酔っぱらったサイボーグがケンカでもしたのかな。それよりも、早く家まで行こうじゃないの」

 あゆむはミコトを回れ右させる。自動ドアのロックを外すため、ちらりと集合鍵に設置してあるセンサーで光彩を読み取らせる。すぐに認証が完了し、ラス戸が音もなく開いた。

 あゆむは、ポンとミコトの背中を押した。

「ささ、どーぞ」

 促されるようにして、ミコトはマンションのロビーへ足を踏み入れた。竹と和紙と石を装飾に使ったロビーは、どこか日本庭園思わせ、復元されたNEOKIYOTOによくなじんでいる。

「エレベーターで五回まで直行ね」

 あゆむが呼び出しのボタンを押すと、待機していたエレベーターのドアが滑らかに開いた。

 二人は五階でエレベーターを降り、五〇三号室の前で止まる。表札には剣あゆむ、とある。

「よーこそ、我が家へ」

 あゆむは呼び鈴の下に据え付けたケースを開けると生体認証用のソケットに人差し指を突っ込んだ。

 数秒後、電子音と共に鍵が開いた。さらに、あゆむは、ズボンのポケットからキーホルダーを取り出した。ずらりと並んだ鍵から精緻な鍵を取り出して鍵穴に突っ込む。

「バイオメトリクスだけでなくて、物理鍵も使ってるのか。用心深いな」

「もちのロン!やってること考えたらこれぐらいしたくなるっての」

「うん、それもそうだ」

 あゆむがノブを回してドアを開くと、暗い廊下からひんやりとした空気が奥から漂ってくる。気温が調整されている月面都市では、集合施設などで空調を使うことが多いが、個人でここまでエアコンを炊いている家も珍しい。 

「エアコン効き過ぎじゃない」

 ミコトは、少し呆れて言った。

「それは言わないお約束よ、おとっつぁん」

 何が言わないお約束なのか意味不明だが、サーバーの管理に冷却が必要なので部屋の冷却が必要なのだということが判らなくもない。それでも寒すぎだろうと、ミコトは思うのだった。「おじゃましまーす」

「どうぞー」

 剣あゆむ邸のリビングにミコトは通された。

「お帰りなさいませ、あゆむ様」

 ミコトがリビングに足を踏み入れた瞬間に男の声で出迎えられた。

「ラファエル、ただいまぁ」

「なに、家事手伝いにご禁制のAIでも組んだの?」

「いや~、AIは昔の反乱戦争以降開発禁止じゃない。ロボットだよ、ロボット」

「だよねえ、またAI殲滅のために働かなきゃいけなくなるかと思ったよ」

 そう言ってあゆむを見上げるミコトをあゆむは訝しげに見つめる。

「いや、実年齢何歳だよ・・・・・・。AIの反乱戦争ってもう8000年ぐらい前なんだけど」

「そこはね、気にしたら負けだよ」

「負けなのか!」

 今の時代、身体改造やクローン、老化抑制技術などを駆使して通常より遙かに長い寿命を得る人間も存在している。しかし、千年単位のものとなるとあゆむは聞き覚えがなかった。ましてや、目の前の少女はどう見ても生の人間で身体改造すらしていないのだ。ネットワーク上の老練な手際を見ていると、何となく納得できるのだが、本人を目の前にするとどうも納得が出来ないというのがあゆむの正直な気持ちだった。

「あ、そこに座って」

 あゆむは、とりあえず話を聞かないことには何も判らないからと、ミコトをソファに座らせる。

「では、お言葉に甘えて」

 ミコトは、ふかふかのソファにチョンと腰を下ろした。それを見てからあゆむも隣に座る。

「ラファエル、今から許可するまで全ての回線を切断。オフラインにして。部屋の回りを電磁、音波防御。盗聴に注意して」

「了解です。3分で完了します」

「おーけい、頼むわよ」

 窓のシャッターブラインドが降り、ネットに接続されている全ての機器がオフラインになる。さらにベランダには網目状の電磁柵という念の入り様だった。

「じゃ、かの月面ウサギの中の人が着の身着のままで助けを求めてきた理由でも聞きましょうかね」

「何から話せばよいのやら」

 ミコトは、腕組みをして唸った。そして、自分は8000年近く存在している知性体であること。本当の身体は別にあること。謎の攻撃性プログラムに襲われ、気がついたときにはこの身体の中に居たということを語った。

「で、この身体は完全生身でネットにもアクセスできないというわけね」

 月面ウサギは、コクリと頷いた。

「それで私に助けを求めてきたと?」

「そういうこと」

「できればこの身体を本来の持ち主に返したい所なんだ」

「そうなると、ミコトが肉体と分離すると言うことだな」

「残念だけど、そういう事になるね」

「残念って、他人の体を使ってるのに恐ろしい物言いだな」

「8000年近く意識を保ったまま生きてるのは結構しんどいし。親族から友人に到るまで自分を知っている人間は誰も居ないというのは寂しいことこの上ないよ」

 酷く寂しげな表情だった。

「今の時代には、こうして知り合えた私が居るじゃあないか」

「時代時代で友人を作ってはいたんだよ。その分別れも多かった」

「そうかそうか、終わらない人生ってのも考え用だけど、今、この時代のこの時間からおねーさんが君の友人になってあげよう!」

「お、オネーさんって」

「ん、なんかまずかった?」

「いや、問題ないですけど・・・・・・」


現代でもネットゲームなので知り合った友人達とオフ会をしたときには、初めて会ったのに初めてという気がしないという経験をしたものです。次回は、剣あゆむ邸でのお話になります。それでは、また!

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