ロクスケ・ターミネーション!(1)
1.それは過ぎ去りし記憶
それは過ぎ去りし記憶
「ここが2000年以上前の遺跡なんですか?」
低いモーター音が響くエレベーターの中を未来彦は見回した。地上は、かなり荒れていて判然としない場所だったのに、一歩遺構に足を踏み入れると、まるで新築の地下街の様に思えてくる。そんな通路を通って、地下に潜るエレベーターに乗ったのだ。
「発見されたのが600年ほど前で、この遺構の年代は2080年ぐらい前の遺構になるわね」
「綺麗に残っているもんですね」
「データハザード以降に調査された遺跡だから報告書も出てるしね。ほら、これ」
そう言って香津美がトートバッグから取り出したのは、プリントされた報告書だった。
「とりあえず、概要の所だけ抜き刷りしておいたよ。未来彦君にあげるね」
「ありがとうございます」
抜き刷りを受け取った未来彦は、文章に目を通す。
「文化技術復興目的に於ける司馬研究所跡遺跡発掘調査報告書」
抜き刷りには、当時研究されていた特殊なコールドスリープに関する技術の情報収集を目的に行われた発掘調査という事が書かれていた。
「この施設、まだ生きてたんだな・・・・・・」
未来彦の傍らに浮かんでいる小さな人影がボソリと呟いた。
「なんだ、月面ウサギ。この遺跡の事知ってたのか。見学に来ること知ってたんだから、教えてくれても良かったじゃないか」
未来彦は、少し皮肉めいた口調で口を尖らせる。
「私にも語りたくない思い出ってものがあるんだよ、未来彦」
バニーガールの格好をした月面ウサギは、小さな手をけだるく振った。
「ほらほら、二人とも、到着したよ」
僅かな慣性重力を感じて直ぐにポーンと到着のアラームが鳴る。片開きのドアが開くと、眼前はエレベーターホールになっており、奥に続く通路が見えていた。
「自動販売機とか置いてあるんですね」
「当時のものを再現して置いてあるみたいね」
香津美がエレベーターホールに備え付けてあるキャプションを指さす。
「知らない銘柄の飲み物が多いな」
「そりゃ2000年ほど前のだしねえ」
「あ、でも苺ミルクはあるんですね」
未来彦が指さす先で、苺ミルクのパックが陳列されていた。
「これ見たら祥子ちゃん喜ぶでしょうね」
「これぞ、苺ミルクが伝統食品である証!とか言いそうね」
香津美が祥子の声真似までするものだから、未来彦はおかしくなって笑ってしまった。それにつられて香津美も笑ってしまう。しかし、その横で月面ウサギは表情に影を落としていた。一人通路の奥を寂しげに見つめる。
「また、ここに来ることになるとは思わなかったな・・・・・・」
ぼそりと月面ウサギは呟いた。
「なんか言ったか、月面ウサギ」
「いいや、何でも無い。それよりも、折角遺跡に来たのに雑談ばかりしてちゃ駄目なんじゃあないのか、未来彦」
「おおっと、そうだったな。先輩、行きましょう」
「はいはい。写真を撮りながら進むからね」
取り出したカメラを手に、香津美は順路に足を進める。未来彦もその後ろに続く。
月面ウサギは思い出していた。遙か昔に出会った一匹の猫のことを。主人思いの勇ましいその姿を思い出していたのだ。
過去に月面ウサギが体験した話です。少し長いですが、おつきあい頂ければ幸いです。