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sweet,heavenorhell  作者: 桐生
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第二章

昼夜問わずにひんやりとあたりを包む冷気。

いつしか、ソレに不快を思うモノは居なくなった。

そんな中、一人の男がフラフラさまよう。

彼が見つけたのは、古びた空き家だった。

男は小さく微笑んで、今にも崩れそうな階段を、一歩、一歩と上がり始めた。

そして、扉を開き、満足げに笑いそのまま倒れ込んだ。


そんな彼は、まだこれから先、人との関わりを持とうとは思いもしていなかった…


「第二章・序章―だいにしょう・じょしょう―」



暗闇は近づき、一人の子供は孤独に怯える。

路地裏に小さく聞こえる賑やかな街の音も、いつしか沈黙を漂わせていた。


「第二章―だいにしょう―」


シェムが仕事と言い残し出ていき、もう三時間がたとうとしていた。

さほど長い時間でもないが、キャサリンとコランダー、この姉弟は段々と不安と孤独を覚え始めた。

―コツ、コツ、コツ…

不意に響きわたる、階段を上がる足音。

シェムのモノと違い、落ち着いたきれいな足音。

二人は、閉まりの悪い扉をジッと見つめ、上がり来る人物を待つ。

―…ギィィィィ…

扉は静かに開き始めた。

「よぉ…明日の仕事なんだが…ん?」

部屋に入り、この店の店主であるシェムがいないことに気づき言いかけた言葉をとめる。

その人物は、普通に好青年と言ったところだが、髪型と至る所についたアクセサリー類が不良を思わせる。

キャサリンとコランダーは不思議そうにその青年を見つめる。

「お、餓鬼共じゃねぇか。無事に着けたみたいだなぁ!」

その男は二人に気づき、ニンマリと笑いそう聞いた。

「あなたは…確か、此処を教えてくれた人?」

キャサリンが戸惑いながら訪ねると、男はニンマリ顔をよりいっそう深くした。

「俺の名前は、セイン。この店の常連ってところだ。」

その男―セインは姉弟二人にかまわず、軽く自己紹介をして、カウンター席に腰掛けた。

「シェムは留守か?」

たばこを取り出しながら、セインは訪ねる。

「えと、仕事らしいわ。」

そうキャサリンが答えるとセインはまた、ニンマリとわらった。

―カチャ、カチャ、カチャ…

不意に聞こえた何かの音。

―ガチャンッ…

小さいながらに派手な音を立てて。カウンターにお盆が乗せられた。

お盆の上には、ティーカップ、一升瓶、ほうれん草のお浸しが入った小鉢が乗っていた。

それを見てセインはたばこを消し、ため息をついた。

「何で酒飲むのにティーカップなんだよ…しかも、お浸し昨日もだったろ。」

文句を言いつつ、お浸しを摘むセイン。

「…シェムがいないからおつまみは作れない。…私はティーカップしか触らない…」

答えたのはめがねをかけた女性。

だが、その女性はうっすらと透けていて、彼女の後ろにある棚が見えていた。

そう、いわゆる幽霊と言うもので…

「ねぇ、一つ聞きたいのだけど…さっきのといい、その人といいなんなの?」

怪訝そうな顔でキャサリンが訪ねた。

「みたまんま幽霊とかの類じゃないか?別に接客できるなら問題ないだろ、客少ないし…」

セインが極普通に答える。

確かに、見たときは驚くし言動はほとんど皆無に近いものの、接客はきっちりしている。

もっとも、客など姉弟とセインだけなのだが…

「ここってそういうのいっぱいあるのか?」

今まで、おとなしくしていたコランダーが目をキラキラ輝かして訪ねた。

「そういうのって…幽霊、妖怪、悪魔の類でオカルトっつーもんか?」

律議にもティーカップで酒を飲み、ニヤリと笑って質問の意味を詳しく聞くセイン。

コランダーは何回もうなずいた。

「そうだなぁ…もしそうだとしても、俺はこの店の店主じゃなし興味もない。」

そう答え、ティーカップじゃ味気ないと瓶をもち、そのままのみ始める。

会話が途絶えた後、再び階段を上がる音が鳴り響いた。

―ゴツ、ゴツ、ゴツ…

聞こえてきたのは数時間前に聞いたときと変わらないこの店の店主の足音。

姉弟達はその足音に大してなのかは分からないが安心感に襲われた。

―ギィィィィ…

不気味な音を立てながら、ドアが開く。

「おぉ、セイン。いらっしゃい。留守にしていて悪かったな。」

「いや?気にしてない。明日のことで少し話があってな…寝るなよ?」

眠たそうな顔をして、店の中に入ってきたシェムにセインは釘を差して話し始めた。

しかし、あまり乗り気ではないシェムは顔をしかめてカウンターの中に入っていった。

「疲れてんなら、仕事断っとくか?」

ニンマリとした人なつっこい笑顔でセインはシェムに告げる。

「別に雑誌の取材なんだろ?ひとりでくるらしいから、大丈夫だろう…」

ため息をついて答えるシェム。

以外とあっさり受けたのでセインは不思議に思いながらも笑ったままだった。

「それにしても、えぇと、キャサリンにコランダー。飯食ったのか?」

ソファーでおとなしくしている姉弟をみて、シェムは問いかけた。

別段、お腹が空いてるわけでもなかったが、いわれて空腹なのを意識させられた。

「セインも食ってくか?今日はおごってやるよ。」

「そりゃ助かる!今月は不景気でね、財布が寂しいんだ。」

それを聞いてシェムは笑いながら奥の部屋まで歩いていく。

「なぁなぁ、リクエストぉ〜…」

セインはルンルン気分でシェムの後に続きあれが食べたいこれが食べたいとリクエストをする。

姉弟二人は戸惑いながらもセインに続いて奥の部屋に入っていった。

そしていつのまにか、甘いあの臭いは消えていたことに、キャサリンは気がついた。

「甘い匂いがしなくなってる…」

「あれは魔除けでな。初めて入って来る奴らしか気づかないんだよ。」

呟いたキャサリンの言葉を聞いて、シェムはフライパンを手に答えた。

「でも、悪魔入ってきたら意味無いじゃん!」

コランダーがそういうと、セインが詳しくことを話し出す。

「あの甘ったるいのには悪魔諸々が嫌いな匂いが混ぜられてるんだよ。中に入っちまえば関係ないんだが、入る前に消滅しちまう奴が大概だ。寧ろ、シェムの魔力と同等若しくはそれ以上の奴しか入れないな…」

その説明に、悪魔類を信じないキャサリンは危ない人を見るような目でセインとシェムをみた。

一方、オカルト好きなコランダーは興味津々。

「興味持つのはいいが、すべてコイツの妄想。客が来るのが嫌なんだよ。ところで結局何食いたいんだ?」

あれこれとリクエストをしては特に何を食いたいとは言わないセインにあきれた顔をしながら訪ねる。

「んじゃ、カルボナー…」

「お客が嫌ならお店なんて開かなければいいのに。」

セインの声を遮り、キャサリンはシェムに言った。

それに、不機嫌そうにそっぽを向くセイン。

「カルボナーラな。お嬢ちゃん、俺は別に客が嫌いなんじゃない。その客の持っている《ユメ》が嫌いなんだ。」

不機嫌なセインをあきれながら、疲れたように答えるシェム。

キャサリンは意味が分からないという顔をしながら話しても無駄と判断した。

それから、シェムは料理に集中し、コランダーはセインに懐いていた。

キャサリンは再び雑誌を読み始めた。



真っ暗な路地裏には冷たい空気が流れ、あたりに闇の存在を主張し始めた頃。

とある古びた階段を上がった空き家からはいつしか光があふれ出す。

その光が暗闇を照らすことを途絶えさせることはなかった。





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