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~5話~俺に安心できる宿をくれ

俺回です。

 その宿屋のロビーは眩しいほどにシャンデリアが光り輝いていて、今にも一大パーティーが開かれるのかと思うほどの宴会パーティー場であった。宿屋って言うよりはホテルだろ。


「ここのロビーは早めに通り抜けた方がいいよ。ギャングのたまり場だから」

「何で警察は取り締まらないんだ?」

「殺されるからに決まってんじゃん」

「警察が自分の命を惜しむのかよ」


 受付で鍵を受け取る。


「……これは数字か?」

「えっと、三二一八号室だね。三十二階の十八番目の部屋」

「スケールが……」

「宿屋の中の宿屋だといえるね。危険だけど」


 いっそのこと危ない組織とかに売り払っちゃえよ。きっとその方が儲かるから。

 ……はあ、何でこんな所に来たんだろ。あ、依頼のためか。


 横にエレベータが見えたが、俺の前を歩いているクロンはそれをスルーして階段の方へ向かって行った。


「あれ、エレベータは使わないのか?」

「変なヤツと乗り合わせたら死ぬよ? それでもいいなら空だけ乗ってもいいけど」


 なるほどそういうことか。


「依頼はなるべく早めに済ませてね。この宿屋、その見た目どおりに金かかるから」

「やっぱり? で、どのくらい?」

「一人一泊金貨十枚」

「それなりの金は払わなければならないってことか」

「泊まるのは十枚だけど、きっと宿を出る頃には何にもないよ。こそ泥なんてまだ良い方なんだからね」

「部屋に鍵かけても?」

「扉が壊されるから」


 随分と豪快な泥棒だな。


「だから扉の近くにつっ立ってると爆死するよ」

「爆破かい!」

「鍛え上げられた頑丈な鋼を使ってるからね」

「それを壊されんのか。うわー、職人さんかわいそう」


 三十二階には程遠い。次の階に行くまでの階段が腐るほど長く、一階から二階まで登っただけでもうへとへとだ。ちなみに今は十階ね。


「あのさぁ、ここにもギルドあんの?」

「あるよ。ここのギルドがこの前言った土木工事だらけのところ」

「ああ、そういえばそうだ」

「最近丁度大雨の時期で、川に行くと流されてオダブツな期間だよ」

「……何でこんな依頼引き受けちゃったんだろ」


 異世界行って早速死亡かい。それは悲しい。


「死ぬのは嫌なの?」

「そりゃ嫌だろ! せっかく異世界に呼び出されたんだから、このディファレントワールドライフをエンジョイしたいぜ!」

「まあそうだよね」


 フォーリーンワーズをトーキングにミックスしてスピークするのがこちらでも通じるとは思っていなかった。でも多用するとうざがられそうだから今回でやめとこ。


 俺たちが三十二階に着いた頃には俺の顔は全面真っ赤になっていて、目の焦点が合っていなかった……らしい。これは後でクロンに聞いたこと。階段を上りきった後に倒れてしまったらしい。そこをクロンによって部屋の中に運び出された。そういうわけだ。異世界恐るべし。


「空は相当お疲れのようだけど、肝心の依頼の方は……」

「多分無理」

「サボらずに今日行ってね☆」

「おいちょっと待てぇぃ! 俺の話を聞け! てか殺す気か!」

「ほら元気じゃん」

「元気じゃない!」

「いやいやどっからどう見ても」


 もう少しで死ぬところだったんだからな!


「ほらほら行くよ」

「ちょっ、引き摺るなよ!」


 マジで殺す気か!

 クロンは俺をエレベータの所まで引き摺っていき、下りのボタンを押して中に入っていった。


「危険なんじゃなかったのかよ!」

「大丈夫だよ。魔法の杖もあるし」

「大丈夫なら最初からエレベータで行けよ!」


 そうすれば俺がこういう風に引き摺られることもなかっただろうに!

 幸い、途中で誰かが乗り込んでくることもなく、無事に一階まで辿り着けた。俺も少しは元気を取り戻してきた。


「空、死なないでね」

「……なんとか頑張るよ」

「依頼をクリアするまでね」

「俺って使い捨て!?」


 一気に地獄の底へ叩き落されたような気分。最低だなコイツ。


 俺達は宿ホテルを出て、大通りを歩き始めた。車道には見たことのない乗り物が走っている。しかもすごく速い。


「公共の乗り物とかないのか?」

「あるにはあるけど、危険すぎて乗る気にはなれないよ」

「マジか。運転手の人大変だな」

「大丈夫。無人運転だから」

「そんなに危険なのかよ!」

「うん。運が悪いと乗った瞬間に全所持金をむしりとられるよ」

「ああ、それは危険だ。歩いていこう!」


 我慢しよう。何がなんでも金だけは守らねば。

 それはいいんだが、ここからだいたい何分くらいかかるんだ? 気になった俺はクロンに訊いてみた。


「だいたい十分で川が見えてくるから、あと二十五分くらいかな」

「ホントかよ」

「多分」

「自信なさげだなぁオイ!」


 本当はもっとかかるんじゃ……。安全な道ならいいけど。


 だんだんと交通量が少なくなってきた。川の周辺は人が近付かないのかな?


「もうすぐでフルーグ橋につくよ。フルーグ橋っていうのは翼の橋っていう意味なんだけど、何でそういう名前にしたのかは誰も知らないんだ」

「空に昇って行くのか?」

「ううん、毎年川に流されていく。お金が飛ぶんじゃないかな」

「ああなるほど」


 橋が人の手によって壊されることはないのかな。ありそうだけど。


「ほら、あれだよ」

「あれか。意外とでかい」

「小さいと簡単に流されちゃうからね」

「あれでも流されるんだろ?」

「まあそうだけど」


 町が洪水になったりしないのかな。なるだろ、絶対。


 横幅が広い橋だが、人通りは全く無い。車も通っていない。ここからは無人の領域なのか。……最初の依頼にこれを選んだのが間違いだったな。詳細をよく確認してから受けるんだった。今更後悔しても仕方ないが。


「この橋を渡りきったら危険生物の楽園だから気をつけて」

「『気をつけて』だけかい! 具体的な対処法は!?」

「えーっとねー、見つかったらそいつの視界から外れるまで走る」

「要するに逃げるんだろ!?」


 橋を越えると、朽ちて倒れている木が何本も見えた。川の氾濫の影響か?

 雨も降ってきた。嫌な予感がする……。


「……危険な香りがするんだけど、てか危険だよな、あんな町の近くに降る雨なんて」

「たまに強酸の雨が降り注ぐらしいよ」


 てことはこの倒れてる木は酸性雨の影響ということか。まずいな。俺の頭が電球と化す前に依頼を成功させねば。待っているほうがいいと思うが、猛獣か何かが現れたら結局雨に濡れるはめになる。俺たちはまだ葉の残っている、生きている木の陰を歩く。雨水が滴り落ちてくるが、直接かぶるよりはマシだ。気分的にも。


 しばらく流れに沿って歩いていくと、先の景色が見えなくなる地点に来た。植物もほとんど生えていない。この真下が落下地点か。流れている水が重力に従って落ちていくさまが見えた。下が見えないほど高い。


「……ここまで来れたのはいいんだけどさ、目的の物は?」


 ここには薬草どころか、木も生えていない。目の前には断崖絶壁。そこに生えているかを知るのが嫌で、真下をよく覗き込むことはしなかった。

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