~3話~お前はアホなのか頭いいのかはっきりしろ!
遅くなりましたが俺回です。
ひとつ、訊きたいことがある。
「なあクロン、依頼所ってどこ?」
「んー、多分あっちらへん」
丘のさらに高い部分を指差しているのだが、なぜか信用できない。
「とりあえず行ってみよー!」
「大丈夫なのか?」
自信満々なのが逆に不安。
仕方なしに指差された方向へ歩くのだが、運動に適していない俺の体はなかなか前に進まない。俺と同じかもしくはそれ以上細いクロンの歩くスピードがすごく速く見えるのは気のせいだと信じたい。
「空、遅いよー!」
肉体的にも精神的にも疲れ果てた(心の方はツッコミ疲れたってことで)俺の身体はまるで象のように鈍重だ。てかこの坂だんだん傾斜がきつくなってるような気がするんだけど。
「もう無理だぁ。休ませてくれー!」
その場に座り込む。我ながら情けないとは思うのだが、もう一歩も動けない。
「じゃあ先行ってるよーっ!」
そう叫びながらクロンは元気そうに駆け出していった。あいつ本当に前衛向きだな。俺後衛でいいっすか?
つーかあいつ一人で行っちゃったよな。途中で道迷わないか心配だな。
「……仕方ねえ。進むか」
いつまでも休んでるわけにはいかないし、異世界にまで来たんだから少しは体力つけなきゃな。戦いで死ぬのも嫌だし。
ゼェゼェ言いながら坂を上がっていくのだが、やはりだんだんきつくなっていってる。なんでこんなところに町を興そうと考えたんだろう。あっちの草原でもいいじゃん。
「あ」
ゴールが見えてきた。依頼所なのか解らないが、とりあえずそれっぽい巨大テント(軍事基地かも)が張られている。あと少しだ。
見事最下位でゴールすると、入り口の前にクロンが座っていた。おいクロン、そこ邪魔だぞ。
「遅いよぅ。早くしないと依頼とられちゃう」
「依頼ってそんなに少ないもんなの?」
「時と場合によるけど」
「まあそりゃそうだろうけど」
早速テントの中に入ってみる。依頼所はいかにもギルドっぽい雰囲気で、掲示板っぽい木の板が地面に突き刺さっていて、その板に依頼が貼り付けてあると、そんな感じだ。入り口から見て正面にはカウンターっぽいテーブルがあり、その奥にギルドマスターらしき人が。どうやら軍事基地じゃないようだ。少し安心。
「よう。いらっしゃい」
マスターっぽい人が話しかけてきた。
「見かけない顔だな。もしかして、外界からきたのか?」
「まあそんなところです」
「俺はこの依頼所を取り仕切ってるアレスだ」
「はあ、よろしくお願いします」
「この施設の利用方法について説明しておいたほうがいいか?」
「当たり前じゃないですか」
「じゃあまず依頼を受け方なんだが」
アレスは木の板を指差す。
「あの掲示板から依頼の紙を剥がして、俺のいるカウンターに持ってきてもらえればいい。あとはこっちで処理するから。終わったら報告を頼む」
「期限とかあるんですか?」
「決まってはいないが、なるべく早めに実行してほしい。だがあまりに報告が遅すぎると他のヤツに頼む場合もあるが」
「あと、すごい気になってるんですが、どんな感じの依頼が多いんですか?」
「薬の材料となる薬草の採取とか、モンスターの掃討とか、遭難者の救助とか」
そこらへんか。
「工事の手伝いとか」
「はいはい工事の手伝いね、ってマジであるんすか!?」
「何言ってるんだ。この依頼所で最も多いクエストだぞ」
「……なんか慣れないなぁ」
「ははは、冗談だよ」
クロンが「これだけ言っておいて」とか吹き込んでいたのが安易に想像できるんだが。
「早速クエストを受けるかい?」
「じゃあそうします」
俺は掲示板の方へ行き、【ヴァッサーファルの薬草採取】と書かれている青い紙を取り、カウンターへ持って行った。青いから簡単なんだろう。赤よりは。
「これにします」
「おお、随分と難しいのを選んだな」
「難しいんですか?」
「そりゃ滝付近に生えてる薬草を摘み取ってくる依頼だからね。これを受けて死んだ人の数は一体何人になることやら。はっはっは」
「笑いごとじゃないですよ」
アレスはクエストの内容が書かれてある紙にハンコを押し、ノートになにやら書きつけて、紙を俺に渡してきた。
「なるべく早めに頼むよ。死なないようにな」
ひとまず依頼所を出る。
「なあクロン、ヴァッサーファルってどこ?」
「えっとね、大分遠いとこ。歩いて三日くらい」
「……無事にたどり着けるかな」
「大丈夫だよ。私のいた村の丁度下らへんだから」
「余計心配なんだけど」
確か毎年橋の修理してるとこだったよな。
「一応聞いておくけど、大雨の時期ってだいたいいつぐらい?」
「うーんと、もうすぐかな」
「……もうすぐって?」
「三日後くらい」
「近っ! 着いたら丁度じゃん!」
「雨が降り出したら滝の所の足場が悪くなるらしいから気をつけてね」
「お前も行くんだよ!」
「え!? 私も行くの!?」
「当たり前じゃねえか」
こいつ、行かないつもりだったのか。
「えぇー、行きたくないんだけど」
「じゃあ聞いておく。受けたクエストって契約解除できんの?」
「基本的に、できない」
「諦めろ」
自分の命を諦めることになりそうだけど。
「ヴァッサーファルへは南東へ進めば行けるから」
「本当に? ちょっと地図で調べてみる」
えっと、ヴァッサーファルはどこかな……、あった。
「北東じゃねえか! 危ない危ない。危うく騙されるところだった」
「違うよそんなことないよ! 昔は南東だったもん!」
「そんなわけあるか!」
しかも近いし。歩いて三時間くらいしかかからないって。このアホ、地図を見れば誰にでも見破れるような嘘ばっかりつきやがって。
「じゃあ早速出発!」
「おいちょっと待て! 少しくらい休ませてくれよ!」
「そんなんだから体力がつかないんだよ」
そう言って先に走り出してしまった。仕方ねえからついていくか。疲れてるけど。
町出た頃には限界を超えたよ。疲労感を全く感じない。体が軽い。このまま天へ昇っていけそうだ。……滝に着くまでに死ぬってどういうことやねん。
しばらくすると、どす黒く汚い沼が見えた。
「ここか。お前が金を落としたっていう沼は」
「きっと私のお金はこの底無し沼の底に沈んでいるんだよ」
「底がないから底無し沼なんじゃないのか」
もし底があったとしてもわざわざこんな汚い沼に飛び込んで金拾うヤツなんていないよ。永遠にこの中に沈んだままなんだろうな。小判かわいそ。
そういえば、何か暗くなってきたな。そう思ったら、なんと森の中へ入っていた。いつの間にか。
「クロン、ここまで結構歩いてきたけどさ、徒歩以外に何か移動手段ないの?」
「あとは船とか馬車とか、瞬間移動とか」
「瞬間移動か。冒険に欠かせない魔法だな」
「でも五万年くらい修行を積んだ魔法使いじゃないとうまく扱えないって言われてるほどだから」
無理だろ。人の寿命を遥かに超えている。異世界人はみんな仙人なのか?
「素人が使うと移動先で体が再生されなくてそのまま死ぬから」
「その前にどういう仕組みなんだよ」
「話すと長くなるんだけど」
「構わん」
「えっとね、まず、対象の身体構造を全てデータ化して、移動先に送って、それを元に戻すっていう仕組み。はい終わり」
「短っ!」
でもなんとなく解った。ずいぶん科学的だな。
「というかクロン、なんでそんなこと知ってんだよ。嘘とか言うんじゃないだろうな」
「いや、魔法学校の終末試験の範囲だったから」
「終末試験って言うと、卒業試験みたいな?」
「ううん、終末試験は年に何回かあって、決められた点数を下回るとその生徒が処分されるっていう試験だよ」
怖っ! 受験者に終末が訪れる試験ってことかい!
「それでクロンはできたのか?」
「解答欄がずれて全部バツになった」
「よく処分されなかったな!」
「いやそうじゃなくて、処分されそうになったから逃げてきたの」
「マジかよ! そりゃ帰りたくないわけだ」
今回で処分されそうになったってことは、今までは全部合格だったってことだよな。本当にコイツ、何者なんだ?
「あ、あれだよ。私の村」
「村じゃないだろあれ! 眩しいくらいにネオンが輝いてるぞ!」
夜であることに気付かないくらい明るい。俺だって今まで全く気が付かなかった。ギャンブルの町だなどう見ても。
「あのさ、こんなとこから来たの?」
「まあね☆」
「……変なヤツに絡まれないといいけどな」
俺なんて異世界人なんだからな。気をつけなきゃ。
ま、こっちから見ればあんたらが異世界人だがな。