~2話~そこのアホ! 素振りをやめいっ!
イガさん回です。
俺が突っ込むのに早くも疲れ、ベッドで寝転がって休憩していると、クロンが俺の荷物(と言っても、財布と木刀っぽい杖しかないが……)をいじくり始めた。
「はい、そこ、人の荷物を勝手にいじくるんじゃない。」
「えー? 何で?」
「何でって……」
いや、この世界の常識では人の荷物を勝手に調べてもいいのか?
実際は多分、こいつが馬鹿なだけなんだろうな……
というか、異世界人が皆こんな風にアホだっていう可能性もないわけじゃ……?
魔法使いって、頭良さそうだし、神様から授けられるとか、そういう類の「職業」なら、
魔法使い(見習いから上がってくものだと仮定)になれる才能のある人間=頭が良い
だとしたら、こいつがこの世界の中で頭が良いほうということになってしまう……あ、でもそれはないか。宿の人は普通の人っぽいし。第一、世界中の人間がこんなんだったら10日で世界は滅びるな。それに、そもそもお金という概念自体生まれないな。
「って……」
「お前は何をしてるんだよ?!」
目を開けてみると、クロンが俺の木刀(あ、杖か)を持って、素振りをしている。運動音痴の俺が言うのも難だが、かなり速い。風切り音がそれなりに離れているのに聞こえてくるほどだ。何故今まで気付かなかったかというと、俺が掛け布団を被りながら考え事に没頭していたからだ。昔から何かを考えると周りが見えなくなるとか言われる。
こいつ、魔法使いより剣士の方が向いてると思うんだけどな……でも、俺が突っ込みたいのは……
「素振りするなら外でやれ! 地味に壁にぶつかってきてるだろ! そしてそれ俺の! それと、それ杖だから! 弁償する金の余裕なんかないから!」
素振りのスピードがどんどん速くなってきていて、このままだと確実に何か壊す気がする……
「これ、杖なの? 木の枝だと思った……なんで木の枝なんか持ってるのか不思議だったんだ……」
この見た目100%木刀の杖が木の枝に見えるって……こんなに整った木の枝があるか!
「そう、杖だ。そういえば、クロンは杖持ってるの?」
「ううん、結構高いんだよね。」
「そうなのか……」
「で、この杖、何の魔法が使えるの?」
一応魔法使いらしく何が使えるのか聞いてきた。
「えーと……」
全ての魔法、と言っても法螺話だと思われるだけだよな……いや、こいつなら信じそうだけど……
でも、こいつの場合、人にすぐ話しちゃいそうだよな……最高級の杖を遥かに上回る能力を持つ杖、そんなの持ってたら絶対狙われるだろ……
まだ魔力は一般人レベル、目は付けられたくないからな……
「ファ、ファイヤーボール?」
とっさに浮かんだありそうな名前だ。結構、初期魔法として使われてたりするし。……安易なネーミングとか言うなよ?!
「ファイヤーボール……なんて魔法あったかな?」
ヤバい! 無い魔法かも……
「まあいいや。」
こいつが考えない性格でよかった……あ、そうだ、一応釘を刺しとこう。……効き目があるかは分からないけど。
「これが魔法の杖ってのは秘密な。」
「うん!」
……大丈夫かな……?
そういえば、これからどうしよ……俺一人なら10日間何もせずにこの宿で過ごして魔力を倍にするって手もあったけど、クロンがいるから、5日で金が尽きる……それに、クロンのここへ来た目的も探さなきゃ駄目だしな……
そうだ、クロンに働かせりゃいいんだ! 何もせずに宿代奢ってもらえるなんて世の中甘くはない!
「……よし、クロン。」
「何?」
「金を稼いで来い!」
「えー? 嫌だよ、メンド臭い……」
「金払ってもらってるんだから働け……」
「お母さんに異世界人には思いっきりたかっとけって言われてたもん!」
「開き直るなよ!」
そういえば、この世界での一般的な金の稼ぎ方ってどんなだろ……? 聞いてみるか。
「そういえば、手っ取り早く稼げる方法って何かある?」
「んーとね、やっぱりクエスト受けるのが早いと思う。」
クエスト……異世界大好き人の血が騒ぐぜ!
……何でもない、言ってみたかっただけ。
「クエストねえ……どんなのがあるの?」
「えーと……薬草採取、モンスター討伐、工事の手伝い。」
なるほどなるほど、よくあるやつだよね……って工事ですか?!
「工事の手伝いなんかあるの?」
「私のいたとこだと、川が近いから、毎年大雨の時期は橋の修理したんだ。」
「ここもあるのかな……?」
「んー……分かんない。見に行こ!」
クロンはそういって部屋から出ようとする。
「見に行くってどこに?」
「依頼所だよ? どの村にもあるじゃん。」
俺は異世界からきたんだっつの……