ボクのバンビーノ
ボクのバンビーノ。小さなバンビーノ。
外に出ないボクが外に出るきっかけになるようにってマンマがボクにくれた小さな犬。
くりくりした目でボクを見つめて訴えるんだ。
嫌われ者のボクにもやさしいバンビーノ。愛葬のいい奴さ。
ボクが帽子を取ると散歩の時間だとわかって足元を跳ね回る。リードをつけられて外を歩き回るのが好きなんて変な奴だ。
ボクは帽子を深く被る。目を合わせなくてもいい様に。
いつもの道を二人で歩く。田舎のさびれた道は人がいないわけじゃないけどあまりすれ違わない。
夕暮れ道、はしゃぐバンビーノに負けないようにリードをしっかり握る。
バンビーノが大きな犬だったらモヤシなボクは簡単に引きずられて転んでしまっているだろう。
ボクはそりゃもう派手にすっ転ぶだろう。そしてバンビーノは振り返って不思議そうにボクを見つめるのだろう。
ボクのバンビーノが小さくって本当に良かった。ボクは小さなバンビーノに負けるほどではないから。
そこらの壁にマーキングをするバンビーノを見て溜息をつく。
バンビーノは結構見栄っ張りだ。どんなに頑張ったって、バンビーノが小さいんだって現実は変わらないのにね。
散歩にボクが持っていくのはエチケット袋と銀色の移植ゴテ。それだけあれば問題ない。
逢魔が時って言うんだよ。
いつかのボクが語りかける。
黄昏時はすれ違う人が誰かわからないから、もしかしたら魔物かもしれないんだ。
いにしへからのいいつたへ。
人と人との境が曖昧になると、人と魔の境もうやむやになる。だから逢魔が時って言うんだ。
ただの与太話だってボクは笑う。
魔物なんて本当にいる訳ないよ。それに、魔物がいたとして、態々ボクみたいなのを選んで襲うわけないじゃないか。
バンビーノが振り返る。何で立ち止まってるの、って顔をしている。
ボクは何でもないよ、と声をかけてまた歩きだす。
暗い時間になる様だったら懐中電灯を持ちものに入れた方がいいかもしれない。
さて、家にある懐中電灯にちゃんと使えるのはあっただろうか。とりあえず電池を入れれば使えるのがあればいいが。
大きいのじゃなくてポケットに入るような小さなのが良い。
バンビーノはぴょこぴょこと跳ねる様にして歩いている。
何がそんなに楽しいんだろう。是非ボクにも教えてほしいものである。
それとも、犬に生まれると散歩が好きになるのだろうか。だとすれば羨ましい話だ。
胸を張って好きと言えるものが生まれた時から用意されてるなんて。
バンビーノは猫が苦手だ。畏怖しているといってもいいだろう。
それはきっと、バンビーノが来るより前からうちにいる猫が原因なんだろう。
馴れ馴れしく先輩猫に近寄って手厳しく礼儀を教え込まれたらしい。
自業自得で片付けるべきか、ご愁傷様とでも言っておくべきか。いずれにしても、バンビーノは自分から猫に近づかないようになった。
猫が近づいてくるとぬいぐるみにでもなったみたいにぴたりと動かなくなる。
ボクは猫もバンビーノも好きだから、それを黙って見守る。
ボクより彼らが優先されるのは割と当然の事だと思う。
しかし、変な所ばっかりボクに似てくると思う。飼い主とペットは似るとはいうが、これはいかがなものか。